第3話

 他の人間が来たらまずいので、中国人達が宿泊してると言うホテルのラウンジに場所を移した、兄貴が来たら大変だ。

 

 中国人達の持って来た話とはこうである。


 中国人達が用意した 会社名義の銀行貯金通帳を使って、お金を引き出して欲しいとのことだ。


 勿論、その貯金通帳は正規の物ではない 盗品である。


 要領はこうだ。 まず銀行が開くと同時にATMに行く。


 そこで通帳を入れ、通帳記入を選択するのだ。


 盗難届が出ていれば、何らかのアクションがあるので 走って逃げる。


 何らかのアクションとは、ブザーが鳴ったり、通帳が吸い込まれたまま出てこなかったり、警備員が駆け付けたり、と銀行によって違うらしい。


 なんの問題もなく記帳されて出てきた通帳に関しては、まだ盗難届が出てないということだ。


 そして、予め通帳とセットで渡されている 銀行印に捺印済みのお取引用紙に金額を記入し、窓口にて通帳と一緒に提出して お金を引き出すといったものである。


 1回の上限は300万円までらしく、丁度 この中国人たちが、密航時に蛇頭に支払う金額と同じ金額なので 思わず笑ってしまった。


 窓口で お取引用紙と、通帳を渡された行員は、通帳裏の印と お取引用紙に捺印された印とを目視で確認し、記入した金額を渡してくれる。


 今考えると、目を疑ってしまうような光景だが、1999年 当時の銀行は どこでもこのスタイルで営業していたのである。




結局 中国人達は、折半で折れた。


 いや、折れざるを得ないのだろう。


 今から、仕事をする日本人を探す困難とを天秤にかけたら 折半でもいたしかたなかったのだろう。


 仕事は明日の朝からで、何人の人間が要るかを 夜中連絡があると言うことで、その場を後にした。


「しかし、淳。 ホンマ儲かるんかのう」


「どうですかね、あんなので大金がホントに入って来るなら、苦労はないんですがね」


「おう、まあの。 で、人間はどうやって集めるや?。 一人はお前として、通帳一通に対して人間一人は集めんとのう」


「え、兄貴はやらんのですか?」


「当たり前やろ、俺は采配や采配」


「えー、ずるくないですか それ」


「アホ、ずるない。 主犯格が実行に手を染めてどうするんじゃい」


「はぁ、でも どうやって人間集めるんですか?」


「そうやのぉ、まぁ そこらのポン中やらなんやらに声かけてみんかい、なんぼでも集まるやろ」


 ポン中とは覚せい剤中毒者のことで、覚せい剤を買うお金欲しさに何でもする輩が多い。


「はい」


「報酬は、引き出した金額の一割や。 俺も何人か心当たりあたってみるわ、お前もがんばれや」


「はぁ、わかりました」


「なんやお前、頼りない返事やのう」


「はぁ…」


 その夜、と言っても朝方の午前4時ごろ 約束どおり中国人達から連絡があった。


 通帳は3通だ。


 淳が一人 人間を連れてきたので、あと一人。


 次郎は、清原と言うバンドマン崩れのポン中をあてることにした。


 清原には何度か薬を段取りしてやったことがある、金の為なら何でもするような奴だ。


「マズ、コレモッテATMイクデショ。 キチョウ スルデショ。 デテクルデショ。 マドグチイクデショ。 コレニキンガク カクデショ。 オカネモラウデショ。 タッタコレダケ カンタンネ」


 まだ朝の5時だがミーティングを兼ねて一度集まることにした。


 中国人達の中の1人 自称パルコがいとも簡単そうに説明している。


 だが実際はそう簡単ではないだろう。


 次郎は実行犯の3人にスーツ着用を義務付けた。


 企業用の通帳なので背広の方が自然だからだ。


 無い者には洋服のよこやまで一番安いセール品を用意してやる。


 多少の出費だが仕方ない。


 それともう一つ、中国人達に注文を付けていた。


 金額100万以下の通帳に関しては実行しないと言う点である。


 実行犯が逮捕された際、100万以上でも以下でも 罪はそう変わらないと考えたからだ。


 被害弁償などは、初めからさらさら考えてない。


 リスクが高い分、それに見合った報酬でないと人は集まらない。


 これには中国人達が難色を示したが、最後は伝家の宝刀 じゃあ、他をあたれ! の一言で解決した。


「ええか、マジックで顔に黒子書くとか眼鏡かけるとか 何らかの変装もして来いや」


「え、なんでですか?」


「バカやの お前ら? カメラがあるやろが。 なるべくカメラに映らんように死角を通るように心がけや。 それと出来るだけ行員の印象に残らんように自然に振る舞えよ。」


「はあ」

 

「あと、これや。 行く前は これでバッチリ手を洗うて行けや」


「なんすか、それ?」


「除光液や」


「除光液って、あのマニキュア落とすやつの?」


「そや、指紋が付かんらしいわ。 軍手してったら可笑しいやろ?。 ホンマはシンナーがええらしいけど、すぐ手に入らんやろ。 ま、代用品ちゅうことやな」


「へー、すごっ。 でもそれ誰から聞いたんです?」


「そこに居る中国人や。 中国三千年の歴史の知恵らしいわ」


「ははは、でも何か本格的ですね」


「アホ、本格的やなくて ホンマにやるんやホンマに。 よっしゃ、一度 解散や、各自取りあえず仮眠でもとっとけや。」

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