31話 エッチな悪戯をされてしまう

「それじゃ、今日はセーイチロウのリスポーンポイントになる拠点を作るのじゃ!」


「あ。待って。ちょっと確認したいことがあるんだけど」


「のじゃ~?」


「なんか、現実世界でもゲーム仕様が適用されているっぽいんだけど」


「そうなの?」


「あ、この反応。知らない感じか……。なんかさ、現実でもジャンプできなかったし、インベントリが開けちゃった」


「むむむ。こっちのコピー肉体と情報が同期しているのかもしれんね。いったん、魂ケーブル抜いて挿し直す?」


「何その物騒な修正方法。怖いんですけど」


「のじゃ~……。不便がなければ、そのままで」


「魂ケーブルとやらの抜き差しが怖いし、まあ、便利と言えば便利だし、このままでいっかあ……。あっ。そうだ」


 僕は回収したばかりの土ブロックを積み重ねながら、説明する。


「のじゃ~?」


「えっと。ちょっと、これはなんとかしてほしい仕様があって……」


 僕は三方だけの箱を作った。


「ねえ、ちょっと、ここに入ってみて」


「え~。わしを閉じこめるつもり~? エッチなのは駄目なのじゃ~」


「そうじゃなくて。いいから」


「もー」


 ユウが土ブロックの間に入った。僕はユウの前に立つ。


「ジャンプせず、土ブロックを破壊せず、ここから出て」


「ん~?」


 ユウは僕の右と左を確認して、右側の方が少し隙間が広いと判断したのか、そこに体を割りこませて外に出ようとする。


 しかし、出れない。その場で歩くモーションをするだけだ。


「あれれ?」


「ほら。なんかさ、四方をオブジェクトに囲まれていると、動けなくなるっぽい。箱庭ゲーでもRPGでもよくある仕様だけど、これ、なんとかならないかな? 現実世界で四人に囲まれたら動けなくなる」


「現実世界で四人に囲まれる?! セーイチロウ、どんな人生送ってるん?」


「……確かに! 僕、凄く変なこと言った!」


「大丈夫? 元気出して。ほら。現実世界の辛いこと、ユウに相談していいからさ……」


「かつてないほど優しいのやめて! とにかく、電車とかバスとか困るかもだし、人間くらいのサイズのオブジェクトは押したら退かせるようにならないかな?」


「分かったのじゃ。じゃあ、そこで動かないでね」


「うん」


 僕はユウを外に出さないよう、立ち塞がる。


 ユウは前進し……。胸が僕の体に――。


 ずっと意図的に視線を向けないようにして、意識しないようにしていたから、実際のサイズはよく分からないけど、かなり大きかった気がするものが触れ――。


「待って!」


 触れる瞬間、僕は後方に下がった。


「わーい。ヒューマンが退いたのじゃ!」


「違うでしょ、今のは。僕が僕の意志で退いたの。そうじゃなくて、手で押して」


「えー。セーちゃんのエッチ。ゲームなのに興奮してるんだ」


「グラフィックとか触感とかリアルすぎるし、ゲームというより異世界転移だから、無理なものは無理でしょ。とにかくやり直し。戻って。手しか使ったらダメだからね」


「分かったのじゃ。……手で、シてあげるね……」


「なんか気になる言い方ぁ……!」


 ユウが土ブロックの間に戻り、僕が立ち塞がり、再開だ。


「じゃ。行くのじゃ。こちょこちょこちょ~」


「あははっ! ちょっ、待っ! そうじゃないっ!」


 僕は腋に突っ込まれていたユウの手を掴んで、引っぺがす。


「変わって! 僕が中」


「君が外」


「そう。……ん? 違う。僕が外じゃなくて、君が外」


「君が外、私は中、了解」


「入れ替わるだけの単純なことなんだから、ややこしくしないで」


「分かったのじゃ。えいっ!」


「痛いッ!」


 あ、いや、反射的に叫んだだけで痛くはないんだけど、いきなり頭突きを喰らってしまった。


「……あっ! 目の前に私がいるのじゃ! 私達――」


「入れ替わってるー! って、入れ替わってないから。そんなことのためだけに頭突きしないで! 立ち位置を変えるの。ほら」


「ん」


 僕達は立ち位置を入れ替えた。


「むふふ」


「なにさ、その意味深な笑い」


「セーちゃん。できるの?」


「え?」


「私の、か、ら、だ。触って、押しのけて」


「……ッ?!」


「目の前にいる女の子を押しのけるために、女の子の柔らかいところ、力いっぱい、押、し、て」


「なんで、そんないきなりセンシティブな言い方するの?! え?! 待って、本当に、これ、僕閉じこめられてる?!」


 ヤバイ。左右と後方は土ブロックで逃げ場はない。


 うっかりしてた。妹を退かす時みたいに、肩とか二の腕とかを押せばいいかと思っていた。


 けど、ユウはいまだに下着姿だから、押しのけようとすると絶対に肌を触ってしまう。


「ねえ。ユウが創ってるこの世界からバンされるセンシティブライン、探ってみる?」


「く、ううっ……」


 どうする。


 ここはゲーム世界なんだし、気にせずユウの体に触れるか?


 でも、僕は将来的にこの世界で妹に配信してもらいたいと思っているし、なんなら妹のVTuber活動をユウにもコラボで応援してもらいたいなーなんてことも、ちらっと思ってる。


 悪い言い方になるけど、利用する気まんまん、くっくっくっ、てやつだ。


 だから、ここで僕がユウの肌に触れたら、数ヶ月後か数年後に――。


『今日は配信神のユウちゃんがコラボに来てくれたよー。よろしくねー』


『よろしくなのじゃー』


『質問が来てるよ。えっと「お二人が知り合った切っ掛けを教えてください」だって』


『えへへ。クルミんのお兄ちゃんにおっぱいを鷲づかみにされて揉みしだかれたのが切っ掛けなのじゃ~』


『え。何それ。お兄ちゃん、どういうこと?!』


 なんてことになったら、地獄だ。


 以前、Vの誰かが『人間の肌は繋がってるでしょ? だから手もおっぱいの延長線にあるわけ。分かる? つまり握手はおっぱいを揉むことに等しいんだよ?」みたいなことを言っていた。


 同じような屁理屈で、僕がユウの胸に触れたことにされてしまうかもしれない。


「ううっ……。僕の負けでいいから許して」


 僕はユウに背を向け、周囲の土ブロックを回収して脱出することにした。


「あれれ~? いつ、なんの勝負になってのかにゃ~?」


 ユウが背後からツンツンつついてきた。


 悔しいッ……!


 あと、そこは、ちょっとエッチなラブコメみたいに、おっぱいを当ててきてよ……!


 あ、いや、僕がエロいからそういうのを期待しているわけではなく、定番のオチってやつがあるでしょ!

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