33話 異世界に対象年齢を設定したら、ユウの体が突然消えていき……

「あ。言う順番がおかしいかもしれないけど、この世界、全年齢対象にしてね?」


「分かったのじゃ。……うっ!」


 ユウがいきなり胸を押さえて呻きだした。


「どうしたの? 胸がデカすぎて苦しいとか言ったら、うちの妹にぶちのめされるよ?」


「この世界を全年齢対象にしたら……」


「したら……?」


「乳首が消えたのじゃ! 見て! さっきまでぽっちが浮いていたのに、消えたのじゃ! ほら、見て!」


 ユウが胸を張ってずいっと、突きだしてくる。


 もちろん僕は顔ごと視線を空へ逃がす。


「知らんがな!」


「知らんがなじゃすまされないのじゃ。今後、ワシがお主の赤ちゃんを産んだとき、おっぱいをあげられないのじゃ!」


「なんで僕の赤ちゃん?!」


 ギュッ!


 いきなりユウが両手で僕の乳首をつまんできた。


 痛みは感じないけど、反射的に僕は叫ぶ。


「痛い! 痛い! やめて!」


「男の乳首があるのは不公平なのじゃ! 全年齢対応で女の乳首を消すなら、男の乳首も消すべきなのじゃ! 乳首差別! 乳首差別なのじゃ!」


「やめて! 分かった! この世界の対象を、乳首が許される年齢まであげていいから!」


「うむ、なのじゃ……。この世界の対象年齢は一四歳以上になったのじゃ。あ……」


「今度は何が……。あ……」


 すーっ……。


 ユウの体が透けて、向こう側が見えだす。


「わし、VTuberが生まれてから誕生した若い神だから……一四歳以下……」


「ユウゥゥゥゥゥッッ!」


 ユウの体は完全に透明になってしまう。


 パサッ……。


 下着が地面に落ちた。


「そんな……。ユウ……。嘘……でしょ?」


 今までユウがいた場所に、 手を伸ばしても何にも触れない。


「ユウ……?」


 ドサッ……。


 ショックに打ちひしがれた僕は地面に膝をつく。


「ううっ……。下着を残されても、想い出の品として持ち帰るわけにもいかないし困るだろ……」


「なーんちゃった!」


「知ってたけどね!」


 背後から声がしたから振り返る。普通に見慣れた半裸のユウが立っていた。


「死んだらこんな感じで消えて、初期位置で復活するのじゃ」


「あ、うん。実演、ありがとう。下着が落ちる演出はいらないかな……。所持アイテムだけ落とす感じで」


「えー。私の下着拾ったくせに~」


「え? あっ!」



 土:20

 下着:1



「インベントリに格納されてる! 不可抗力だよ! 吸っちゃっただけだよ!」


「吸った?! そ、そういうゲームじゃないのじゃ……」


「変な誤解しないで。吸ったっていうのは、アイテムに近づいたら勝手に入手しちゃうという意味で。うーわっ。解説文の『可愛いあの子が着けていた上下セットの下着。ちょっといい匂いがする……かも』がイラッとくる!」


「じろじろ見るなんて、エッチ……」


「見てるのは解説文ね!」


 僕は『インベントリから下着を取りだす』と念じた。


 右手に胸用の布、左手にパンツが出現した。


 ユウが嬉しそうに超至近距離から僕の顔面を指してくる。


「パンイチの男が女性用下着を両手に握りしめているーう!」


「不可抗力だからね?!」


「ヒューマン、楽しそうで何よりなのじゃ」


 パシャッ!


「え。なに、今の写真を撮ったような効果音」


「ゲームの想い出を残すためにスクリーンショットを撮ったのじゃ!」


「そんな機能要らないから! あ、いや、攻略で役立つ場面があるかもしれないけど、消して! 今の消して!」


「えー。どうしよっかなー」


「頼むて」


「答えはもちろん~。ノー! 嫌でぇ~す!」


 僕はエモート『むきー!』を選択する。


「むきー!」


 歯ぎしりしながら、腕をフリフリ、地団駄を踏んだ。


「とにかく、これ、返すから」


 僕は両手の下着をユウに渡した。


「死ぬと下着が増えていくから、売ってお金儲けができるかもなのじゃ」


「アイテム増殖バグでお金を稼ぐのはあるあるかもしれないけど、下着を売るのはあかんでしょ……。ねえ、というか、なんか眠くなってきたんだけど……」


 この眠気はゲーム内の眠気ではなく、本体の眠気だ。


 急速に意識が薄くなってくる。


「えー。もう終わりー?」


「うん。多分、もう意識が飛ぶ……。明日は土曜日だから、来れたら来るよ」


「分かったのじゃ。ユウは世界のスケールを小さくする作業がまだ途中だから、続きをしながら待っているのじゃ」


「うん。お願い。じゃ、おやすみなさい」


「それじゃ、また次回、お会いしましょう! チャンネル登録、よろしく~」


「うわっ、いきなり最後だけ配信者っぽい!」


 僕は現実世界に戻ってきた。


 やはり眠気が限界だ。もう、体が動かない。このまま眠って意識が飛ぶはず。


 そもそも消灯時間になってからゲーム世界に転移しているから、眠くて当然だよな。こればかりはしょうがない……。

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