第17話

「兄貴、遠い所出所の出迎え、どうも有難う御座います」


「おう、次郎。務めご苦労さんやったの。お前だいぶ痩せたんやないか?」


「はい、中でいらん肉全部そぎ落として来ました」


「そうか。おう、早く車に乗れ。さっさと帰ろうぜ」


 次郎の出所には影山をはじめ、影山組全員総出で出迎えに来てくれた。


 影山はそれだけ次郎を高く買って居るのだろう。


 思い返せば長期間の社会不在であったが、出所した瞬間に今まで懲役生活でムカついていたコトなど、全て許しても良いと思った。


 帰りの道中、車に揺られながら街並みを眺めていたが、全てがキラキラして見る。


 このキラキラした世界が、娑婆なのだ。何と素晴らしい世界だろうか。


 目に映るもの全てが新鮮で、まるで生まれて初めて外の世界を見る赤子のように、瞳をキョロキョロとさせていた。


 身体がフワフワして、まるで夢の中にいるみたいだ。しばらくこの状態が続くだろう、これが刑務所ボケである。


 この状態を経験するのはこれで3度目だ。


 しばらく眠れないだろう。飯も食えないはずだ。


 悪いシャブを使った時の様だ。


 出所すると、アレをしないといけない、コレもしないといけないと、気持ちばっかり焦ってしまい、自分ではどうにも抑えられなく成ってしまう。


 何週間かはキツイのだ。


 ホントの調子を取り戻すのに、2~3か月は掛かるのではないだろうか。


 それでもやはり娑婆が良い、次郎は長かった懲役生活のことを、全て忘れた。


「おい次郎、お前取りあえず散髪行って来いや。 それからソープでも行って一発抜いて来なぃ。 夜はお前の為に放免祝いの席を設けて居るから、それまでスッキリして来いや」


「はい、有難う御座います」


「マコト、お前次郎に付いて行ってやれ。 コイツは今、右も左も分からん状態やけな」


「はい、分かりました。 さぁ次郎さん行きましょう」


 驚いたことに、影山は、まだK会直参入りをして居なかった。


 次郎が懲役に行っている間に、影山の親である足立組々長の足立が亡くなっていた。


 足立組は二代目足立組と成り、二代目を襲名したのは、何かと影山と反りが合わない香椎だった。


 影山のポストは本部長のままで、若頭に座ることも出来なかったのだ。


 K会直参入りを目の前にして、何年も足踏み状態のままだったのである。


 当の本人も、今となっては出世を諦めたのか、自分の会社を大きくすることばかりに、精を出していると言う。


 影山の会社は、次郎が懲役に行く前より大きく成って居た。


 K会の方も会長の大山喜三郎が他界して、当時理事長職にあった、中村が会長職を襲名した。


 前会長である大山喜三郎は、全国に名を轟かせていた大親分であり、その葬儀には日本全国から他組織のトップか、それに準ずる名代が駆け付けた。


 影山は後ろ盾を失ったのである。影山がここまで出世してこられたのは、大山その人が居たからである。


 現会長の中村からは、余り良く思われて居ないはずだ。


 次郎は影山が、微妙な立場に立たされていると思わずには居られなかった。


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