監視カメラ映像

 松丸は待機部屋の状況を見定めたのち、すぐに警察へ連絡した。

 准はその松丸の対応を疑問に思った。

 どうしてそんなにあっさりしている? 人が死んだんだぞ。しかも首がちょん切れて。まったく動揺した素振りがない。もしやこいつが昇を殺したのか?

「雨宮さん。これ以上は続行不可です。今夜の夜陰のイベントは終了します」

 こいつは何を言っている? そんなわかりきったことを。先に他に言うことはないのか?

「この部屋はあまりよくありません。警察が来るまで外の車で待っていましょう」

 昇をこの状態のままにしてその場を離れろと言うのか? せめてセロテープで結合して。

 その時准の目の前を白いもやのようなものが漂った。少し焦げ臭いにおい、そして線香のようなにおいもする。それは煙のようだった。

 准はライトで照らして煙の元を追う。テレビ台のほうからだ。テレビ台の左右に呪物の人形が置いてある。その二つの人形から煙が上っていた。

 准は人形に手を伸ばした。

「雨宮さん!」

 松丸の鋭い制止の声が響いた。

「触ってはいけません」

「どうして?」

「この部屋から出ますよ」

 准は挑発的に松丸の狐面にライトの光をかざした。

「ふざけたお面つけやがって。お前が昇を殺したのか?」

「雨宮さん、落ち着いてください」

「お前は妙に落ち着いてるな。ビビりだったくせに。本性を現したか?」

「雨宮さん。ここで何が起こったのかは、すぐにわかります」

「どういうこと?」

「監視カメラです」

 松丸は部屋の隅に設置されている監視カメラを指差した。

「今からその映像を確認します。それは警察にも提出するでしょう」

「早く見せろ」

「外に行きますよ」

 松丸は有無を言わさず部屋から出ていった。准もついていくしかない。

 部屋を出る際、准は一度部屋の中を振り返った。

 デスマスクのように表情が固定された昇の顔が食卓にのっている。准はそこからすぐに視線を逸らせた。見ていられない。どうしてこんなことに。

 松丸を追って屋敷から出た。

 松丸は車の近くに立ってスマートフォンを操作している。

「雨宮さん」

「なんだ?」

「雨宮さんと平田さんは、途中で一度車まで戻ってきましたよね。それから雨宮さんだけが屋敷に入っていきました」

「ああ。昇は体調が悪かったから」

「その後少しして、平田さんも車から出て屋敷に入っていったんです。僕はその様子を自分の車の中から見ていました」

 だから昇はあの部屋にいたのか。でもどうして入ってきたのか。

 もし自分が屋敷の玄関の鍵をかけておけば、昇は中に入ってこられなかった。そうすれば、昇が死ぬこともなかったかもしれない。自分のせいで昇は死んだのか?

「では、監視カメラの映像を再生します。見ますか?」

「ああ」

「ショッキングな映像になるかもしれませんよ」

「昇がなんで死んだのか確かめないと」

 松丸がスマートフォンで待機部屋の監視カメラに録画されていた映像を再生した。


 部屋の隅のやや上方の角度からの映像。暗視カメラのようだ。画面の左上に日付けと時刻が表示されている。時刻は一秒ごとに数値が増加していく。その時間に録画された映像だと確認できる。

 音がして、部屋の入り口のドアが開いた。部屋に昇が入ってきた。

 昇はドアを閉めた後、何もせずにただぼーっと突っ立っていた。明らかに普通の様子ではない。ライトすら持っていない。

 しばらくすると、昇は部屋の中を歩き出した。そしてまた止まると、再び直立不動の状態になる。正常な意識が薄れている状態に見える。


ドクッ


 心臓の鼓動のような音が鳴った。


ドクッ ドクッ


 一定間隔で音が鳴り響く。准が地下にいた時に聴いたものと同じ音だ。それがよりはっきり響いている。

 この音は何だ? どこから鳴っている?

 映像が急に歪んだように見える。空間そのものが歪んでいるような。


ドクッ ドクッ


 昇が両手を首元に当てた。目を見開いた狂気的な表情に見える。

 准はそれ以上この映像を見たくなかった。しかし見ずにはいられなかった。


ザクッ


 その音が鳴った瞬間、昇の首が飛んだ。切断された箇所から血が噴水のように噴出する。

 昇の首はボトッと音を立てて食卓に着地した。

 血の噴水を撒き散らす残った昇の体は、数秒間立ち尽くした後、バランスを崩して暖炉の中に倒れ込んだ。倒れるモーションが壊れた人形のようだった。

 一体何が起きたのか? どうして突然昇の首が飛んだ? 黒ヒゲの玩具みたいにして。

 准が凄惨な映像を注視していると、画面の端に黒い影のようなものが映った。影はしばらくすると画角から消えていった。

 それから数分間何も起こらない。昇の体から出た血が床を広がっていっただけだ。

 部屋のドアが開く音がする。ライトの光が見えた。

 准が部屋に入ってきた。怯えた表情でゆっくり進んでいく。

 そして昇の死体を発見した。驚いてソファにぶつかり尻もちをつく。

 准は聞き取れないような小声でぶつぶつと何事かを呟いていた。錯乱している状態だ。

 准は嘔吐し、床に広がった血の中に胃の中のものをぶちまけた。

 松丸はそこで監視カメラの映像を止めた。

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