16話 僕は不良4人組に囲まれる。待って。昨日のゲーム仕様が適用されてる?!

 川下先輩が僕に気づき、四人組に何かを伝えてニヤニヤしている。


 悪口でも言っているのだろうか。


 僕は先輩達に関わらず、離れた位置をキープして校門を潜ろうとする。


 しかし――。


「おーい。上山ぁ~」


 四人組が近づいてくる。明らかに不良だ。髪を染めてピアスをし、制服を着崩している。


 僕の他にも上山という生徒がいるのだろう。僕は四人組を無視して早歩きで進む。


 ガッ!


 え?


 一人が僕に近寄ってきて、肩に腕を回してきた。


 そして小声で囁く。


「騒いだらぶちのめす」


 待ってどういうこと。


 とっくに校門をくぐり抜けていた川下先輩は僕達に背を向け、そそくさと去っていった。


 明らかにチー牛キモオタの僕が不良グループに絡まれているのに、校門脇に立つ生活指導の体育教師は何も言わない。


 僕は不良に肩を組まれたまま、校門を潜る。


 体育教師が僕達に気づくと、僕の肩に腕を回している不良は、顔の横に手を掲げる。


「先生、ちーっす!」


「おはようございますだろう、里中」


「へへへっ。さーせん」


「ピアスを外せ。卒業式までに髪を黒くしておけよ」


「はーい」


 信じられないことに、体育教師は不良達と和やかに言葉を交わした。


 言葉では注意しているんだけど『問題児ほど可愛いもんだ』とでも言いたげな雰囲気だった。


 いや、もしかしたら、僕が不良だと決めつけているだけで、この四人組は気さくな人かもしれない。


 そんな、信じてもいない可能性を心の片隅に残しつつ、僕は不良達に連れられて、人気の少ないところへと向かった。


 移動先は武道場の陰だった。掃除当番だから、僕はここによく来る。


 まさか、この不良達もこの辺りの掃除当番で、今日は臨時で朝から掃除するのか?


「川下から聞いたぜ。お前、配信部の活動費二〇万盗んだんだって?」


「え?」


 そんな突拍子もない話が、どこから出てきたんだ?


 配信部の部費は銀行口座に入っていて、現金では管理していない。機材や備品を購入する時は、全員の同意のもとで顧問の先生に購入を依頼する。だから、部費を盗めるはずがない。


「僕はお金を盗ったりしてません。部費は顧問が管理しているから盗んだりできません」


「あー。ふかしてんじゃねえぞ。なんでもいいから、金、出せよ。下谷」


「下谷じゃなくて、上山だって言ってんだろぉぉんん? ああん?」


 あっ。やべっ。海賊VTuberがよくやってるキレ芸が出てしまった。


「なに、お前。生意気じゃん。随分と余裕だけど、状況、分かってる?」


「空気読めないってよく言われますね。四人に囲まれても平然としているクソ度胸に男惚れして『おもしれー奴。気に入ったぜ。今後、困ったことがあったら俺達に言えよ』みたいな展開にしてくれません?」


「あ? 早口でなに言ってんだ? 聞き取れねえよ。ビビッてんのか? さっさと俺等に金出すか、通報されて警察に捕まるか選べよ」


 くそっ。こうなったら戦うしかないのか。


 もちろん俺は抵抗する。


 この……拳で!


 群れなきゃ何もできないザコ不良め。


 こんなやつら、一対一なら絶対に負けない。キリッ!


 僕はアルバイトで、飲み物がたくさん入ったケースを何度も運ぶから、毎日筋トレしているようなものだ。腕力だったら負けないはず。


 だけど、四対一で囲まれたら、苦戦は必定。どうする……。


「つうわけでさー、下谷君さー。はよ、金、な? 三〇万持ってきたら、通報しないように俺達から川下に話つけてやるからさ。逆らったらどうなるか分かるよな?」


 バシッ。


 不良グループの誰かが背後から蹴ってきた。


 さいわい当たったのがお尻だから痛みはない。


 バシッ。


 また蹴ってきた。痛みはない。


 くっ……。


 このまま殴り合いになるのか?


 だが、アルバイトで鍛えた俺の腕力は、既に並みの高校生を遥かに凌駕している。喧嘩をすれば、この不良達に深刻な怪我をさせてしまうだろう。


 格闘技チャンネルの動画を見たことのある俺は、人体の急所も把握している。


 だから、先に暴力を振るうわけにはいかない。


 ドンッ!


 正面から肩をド突かれた。何度もド突いてくる。


「修行か? お前等、相撲レスラーでも目指してんのか?」


「さっきから生意気だな、お前!」


 ドンッ!


 なんだろう、これは。義務ド突きか?


 まあ、すべて、ノーダメージなんだが。


 というか、僕はミリも揺るがない。


 どうやら、僕が柱のごとく微動だにしないから、不良はムキになって何度もド突いてきているようだ。


 まさか、本当に僕はアルバイトによって強くなりすぎたのか?


 なんか、視界の下の方に赤いハートが六個でてきて、右端のハートの輪郭がパカパカ点滅して、僅かに小さくなった。


 あ。痛くはないけど、ちょっとダメージを受けているっぽい。


 って、待って!


 ねえ、これ、昨日のゲーム仕様が残ってない?


 いくらなんでも、まさか……。


 フンッ!


 僕は不良を無視してジャンプしてみた。というか、できない!


 フンッ!


 駄目だ。やっぱりジャンプできない。


 間違いない。何故か、昨日のゲーム仕様が適用されたままだ。だからド突かれても痛くないし、ジャンプもできない。


 ということは、まさか。


(インベントリ、オープン!)


 僕は心の中で、アイテム一覧を見たいと念じてみた。



 レッドベリー:2

 土:1



 見れた!


 間違いない。昨日のゲーム仕様が現実世界に適用されてる!


 さすがに不良達も僕を殺すつもりはないからパンチの威力が低く、何発か喰らっても、ハートが僅かに減っただけ。


 ……痛くないなら怖くないし、人が大勢いるところまで逃げるか。


 僕はその場を去ろうとするが……。


 移動できない!


 脚は動いているし、なんなら全身が移動モーションになっているんだけど、僕はその場に留まり続けている。


 四方を不良というオブジェクトに囲まれているから、移動できないんだ!


 隙間はあるのに、ゲーム仕様のせいで移動できなくなってる!

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