異世界転移

8話 センシティブな格好をした外国人女性が現れた。絶対やべえ人だ!

 動画の長さ……三時間?!


 ど、どうしよう。


 視聴回数が0ということは、ユウは誰も見ていないのに、三時間も僕を待ち続けているって……コト?!


 怒られるかもしれないと、恐れている場合ではない。


 すぐに謝らなければ。


「お兄ちゃん。そろそろ電気消すー」


「うん」


 僕と玖瑠美は布団に入り室内灯を消した。


 それから僕は配信のサムネイルをタップして、再生を始める。


 スマホの光が広がって僕の視界を覆い尽くした。


 何も見えない真っ白な空間だ。


「うぇっへーい! 戻りましたなーのじゃっ!」


 僕は、ユウの挨拶を真似して、敢えて明るくしてみた。


「……」


 返事はない。しかし、なんとなく気配を感じるというか、ユウに声が届いているような気はする。


「遅れてごめんなさい……。えっと……。僕は一九時から二二時までコンビニでアルバイトしていて……。だから、戻ってくるのが遅れました。ごめんなさい」


「……嫌になったわけじゃないの?」


 拗ねたような声だ。けど、怯えた子猫の鳴き声のようにも聞こえる。申し訳ない気分がこみあげてくる……。


「……うん。嫌になってない。本当に、ごめん」


「……じゃあ、許す」


「ありがとう」


 良かった。許してくれた。けど、申し訳なさが残る。


 何をすればいいのかよく分からないけど、これから挽回していこう。


「うぇっへーい!」


「うぇっへーい!」


「では、ゲーム開始なのじゃ!」


 ……ところでなんのゲームなんだっけ?


 そう思った次の瞬間――。


「あれ?」


 僕は草原に立っていた。


 草原?


 草原って……。


 一瞬混乱するが、草原は草原だ。


 それ以上でも、それ以下でもない。


「本当に異世界転移だ……」


 僕は首を振って視線を動かす。


 草原の先は、全方位が小高い丘か森に囲まれている。


 太陽の位置から察するに、北と東の彼方に、高山があるようだ。


 そよ風が肌をくすぐってくる。幻ではないリアルが僕を包み、五感を刺激してくる。


「思ったように体が動くし、微妙に寒い……」


 それにしても、なんか体に違和感がある。


 なんだろうと思って首を曲げて視線を下げると、僕はパンツしか穿いてなかった。


「パンイチで草原に放置されるって、なんのゲーム?! サバイバル系?!」


 わけがわからないけど、ここは開放的すぎてちょっと辛い。


 南の丘を登って周囲の地形を確かめたいという思いはあるが、東に少し行けば森があるし、あっちに行くか。


「ここが『マインクラフォト』みたいに素材を収集してアイテムを作成していくゲームなら、とりあえず木を叩いておきたい……。ゲーム実況者の誰かが言っていた。『森にはすべてがある』――と」


 ということで、僕は東の森へ向かうことにした。


「クラフト系のゲームなら、最初に作るのは作業台だよな……。うわっ!」


 思わず声を漏らしてしまった。だって、視界の左下にいきなり青い枠と白い文字が表示されたから。


「なんだこれ」



 ユウ:とりあえず合流したいから動かないで



「まるで、ゲームのチャットだ……」


 手を伸ばすが触れない。貫通した。


「なるほど。確かにゲーム世界っぽい……。『動くな』か。どうやって返事するんだろう」


 僕は言葉どおり右も左も分からないから、ユウからのメッセージに従うことにした。


「ユウは最初に『ワシが配信しているゲーム世界』とか言っていたよな? ちょっと記憶が曖昧だけど、ユウ視点で何処かに配信されている可能性がある……。となると、出演者として、面白くなるように立ち回る必要があるな」


 たぶん、僕に求められているのって、そういうことだ。



 ユウ:あ。見えたのじゃ。イエーイ!



 向こうからはこっちが見えたようだけど、こっちからは見えない。


 ということは後ろか?


 僕は映えを狙って、ダンサーのように華麗に鋭く振り返り、ポーズを決める。もし、生配信じゃなくて、あとで動画に編集するなら、いい感じの効果音でも入れてくれ!


 ?!


 五〇メートルほど斜め後方の丘の上に、下着姿の銀髪女がいた。


「なんで?!」


 パンツだ! 痴女だ! 露出狂だ!


 ワンチャン水着の可能性もあるけど、距離的に判別不能。


「やべっ。こっちに近づいてこようとしている」


 絶対に関わったらいけない人だ。僕は痴女とは逆の方向へ逃げだす。

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