リアルイベント当日。僕は妹とデートする

34話 妹に部活を追放されたことを打ち明ける

 土曜日の朝だ……。


 本来なら、配信部のリアルイベント当日だから朝から忙しいはずなんだけど……。


 退部になった僕には関係ないから二度寝しよう……。


「お兄ちゃん。朝だよ。あーさ」


 妹の元気な声がして、僕の体が揺さぶられる。


「おはようのチューしないと起きれないのかな~? もーう。お兄ちゃんってば、甘えんぼさん、な、ん、だ、か、ら」


「そういうのいいから……まじで……。数年後、恥ずかしくて死にたくなるからやめとき……」


「ねえ、早く起きないと遅刻しちゃうよ。ガチで」


「今日は土曜日だって……」


「部活のリアイベでしょ!」


「あっ!」


 一瞬で目が覚め、僕は上半身を起こす。


「きゃっ!」


「痛ッ!」


 目の前に妹がいて激突してしまった。


「ねえ! いきなり起きないでよ。ガチでおはようのチューしちゃうところだったでしょ。というか、唇、当たってた!」


「いやいや、当たってないって!」


「べ、別に、お兄ちゃんになら……してもいいけど……」


 そんなことより……!

 しまった。配信部を退部になったこと、玖瑠美には言っていないんだった。


 ファッショへの興味が薄く、贅沢をしない妹ちゃんは、めずらしく余所行きのオシャレ服を着ている。白い大きめのニットに、学校指定のスカートのような見た目だけどウール地で厚みのあるスカートという、モノトーンの組みあわせだ。


 以前メロン艦長が『ポコラがチョコラテ(メーカー名)のクラシックガーリーなニットとミニを着ていて超可愛かった。最初JKがスタジオに遊びに来てるって勘違いしちゃった!」と言っていたのと、おそらく同じ服。


 ファンが服装を特定していたので、僕がそれを教えてオススメしたのだ。


 そんなオシャレ服を見て、思いだした。どうしよう。妹もリアイベのチケットを買ってる……。


 会場用のチケットは学校内で先行販売していて、玖瑠美は「お兄ちゃんが準備してるイベントだもん。絶対に行く!」と楽しみにしていた。


 ポニーテールも消えてる。多分、頭の後ろでまいてお団子にしている。


 よく見ると前髪も普段より薄くして透かしている。だいぶオシャレしてる……。


「ほらー。彼女ムーブかますためにお弁当作ったんだから。お兄ちゃんにラブラブな彼女がいると思わせて部員を驚かせようよ! 圧かけてこ、圧!」


「あ……。えっと……」


 いつまでも隠し通せるはずがない。正直に言おう……。


 僕は布団を押し入れに片づけると、下はパジャマのまま、上だけ制服を着る。


 部屋の中央に折りたたみテーブルを広げ、僕が正座をすると、玖瑠美は空気を読んで正面に座った。


「今日は妹のみんなに大事なお知らせがあります」


「ん~?」


「上山家の長男として活動して一七年の私、上山誠一郎は……。先日、所属していた配信部を卒業いたしました」


「え? 卒業って退部ってこと?」


 僕は姿勢を正して、YaaTuberの謝罪動画のようにお辞儀をする。


「報告が遅れましたこと、誠に申し分けありませんでした」


「なにやらかしたの? 女子のおっぱいつんつん?」


「そんな、おでんじゃあるまいし……」


「じゃあ、なにやらかしたの? 先輩の彼女に手を出すとか、女関係は絶対にないし……」


「絶大なる信頼ありがとう。……えっと。今年の三年生が卒業したら、来年は二年生の女子がタレントをやるから、男子部員は要らないんだって」


「なにそれ、そんな理由で辞めさせられるなんて、信じられない……」


 妹はきょとんとしたかと思うと、目元に涙を溜め始める。


「玖瑠美? え? なんで?」


 涙の玉は膨らんでいき、やがて決壊した。


「ううっ……」


「ちょっ。なんで泣くの。その反応はわりと想定外」


「だって……。お兄ちゃんが可哀相なんだもん……」


「待って、待って、待って。そういう話じゃなくない? 謝罪YaaTuberのフリをした僕が、配信終わったと思いこんで立ちあがって『下はパジャマじゃねえか! 真面目に謝罪しろ!』ってオチをつける流れだよね?」


「ひぐぅ……」


 玖瑠美がぽろぽろと涙を流して泣くから、僕はなんとか場の空気を明るくしようと茶化す。


「うぇっへーい! 僕を可哀相なやつ扱いするな、なのじゃ~」


「うええええん……。パパとママもいなくなっちゃうし、バイトクビになるし部活も辞めさせられるし、なんでお兄ちゃんばかり酷い目に遭うの……」


「玖瑠美……」


 玖瑠美はもう言葉にならず泣きじゃくった。


 ……そうだよな。元気なフリをしていても、両親がいなくなって寂しいのは、まだ癒えていないよな……。


 ごめんな。僕のせいで悲しい思いをさせちゃって。


 あと、ついでにもう一個ごめんな。


 僕が器量ある立派なお兄ちゃんだったら、こういうときお前を抱きしめて頭や背中をぽんぽんしてあげられるんだろうけど、そういうのできないタイプの兄でごめん……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る