32話 服の入手方法を検討する

 ブロックの檻から脱出した僕は深呼吸してから、ユウと向きあう。


「拠点よりも先に、服を作ろう。正直に言うと、ユウの格好がエロくて、ゲームに集中できない」


「わし、エロい?」


「ぶっちゃけ痴女」


「ガーン」


 ガーン!


 どこからともなくタライが落ちてきてユウの頭部に命中し、ヒヨコが舞った。


 ピヨピヨピヨ。


 これもエモートだろうか。


「僕もパンイチだし……。僕等が日本で海以外を歩いていたら、速攻で通報されると思う。だから、拠点も大事だけど服を手に入れよう。服はどうやって入手するの?」


「知らないのじゃ」


「え?」


「今は、ユウが管理しているけど、このゲーム世界のフレームワークを創ったのは前の配信神なのじゃ。じゃから、調べれば仕組みは分かるし仕様変更できるけど、現時点では知らないのじゃ。イメージとしては、ワシはセーイチロウに触れることができるからセーイチロウに痛みを感じなくさせたり、ジャンプできなくしたりできる。セーイチロウのグラフィックを腋毛もさもさにすることも、もちろん容易い。けど、この世界の何処かに魔王がいたとしても、ワシはまだ魔王を観測していないから、仕様変更はできないのじゃ」


「なるほど。つまり、触れる距離にあるものの仕様を変更できるという感じか」


「のじゃ。お主は、いい感じに整理してくれるのじゃ~」


「ふむ。となると、服の入手方法で考えられるのは……


 1.どこかにショップがあって売っている


 2.ゾンビのような人型モンスターを倒して脱がす


 3.人型じゃなくてもいいからとにかくモンスターを倒すとドロップする


 4.宝箱や壺やタンスから拾う


 5.素材を集めて自分でクリエイトする


 6.課金する


 7.クエストを達成すると手に入る


 こんな感じかな。あ。ユウに仕様を変えてもらって、ゲームの初期状態で服を着ていることにするのもありか」


「やだ」


「……え?」


「最初は下着にすると決まっているのじゃ」


「なんで……」


「配信したときに下着姿の方が視聴者の食いつきがいいし、配信者もトークを展開しやすいのじゃ!」


「うーわ……。そういうところは配信神っぽい発想……」


「お主は自分の顔で遊んでいるから微妙に恥ずかしく感じるのじゃ。キャラクターエディットはいつでも実行可能なのじゃ」


「そういう考えもあるのか……」


「それがパンツか別の物か、たとえ明言されていなくても、パンツっぽい物は必要なのじゃ! お主だって3Dのゲームで女の子を使って、カメラ視点を低くしたりするじゃろ?」


「……そ、それは」


「するじゃろ?」


「否定はできない……」


「正直で可愛いやつぅ~。というわけじゃから、下着スタートは必須なのじゃ。服の下に着るから、下着。パンツと呼ばなければ、それで良いのじゃ!」


「分かったよ。まあ、布面積が多めで厚手の生地だし、初期状態はこれで良しとして……。服の入手方法に話を戻そう。服が簡単に手に入るなら、初期状態が下着でもいいし」


「さっきお主が言った入手方法、もう、忘れたのじゃ……」


「チャットのログに残せば文字として確認できそうだけど、どうやってメッセージを送るの?」


「わしにメッセージを送りたいと念じるのじゃ!」


「やっぱ、基本的に念じる感じか……。じゃ……。ぬんっ!」


 僕は先程と同じことを念じてみた。チャットのログに表示できた。


「じゃ、これベースに検討しよう。先ず、モンスターが存在するか、コンピューター操作のNPCが存在するかどうかによって変わってくるな……。服の入手方法を整理すると……」



 ・この世界にNPCがいることが前提となる入手方法

 1.どこかにショップがあって売っている

 4.宝箱や壺やタンスから拾う



 ・この世界にモンスター(動物)がいることが前提となる入手方法

 2.ゾンビのような人型モンスターを倒して脱がす

 3.人型じゃなくてもいいからとにかくモンスターを倒すとドロップする

 5.素材を集めて自分でクリエイトする



 ・分類不能な入手方法

 6.課金する

 7.クエストを達成すると手に入る



「こうなるかな。モンスターを前提とする2、3、5は避けたいな……。一見すると簡単そうな5だけど、羊毛を手に入れるためにハサミが必要になり、ハサミを手に入れるために鉄が必要になり、鉄を手に入れるために石のツルハシが必要になったり別のエリアに移動する必要があったりする。もちろん、鉄の入手まではゲームの面白いところなんだけど、僕は可能な限り早く服をゲットしたい。となると、7だ! これを仕様変更してもらう」


「のじゃ~? NPCがいないのに、どうやってクエストを達成するのじゃ?」


「ふふっ。ゲームによっては、必ずしもNPCから依頼されるものだけとは限らないんだよ。『システム』が依頼主になるんだ。例えば『初めてアイテムを手に入れる』とか『ゲーム世界で三〇分過ごす』とか『木材を四個手に入れる』とか『石を四個拾うとか』。さらに言うなら、このクエストに従って行動すると、それがゲームのチュートリアルになっているといい。世界にのめりこみやすい」


「ほあぁ。セーイチロウは本当に頼りになるのじゃ」


「もっと褒めて!」


「いよっ! セーイチロウは本当に頼りになるのじゃ!」


「ありがとう! もっと!」


「セーイチロウ! セーイチロウ! 頼りになる男、セーイチロウ!」


「同じことしか言ってない! とにかく、僕は様々なゲーム配信を見ながら、指示厨にならないように耐えてきた反動で、今、色々言いたい」


「いよっ! いきなり始まる自分語り!」


「ゾンビゲーの画面に『装備を調えろ』と表示されていて、机に銃器が置いてあるのに艦長がポコラ達と一緒に『おっしゃ、いくぞ!』『オー!』と手ぶらで拠点を飛びだしてゾンビに襲われて、開始一分で全滅したのを僕は忘れない……。しかもそれが『死んだら即終了』配信だったから配信が一分で終わったよ……」


「いよっ! それがどうした!」


「ねえ、『いよっ!』の使い方、下手過ぎん?」


「いよっ! そんなこと初めて言われたのじゃ」


「僕も初めて、人に『いよっ!』が下手って指摘したよ。……とにかく、このゲーム世界はチュートリアルに従って行動していたら死なずにひととおりゲームシステムを学べるようにしてほしい。あと、道具を作って素材を回収するような、基本的なことを覚えたいよっ!」


「チュートリアルを無視した者には、逃れられぬ残酷な死を……」


「いや、まあ、そうなんだけど……。いきなりそんな邪悪そうな口調で言わんでも……。あと、冗談だと思うけど、ゲームだし、柔らかく死ぬようにしてよ? 画面が黒くなるだけで。血とか欠損とかもなしで」


「いよっ! 分かったのじゃ」


 本当に分かっているのか、ちょい不安だけど、まあ、駄目なときはその都度、指摘していこう。

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