第7話
「おう淳、どや、ちょうしは?」
「はぁ、まぁいつもの通りっす」
「そうか、まだまだこの調子でいけそうやなぁ」
「そうっすね、まだまだいけますね」
今日の次郎はゲーム屋に居た。ゲーム屋と言ってもゲームセンターではない。
闇営業のゲーム賭博の店だ。
あるのはポーカーゲーム機や8ラインと呼ばれるようなゲーム機、パチンコ屋にあるスロットゲーム機で、高レートでのやり取りであり、もちろん違法である。
今では、シノギのほとんどを淳に任せてあるので、時間を持て余している次郎のやることと言えば、ギャンブルかキャバクラ通いがほとんどで、湯水の如く金を使っている。
今もこのゲーム屋で200万ほど使っていた。
「おう、どうなっとんのやこの機械はぁ、遠隔使っとんのやないのか、あぁ!」
「勘弁してよぉ~次郎ちゃん、うちはそんなことしないって。 だいたい遠隔操作の機械って高いのでしょ?そんなお金うちにあるわけないじゃないの。 それとも次郎ちゃん、お金貸してくれる?」
「しるか、ボケ!」
「も~、そんなこと言わずにさぁ、いくらか都合出来ない?」
「うるせぇ、このポン中がぁ、俺はこの機械の話をしよるのじゃい!」
ここのマスターはオカマのポン中で有名なのだ。
「あぁ、クソ、今日は調子が出らんわい」
「兄貴、機嫌がわるいなぁ」
「おう、淳、ナンボか貸しとけや」
「ええ~、今30万くらいしか無いです、それでいいなら」
次郎ほどではないが、淳もそれなりに儲けているのである。
「おお、それでええ明日返してやるわい」
しかし、30万など五分も持たない。
さっさと機械の中に吸われていった。
「おい、淳ちゃ~ん」
「マジっすか、あと10くらいなら、まぁなんとか」
「バカ、10じゃぁどうもならんやろ、まだ持っとるやろう」
そう言いながら淳の身体を探ってみる。
「ちょ、ちょっと兄貴、やめてくださいよ」
「ん?なんやこの封筒は? お前、100万持っとるやないか」
「あ、ち、違いますよ、それは中国人に持ってくのですよ」
「なんや、ええやないかい、んなことどうでも」
「だ、ダメっすよ」
「ええんやって、だいたい俺らが居るからアイツらだってシノギになるんやから」
「…」
「100万くらいすぐ返したるわい。 てか、返さんでも明日になればまた、すぐ出来るやろが?」
「え?返さんのですか?」
「俺らが居らなどうもならんのやて、アイツらは」
「で、でも」
「えらい弱気やのぉ、落としたって言うとけや、それでいいんや。 あの変態野郎には」
そう言いながら100万の束を機械の中に崩していく。
その後、淳が何を言っても次郎は聞かなかった。
当時、日本にはかなりの人数の不良外国人が居た。
イラン人やブラジル人、インド人、タイ人などの人種も野党を組み、ひったくりやら、強盗やら売人、と言う犯罪を働いていた。
その不良外国人の中でも最も多い人種は中国人であった。
彼らは日本人の中に居ても目立たないのだ。
その為日本全国にちらばっていけたのである。
他の人種の不良外国人の多くは、東京や神奈川、大阪などの大都市にしか居ない。
その理由は単純に目立つからだ。
東京の歌舞伎町などには多種多様な人種が生息していたが、次郎たちのいる地方都市には不良外国人と呼ばれるそれは、中国人しか居なかった。
次郎たちのように不良外国人達と裏ビジネスをシノギにしているグループはかなり居ただろうがそれは大都市での話だ。
地方都市でそんなことをしているグループは、そんなには居ない。
話は変わるのだが、そんなグループが警察に検挙されたとしよう。
当然不良外国人である彼らも日本の司法で裁かれるのだが、同じグループで検挙されたとしても、受ける刑は日本人とは比べ物にならないくらい高いのだ。
日本の司法も日本人には甘く、外国人には冷たいのだ。
法の下では皆平等であるとは、ただの建て前なのだ。
しかし不法滞在である彼らが7年、8年と言う高い刑を受刑しても一〜二年もすれば強制送還対象になり、刑務所から入国管理施設に移ることになる。
そこで3か月ほど生活したのちに自国に送還されるのだ。
自国に送還されると自由になるのである。
日本での犯罪なので自国では摘要されないという。
そして自由になった彼らが、また密航で日本に来ると言う、笑えない話もあるのだ。
「ハタナカサン チョトイイカ?」
パルコからの電話である。
「おう、パルコか。 どした?」
「オカネノハナシアルヨ」
「ん?金?くれるのかいな?」
「チガウヨ、100マンヨ!」
「それがなんや?」
「100エンオトス、コレアル。 100マンエンオトス、コレゼッタイ ナイヨ!」
「何が言いたいのや、お前は」
「100マンオトサナイヨ。アナタガトッタヨ!」
「俺が盗んだって言いよるのか、コラァ」
その通り、次郎が盗んだのである。
「ドロボーヨ アナタドロボーヨ」
「何やとコラァ、誰のおかげでこの街でシノギが出来ると思っとるのか。 オウ、喧嘩売っとんかい!」
「ホゥ、アナタソンナコトイウネ。 ワタシタチアナタコワクナイヨ」
「なにぃ、いつでも来んかい。その前にこの街に居られんようにしてやるわ」
「コレカラ、ミチアルクトキハ、キヲツケルコトネ」
「面白いやないかい。いつでも来んかい」
電話をガチャ切りしてやった。
悪いのは次郎である。売り言葉に買い言葉だ、我慢できなかったのである。
東京の新宿歌舞伎町では、中国マフィアと日本のヤクザが、血みどろの抗争を繰り広げていると何かの週刊誌で読んだことがある。
その内容の凄まじいことを、次郎は思い出した。
不良外国人は危険なのである。数万円で人を殺すとも言う。
次郎が取ったのは数万円どころではない。
今更ながら自分のしたことに背筋が凍る思いである。
路地裏からズドンなんて事もありうるのだ。
今すぐ逃げようか?金はあるのだ。
今では次郎の元には二億からの銭が唸っているのだ。
しかしあの変態野郎ごときの為に、尻尾を巻いて逃げるのも癪に障る。
なら一発かまえるか!と言っても、次郎が飛ばせる人間など淳かポン中の清原くらいしか思い浮かばない。
その二人も果たして次郎の命令を聞くのだろうか。
いくら考えても答えは闇の中だ。
「えぇ~い、なるようになるわい!」
そう腹を決めて結局は、何もしないことにした。
何日か過ぎ、いくら待ってもパルコ達の報復はなかった。
パルコ達は街のどこにも居なかった。
また何日か過ぎた。
そして、いつの間にか中国人達のことは、次郎の頭の中からも消えた。
そう、縁が切れたのだ。
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