第8話

2000年 4月 春


「兄貴やばいっス。洋一が捕られたみたいっス」


「なに?何の件で?」


「何の件かって、アレっすよ」


「マジか、アレか」


「九州N県の警察が捕りに来たらしいっす、朝一番で」


「そうか、とうとう来たか」


「やばいっスわ、アイツきっとベラリ行きますよ」


「俺らのことも時間の問題やな、どうする?ガラ交わすか」


「それもアリっすね、交わすなら早い方がいいっすよ」


「そやな、今夜決行や。おう、あと金は全部下ろしとけよ」


「え?邪魔になるでしょ」



 淳が聴いて来た、コイツはホント馬鹿だ。



「お前はやっぱりバカやのう。俺らの名前が上がれば口座は全部凍結よ」


「マジで…」


「犯罪収益ってヤツよ。そうなったらもう1円も手に入らんぞ」


「マジっすか?今から自分銀行に行ってきますわ」



 いつか来るだろうと思っていたことが、こんなに早くやって来るとは…


 青くなり金を下しに走っていった淳だが、どうせ数千万かそこそこと言ったところだろう。 しかし次郎の資産は二億を超えているのだ。


 半分の一億は自宅の金庫にしまってあるのだが、残りはすべて銀行だ。


 今日一日で下すのは無理だろう。


 一億いっぺんに下すとなると、支店長決済やらなんやらで、引き止めて来るだろうから面倒だ。下すとしたら一回に300万ずつ数十回に分けて下すことになるだろう。


 今までやって来たことを、今度は自分の金を下す為にやるのだ。


 そう考えると、可笑しくて思わず笑ってしまった。


 名前が上がり凍結するまでに全部下ろせるだろうか?


 どうせアブク銭だが、びた一文人には渡したくない。


 そう思うと居ても立ってもいられなくなり次郎も銀行に走った。



「おい、ところでどうして洋一は捕られたんや?」


「はぁ、どうもカメラらしいっス。アイツ、実は前があったのを隠していたみたいで」


「おいおい、前科ある奴は使うなって言って居たやろぅ」


「すんません、でも自分もアイツに前科があるのを知ったのは最近なんすよ」


「何やそれ?面接には細心の注意を払えって何回も言ったやろぅ」


「ホントすいません」


「どこの世界に前科者を出し子に使う奴が居るんか?すぐ足が付くわい、ボケ」



 取りあえず、手元にある金をかき集めて家を飛び出した。


 影山の兄貴には電話を入れ、しばらくガラを交わすと一言伝えた。


 影山からの返事も「そうか」と一言だけだった。


 かき集めた金はスポーツバッグ二つに入っている、一億だ。これが二億ともなると、一人では持ちきれないだろう。


 現地に着いてから下ろすしかない。


 現金がこんなに邪魔になるなんて、思いもしなかった。


 しかし、一円たりとも捨てたくは無いのだ。


 次郎は東京に行くことに決めた。


 東京砂漠の人の海に隠れてしまえば、そうそう見付かりはしないだろうと思ったからだ。


 金はあるのだ、東京の生活はきっと楽しいに決まっている。


 淳は北海道に行くらしい。男二人での逃避行も虚しいだけだ。


 次郎は東京で降りるが、淳はそのまま北へと登って行くのだ。結局、次郎のシノギに淳を巻き込んだようなものだ。


 しかしコイツも良い思いをしたはずである、自分のケツは自分で拭くしかないのだ。淳とはここでお別れだ。


 そんな感傷に浸っていると、新幹線の窓から東京の光が見えてきた。


 大都会の煌びやかな光である。



「それじゃ淳、元気でな」


「兄貴もどうか身体にはお気を付けて、元気でいて下さい」


「おう、まぁ縁があったらまた会おう、じゃあな」


「はい、お世話になりました」



 男同士の別れなどこんなモノだ 縁があったらと言ったものの、それから淳とは二度と会うことはなかった。


 東京ではしばらくの間、ホテル暮らしになるだろう。


 一度赤プリに泊まってみたいと思って居たので、今日は赤プリ(赤坂プリンスホテル)に泊まってみることにする。


 九州の地方都市から出てきた田舎者よろしく、都会のビルの高さにはビックリした。


 赤プリの部屋に着いても、これから始まる東京生活にコーフンしてしまい、立ったり座ったり、立ったり座ったりして居た。


 ルームサービスで夕食を終えて、フカフカのベッドに寝ころんだ。


 祝杯を上げようと思い付き、フロントに電話を入れてロマネコンティを注文した。


 一本300万以上はする高級ワインである。


 まさに祝杯である、これからの自分の未来に相応しい酒だ。


 次郎の目に映る東京は、何もかもがキラキラして見えて、田舎者の自分に思わず失笑してしまった。


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ー裏側ー 裏社会でしか生きられない男達の物語 ちゃんマー @udon490yen

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