第19話

2007年 2月 冬 


 影山に言われた事を考えて居た。


 今まで散々カスリを入れて来たのに、まだ次郎から絞ろうとしているのだ。


 考えれば考えるほどムカつきが止まらなく成って来た。


 今の影山があるのは自分が居たからじゃないか、次郎がせっせと持って行った金があったから、今が有るのだ。


 それに、次郎は懲役に行く事によって、責任は全て取って居る。


 影山は美味しい思いをしただけだ。


 要するに次郎はなめられて居るのだ。


 そう考えると段々と腹が立って来た。


 やってやると思えてきたのだ。


 絶対にやってやる、あの男を見返してやると思った。


 そう思うと居ても立っても居られなくなってきた。次郎は電話をかけ始めた。


 まずしなくてはいけないのは、市場調査からだ。出来るだけ情報を集めるのだ。


 どこのネタが良いのか。値段の比率。


 今の客層。それと大事なのは、警察がどこを重点的にしているのか。


 今考えうるコトに、全てを費やすのだ。


 やらなければならないことは山住だ。


 結局影山は次郎をこの状態にしたのだ。


 次郎の扱い方を良く知っている。


 しかし、次郎はそのことには気づいていなかった。いつも後から気付くのだ。


 そして次郎はシャブのシノギを始めた。




「あ、ちょっと。 さっき刑事やと思うんやけどな。兄ちゃんのコト聞いてったわね」


 ビルの管理人が声を掛けて来た。


「えっ。 俺のコト?」


「そうや。 写真も持っとって、この人間は良く顔を出すのかとか聞かれたわ」


「オッちゃん、それマジで。 ホントに俺の写真やったね?」


「間違える訳なかよ。 つい、今さっきの話しやけんね」


「マジかぁ…それは間違いなく、内定捜査やん…」


 シャブのシノギを始めたばかりである。もう内定され始めたのだろうか?


 客で捕られた人間は、誰も居ないはずだ。


 毎日連絡して確認しているのだ、間違いはない。


 ちんころ(密告)だろうか?それにしては早すぎる気がするのだが…


 実際にシノギがスタートしてまだ1週間と言うところだ、余りにも早すぎる。


 ここは影山組の事務所が入っているマンションビルだ。


 さっきのオッちゃんは管理人だ。


 なにか冗談でも聞いた気分である。


 実は、管理人室からまたオッちゃんが出てきて、今のは冗談でしたぁ~とおどけて見せるのではないだろうか?


 そう思ってしばらくその場に留まって居たのだが、オッちゃんは出て来なかった。


 次郎は考えた。


 最近何か変わったことはなかっただろうか?


 自分の神経に触れるもの、何かいつもと違うコトをしただろうか?一つだけある。


 先週次郎が務めていたN刑務所から、知り合いが出所してきたのだ。


 次郎の携帯電話に連絡が入ったのだ。


 同じ工場で地元も同じということで、次郎は可愛がってやって居た奴だ。


 取りあえず放免祝いの代わりに、居酒屋で飯を食い 何件か飲みに連れて行ってやった。


 そいつは出てきたばかりで金もない、何か仕事は無いですか?何でもしますからと言うので、今まさに売り子(配達員)として使ってやって居るのだ。


 しかし、まさか… 俺を売ってアイツに何か得があるのか?


 当座の寝床もないということで、取り敢えず影山組の事務所で寝泊まりをさせて居る。


 今日もそいつを迎えに来てやったのだ。


 そいつの名は、川久保健一と言う。


 次郎より五つ年下で可愛がってやって居たのだ。


「あ、次郎さん、お疲れ様です」


「おう健一、迎えに来てやったぞ」


「どうもありがとうございます」


「そんな事より、刑事が俺の写真持って内定捜査しよるけど。 何でか?」


「えっ…し、知りません」


 一瞬、健一の動きが止まるのを見た。


 カマをかけたりするのは苦手である。


「俺を売って、お前に何の得がある?返答は慎重にしろよ、それでお前の処遇が決るんやからな」


「あ、あ、あの~、その…た、頼まれたのです」


「はぁっ、誰に?」


「よ、四課の本山刑事にです」


「その四課の本山が、何でお前に頼むんや、と言うより、お前は俺を売ったんか?」


 しばらく震えて、声も出せない様子だった健一だが、次郎の舌打ちを合図に、関を切ったように話し始めた。


 四課の本山とは元々の知り合いだったらしい。


 小学生だった頃、剣道教室に通って居てその頃からの知り合いだと言うから、かなり長い付き合いなのだろう。


 四課とは、暴力団捜査四課のことで通称マル暴などと呼ばれている。


 その本山は健一のコトを何かと目にかけていて、捕られたりすると心配して面会に来たりしてくれるそうだ。


 俺からしたらそんな事はどうでもいい。


 そして今回出所して挨拶に行った時に、頼まれたのだそうだ。


 暴力団もしくは、それに準ずる者の身柄が欲しいのだと。


 話を聞くと、本山に挨拶に行った時にはすでに売り子の仕事をしていたはずだ。


 普通で考えれば、俺を売れば必然的に自分も捕まることになるのだが、そうはならないように話しは出来ているのだろう。


 怒りに目がくらみそうになる。コイツは外道だ。


 この先生きていても、どうせ同じような事を繰り返すだけだろう。


 殺してしまうか。


 一瞬殺意が芽生えたが、今はダメだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る