27話 コンビニに車がダイナミックエントリーする
「はあ……。新しいアルバイトを探さないと。困ったな。自宅から通える距離で、学校が終わったあとに行けるアルバイトって、この辺り、他に何があるんだろう……」
僕はとぼとぼと歩く。
すると、急に視界が明るくなった。車のフロントライトだ。
反射的に顔を上げると、軽トラックと、運転席の外国人が見えた。
軽トラックは急に進路を変え、車道から速度を落とさずに歩道を越え、驚いてすくんでいる僕の後ろを直進した。
そして――。
ガシャアアアアアアアアアアアンッ!
派手な音をまき散らした。
いわゆるダイナミック入店だ。軽トラは自動ドアをぶち破って、コンビニ内に入っていた。
「えっと……」
いきなりのことで、僕は混乱していることを自覚できるくらい、混乱している。
とりあえず、僕が退店したときに客はいなかったはずだし、良かった。
あと、僕も事故に巻き込まれなくて良かった。
さっき一瞬見えた外国人が、昨日僕をボコった二人組だった気がしたけど、気のせいだろうか。
えーっと……。
事故だから警察に通報するんだよね?
店内を覗いてみたところ、血まみれで倒れている人はいない。
店長や外国人が何か叫んでいるし、意識はしっかりしていて元気なようだ。
必要なら店長か新人が通報するだろうし、僕は何も見なかったことにして帰るか。
あ、いや、それはさすがに薄情?
一応、シフト全消滅しただけで、まだここのアルバイトだろうし、通報しなかったら店長に嫌みを言われたり責任を押しつけられたりするかもしれない。
当事者達は動転しているだろうし、僕が通報した方がいい。
でも、こういう場合、僕のスマホで通報していいの?
ここの住所、知らないんだよなあ。駅近くのコンビニって他にも有るから、警察に説明しづらいし……。
お店の電話からなら自動で住所とか伝わるんだろうか。
僕は店内に入り、店長には声をかけづらいからバックヤードの方へ向かう。
ちょうどその時、着替え終えた新人アルバイトが出てきた。
「なんすか、今の、車が突っこんできたみたいな音」
「あ。ガチで車が突っ込んできたので、通報した方が……」
「で、で、電話。どこ?」
「店長がパソコンしてる机の上に……」
「どこ。教えて。つか、通報して。うち、無理」
「あ、はい……」
僕は事務室に入り、何故か電話の位置が普段と違って少し気になったが、受話器を取る。
その際、コードが引っかかって、机にあった見知らぬ箱が落ちてしまったが、先ずは警察に通報した。
初めてのことに緊張したが、僕はなんとか警察に店名と状況を伝えた。住所は自動で伝わっていた。助かるぅ~。
新人バイトさんが微笑みながら、肩をぺむぺむと叩いてくる。
「いやー。通報ありがとね。さっきは嫌な女みたいな態度して、ごめん」
「あ、いえ、別に」
「君、いいやつピだね。前のお店、男に言いよられてやめちゃったから、警戒しちゃったの。マジメンゴ。略してマジメゴ」
「あ、はい」
いいやつピ?!
ピって何?!
僕はさっき落としてしまった箱を拾う。蓋が開いていて、中身は空だった。こんな物を置くために電話の位置を変えたのか。意味が分からん。
「ん?」
「どうしたっす?」
床にはスマートフォンが落ちていた。僕の使っている機種とは違う。
「えっと……。これ、落としました?」
「んー。うちのじゃないよ」
「あ。じゃあ、店長のかな。……あ」
ここで、僕は「まさか」と閃くことがあった。
この、閃くまでの洞察力は大したものだと思う。事故を冷静に通報したことといい、今日の僕はイケてた。
けど、閃いたからといって、それを自分で確かめる必要はなかったのだ。
スマホは録画中だったから、停止して、シークバーを操作して数分前の映像を表示した。
大学生のお姉さんが着替えているところがバッチリ映っていた。間違いなく、盗撮だ。
「……!」
「どうしたっす? え? まさか」
「あ、はい。すみません。確認してください」
僕はスマホを新人さんに渡した。
「うーわ……。うちじゃん、これ……」
「ご、ごめんなさい……。あ、いや、僕が盗撮したという意味ではなく、最初からあなたに渡しておけばいいのに僕が確認してしまったということで」
「うん。それは分かるし、大丈夫」
「警察が来たらそれも一緒に……」
「うん。そうする。あー。新しいバイト探さなきゃーっ。今月、キツいのに―」
僕達は箱だけ元の位置に戻して、盗撮スマホはいったん、僕が使っていたロッカーの中に隠しておいた。それから、何も知らないフリをして店内に戻った。
どうやら、外国人は車を運転して逃げようとしているらしく、バックしようとして入り口脇の壁に激突していた。店長はレジ台に隠れて何か喚いている。
こういうとき、何をすればいいんだろう。事故の目撃者として、帰ったらいけないよね?
新人アルバイトが写真か動画を撮り始めたから、僕も、撮っておくか。
SNSにあげるつもりはないが、あとで玖瑠美に見せてあげよ。
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