夜陰の闇

 准が動画サイトで見つけたその動画は、夜陰の洋館T邸で昇が死亡した時の様子を録画した、室内の監視カメラの映像だった。

 どうしてこんなものがネットに上がっている?

 准はその動画を投稿したチャンネル元を調べた。動画主のハンドルネームはランダムなローマ字と数字の羅列で、その動画以外には一切のコンテンツがなかった。情報がまったくない。

 例の動画のページに戻る。既に六千以上の再生数があった。それだけの数の人間が「昇の死」を目撃したことになる。

 准はその動画のコメント欄を見た。


『これマジのやつ? やばくない?』

『フェイクじゃないの?』

『この部屋どっかで見たことある気が』

『夜陰じゃない? 新しい物件のやつ』

『いよいよ夜陰で人死んだのか?』

『この動画流出させたの運営か? だったらすごいな』


 しばらくすると、動画の視聴ができなくなっていた。再度動画のページを読み込むと、動画が削除されていた。

 動画サイトのトップに戻り、他の動画を探す。またそれらしいものを発見し、動画を再生した。

 先ほどとは違うアカウントのチャンネルだが、動画の内容は同じだった。准は何度何度も首が飛ぶ昇の映像を目にした。


『またあるよ。やばいな』

『霊よりも夜陰が怖い』

『この人見たことある。心霊のなんか』

『アマミヤの人じゃない?』


 もはや死んだ人間の素性さえ特定されつつあった。

 その動画もすぐに削除された。しかしこれではイタチごっこだ。またすぐに何者かが動画をアップする気がする。

 誰がこんなことをした? 夜陰の松丸か? 何のために?

 誰にどんな目的があるにしろ、許せない行為だ。昇の死を見せしめにするなんて。

 准は松丸に電話をかけた。

 あまり期待はしていなかったが、電話は繋がった。

『はい』

「雨宮です。少し前に夜陰のイベントに参加した」

『ああ。雨宮さん』

「動画見ましたか?」

『ネットのですね。はい。ちょっと大変なことになっています。対応はしてもらっているんですが』

「どういうつもりですか?」

『何がですか?』

「あなたの仕業でしょう?」

『そんなわけないじゃないですか』

「あれは監視カメラの映像だ。あなた以外に考えられない」

『まあそう考えても仕方ないですね』

「認めたな」

『僕はやっていませんよ。どうしてそんなことするんですか? あの動画のせいでイベントのキャンセルがどんどん出ているんですよ』

「キャンセル?」

『ええ。商売上がったりだ』

「人が死んだのにまだイベントを続けてるのか?」

『まあ、せっかく曰くがまた一つ増えたことですし』

「イカれてるな」

『では忙しいのでこれで』

 通話が切れた。

「くそっ!」

 准は壁に向かってスマートフォンを力いっぱい放り投げようとしたところで、どうにか思い留まった。

 なんて奴だ。あの動画のせいで夜陰で人が死んだ噂はあっという間に広まるだろう。

 あいつは煽っているように思える。

 確かに刺激的なコンテンツだ。実際に参加者が死亡した幽霊屋敷。准も当事者でなければ興味を持っただろう。

 まさかこれが目的で昇を殺したのか?

 だとしたら狂っているとしか思えない。

 ここ数日憔悴し切っていた准だが、やるべきことができた。

 どうして昇が死ななければならなかったのか。

 昇の死の原因と、夜陰の闇を暴く。

「あいつの仮面を剥がしてやる」

 准はそのことを胸に決めた。

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