25話 何部? ビビデ、バビデ、部ぅ
「先輩は何部ですか?」
来た! この質問! 人から何部か聞かれることなんてないと思いつつも用意しておいた答えが、僕にはある!
「ビビデ、バビデ、部ぅ~♪」
「ビビデ、バビデ、ブゥ~♪」
神谷ちゃんノリいいな! そういや女子高生ってたまに教室や路上でもいきなり歌いだすよな!
「実際は何部なんですか?」
「配信部だよ」
と口にしてしまってから、退部になっていたことを思いだす。
「あ。訂正。配信部だった……」
「もう引退して受験勉強なんですか?」
「あ、いや……。そういうわけじゃなく……」
校門を出て左に曲がると、神谷さんも同じ方向へ来た。
となると、会話はまだ続く。
俺のターン!
手札を捨てて、山札からカードをめくる!
会話カード『部活』ッ!
くっそ。トークデッキが弱すぎて、神谷ちゃんに使用可能な話題が、部活トークしかない!
適当なことを言うのも正直に言うのも気がひける。けど、後輩相手に情けないことを言うのも気がひける。
一般道路の歩道だから幅は狭く、僕達は強制的に友達の距離で並んで歩くことになる。神谷さんが車道に出てしまわないように、僕が車道側に立つ。
会話せずに歩くのは不自然だし気まずい距離だ。
早く何か言わないと選択肢が出てきてしまうかもしれない。だから、僕は都合のいい事実のみ切り抜いて説明する。
「配信部は来年から女子がタレントをするから、杞憂民潰しのために男の僕はクビになったんだ」
「あっ。彼氏って誤解されるやつですか」
「うん。柔道部って、全国大会を主催するような、柔道連盟みたいな組織があるでしょ?」
「はい。あります」
「配信部にも、そういう感じの組織があって、そこが各学校の配信部の活動実績に応じて、AランクとかBランクとかつけるんだけど」
「ゲームみたいですね」
「うん。多分、ゲームみたいなノリを意図的に導入しているんだと思う。……で、うちの配信部が今、調子がよくてAランクに認定されて。そんな時期だから、女性タレントの周りに男性スタッフがいるのは避けたい、みたいな」
「えー。なんか、それ納得できなくなくないですか?」
「『なく』が多くない?」
「先輩は一年生の頃から部活を頑張ってきたんですよね? それなのに二年の最後で辞めちゃうなんて勿体ないです」
「うん。でも、しょうがないし……」
神谷さんがさっきより聞き上手になっているというか、こっちの言葉を上手く引き出してくるというか、やはり、印象が違うな……。部活後で疲れているのかな?
「今日は何をしていたんですか?」
「やることないから図書室で読書」
「あ。だったら、柔道部に入りませんか?」
「無理よりの無理のかたつ無理。僕の運動能力じゃ柔道なんて無理だし、二年の終わりから気軽に始められるものじゃないでしょ?」
「男子じゃなくて、女子部のマネージャーです」
「マネージャー? それって、選手のスケジュール調整したり、動画にゲスト出演したり、ポンコツエピソードを提供してタレントのトークデッキを強化したり~?」
「はい。そういうのです」
「VTuberかよ! 違うでしょ。ドリンクを用意したり、おにぎりを用意したり、掃除したり練習試合を他校に申しこんだり備品の不足がないかチェックしたり、洗濯……は女子だから無理だとして、なんか、こう、運動部のマネージャーってそういうのでしょ。やったことないから知らないけど」
「あははっ。そうでしたっけ」
「そうだよ」
「でも、部のチャンネルを作って練習の様子とか試合とかを配信しようって話はあるんです」
「あ。そうなんだ。女子柔道部に僕が入部するわけにはいかないけど、動画サイトの登録方法とか動画のアップロード方法とか、そういう雑用なら言ってくれれば手伝うよ」
「本当ですか? 期待しますよ? 女子柔道部みんなメカ音痴ですし」
「うん。メカ音痴ってフレーズが出てくる時点で、想像以上の機械音痴でヤバ過ぎ謙信……」
「でも、別に先輩が女子柔道部に入ってもいいんじゃないですか? 野球部のマネージャーは女子ですし。部活のマネージャーは性別が逆じゃないんですかわらのさねみち」
「野球部の例しか分からないからなんとも……」
「うちは部活必須ですし、行くところなかったら是非、来てください」
「誘ってくれるのは嬉しいけど、そこは、ほら。神谷さんが良くても他の部員が男子を嫌がるかもしれないし」
「そこは確かめて杞憂民潰ししておきます」
「あ、はい」
「それじゃ、私はこっちなんで!」
「あ。うん。お疲れ様」
「お疲れ様です!」
神谷さんはペコリというよりギュンッと頭を下げると、ダーッと走っていった。
元気だなあ。
女子柔道部のマネージャーをする自分は想像できないけど、配信の手伝いみたいなのならしてもいいかも。
あ。振り返った。またギュンッ、してダーッした。
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