第14話
「そこの車、左に寄って止まりなさい」
急いで居たので、時間帯指定の左折禁止のところを左折してしまった。
運悪くパトカーに発見されてしまったのだ。
「運転手さん、免許証見せてくれる」
「え~、勘弁してくださいよぉ」
「いやいや、勘弁出来る訳ないでしょ。パトカーの目の前で堂々とだから・・・」
「マジっすか…分かりました」
次郎は運転免許証を見せた。
昼間の車の多い時間帯であり、逃げるのは不可能だ。
逮捕状が出ているとしても、全国指名手配になっていないかぎり、交通違反でヒットしないだろうと踏んだのだ。
品物も持っているけど、一か八かだ。
ここで変にゴネたりして前科照会でもかけられては終わってしまう。
一か八かのかけではあったが、勝利の女神は次郎の方に傾いてくれた。
「お巡りさん。 何点減点ですか?」
「1点減点ですよ、勿論反則金も発生しますよ」
「マジっすか、まぁ仕様がないかぁ…」
「ここね、皆よく気付かずに曲がるのよ。今度から注意してね」
「はい、どうもすみませんでした」
気が付くと、次郎の手は汗で濡れていた。
背中も脇もびっしょりとれていた。
なんとか助かったみたいだが、たまたま運が良かったのだろうか?
それとも、もしかして自分の所までまだ捜査の手が伸びてないのか。
次郎は考えた。まさか警察に、済みませんが、私逮捕状出ていますか?などと聞くわけにもいくまい。
しかし清原は捕られたではないか。やはり捜査の手は、きっと伸びているはずだ。
今はたまたま運が良かっただけだ。
今度から運転一つにしても気を付けなければと、次郎は心に誓った。
それからしばらくして、次郎はアパートに帰った。
いつの間にか寝ていたらしい、夜の10時、客からの電話はない。
簡単にシャワーを浴びると、空腹感を感じ朝から何も食べてないことに気が付いた。
次郎はコンビニに行くことにした。
このアパートで一番不便に感じることは、近くにコンビニがないことだ。
車を出してコンビニまで行かないといけないのだ。
「そこの車止まりなさい」
またである、車を出して5分ほど走った辺りだ。
次郎はまた、やり過ごそうと車を止める事にした。
今は品物は持ってない。
「運転手さん、ちょっと車から降りて貰えますか?」
近寄ってきた警察官の様子を見て、次郎は ハッと気づいた。
しかし、時すでに遅しである。
四方から出て来たパトカーに囲まれてしまったのだ。
「畠中次郎さんで間違いないよね?」
「はぁ、まぁそうやけど…」
「お宅、N県警から逮捕状が出ているのだけどね。 何か覚えがあるでしょう」
「覚え?何やそりゃ?そんなもんあるか」
「まぁ、そりゃ後からゆっくり聞くわ」
「何や、俺は逮捕されるのか」
「そう言うコトになるね。 手錠かけんといかんから、車から降りて」
逃げようと思えば、警察官を2~3人引いてからのカーチェイスになるだろう。
少しの間考えて、次郎は諦めた。
もう疲れたのだ。
逃亡者の精神状態はかなりキツイのだ。
幸いにも品物は持ってない。
刑が打たれるとしても覚せい剤の使用くらいだ、どうせ併合されて大して量刑は増えないだろう。
しかし、本刑の方はいったい何年打たれるのだろうか?
そのことを考えて次郎は不安になった。
初犯ではない、刑務所の暮らしを知っているだけあって、憂鬱な気分になってくる。
中国人と知り合い、犯罪に手を染めた時から、いつかはこの日が来るとは思っていた。
だがこんな形で終わるとは…車から降りて、ゆっくりとしたしぐさで次郎は天を仰いだ。
夜空には満点の星が輝いていた。
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