第28話 みんなもやってみよう
僕は武具屋で鋼鉄製の直剣を一本購入した。わざとじゃないけど、怖がらせてしまった詫びのようなものだ。これでさっきの失言の件は帳消しだ。いいね。
いわゆる「はがねの剣」ってこれのことなのかなと思いつつ、次の店に向かう。
次は魔道具屋だ。
と言っても、この街に来た初日にミラの髪を売りに行った店ではない。あんなところに冒険者の格好をしたミラを連れて行ったら、一発でバレてしまうからね。令嬢であったアデルミラが知っていた店ということは、この街の領主である辺境伯と繋がりがあるということだ。娘を勘当した辺境伯に、その娘の現状をわざわざ教えてやる義理もない。
魔道具屋へ行くのは、魔法の発動体を試し、ミラが使える魔法の属性を確認するのが目的だ。
魔法の発動体というのは、一般的にはいわゆるロッドやワンドのような杖のことで、これらを装備していると魔法の発動と効果にボーナスがつくのである。ここで言う発動とは魔法の発動確率のことで、魔法は精神集中が未熟だと発動に失敗してしまうことがあるのだ。魔法はだいたい撃てば当たるので、発動確率はまあ武器攻撃で言う命中率みたいなものだと思ってもらえればいい。効果というのはそのまま威力のことである。
要すれば、武器攻撃なら威力が筋力、命中率が器用度なところを、魔法攻撃では威力が知力、命中率が精神値みたいな感じかな。
発動確率はパラメータやスキルによる影響だけでなく、本人の鍛錬によっても上げることができる。これも武器攻撃と同じだね。ミラが何の才能もないはずのナイフでグレイラットを難なく狩れるようになったのと同じということだ。
何の訓練もしていない状態では、たとえ魔法を覚えていたとしても発動に失敗する可能性がある。魔法の発動には、武器の適正と違い補正のようなものはないからだ。
でも発動体を通せばその可能性を低くしてやることが出来る。
武具屋の時と同じように、発動体のワンドを借りて魔道具屋の裏庭に出る。
どこの店もこういう練習場みたいな場所確保してるのかな。ここは辺境だから土地も余ってるのかもしれないけど、もっと都会はどうしてるんだろう。練習が必要な初心者はお断りみたいな感じになってるんだろうか。
「じゃあまずは『
「でもあれは汚いところに使わないと効果がはっきり実感できませんわ。どこか汚いところでもお有りで? あ、もしかしてイオラ様の性根とかですか?」
「効果が実感できないところは駄目って自分が言ったばかりじゃないか。性根なんて外から見てもわかるわけないよ。その前に性根とか性格とかには『清浄』は効かないけど。ていうかさらにその前に僕の性根は真っ直ぐで綺麗なんだが?」
「その言い分が最後に出てくるあたり、自覚はあるんだにゃあ」
「ね。びっくりですわ」
「うるさいな、仲良しか君たち。『清浄』のターゲットは……魔道具屋の棚にしよう。埃積もってて汚いし」
「──聞こえてるよ! 余計なお世話だよ!」
店主に怒られてしまった。
実際にミラに『清浄』を試させてみると、汚い棚は見事に綺麗になった。
さっき怒られた分はこれでチャラにしてもらいたい。
ともかくこれで、ミラには何かしら魔法使い系の才能があることもはっきりした。
次はランクと属性だ。
ビルトキャラクターやパッケージビルドの人はレベルが上がると勝手に魔法を覚えていくが、剣士系パッケージのスキルと同様、パッケージのランクによって覚える魔法が違う。その上「火魔法使いパッケージ」、「風魔法使いパッケージ」といったように、属性ごとにパッケージが分かれている。
同じ火属性の魔法使い系パッケージであっても、基本の火魔法使いパッケージで覚える『ファイアアロー』なんかは、上位の例えば「炎魔導士パッケージ」では覚えない。最初からいきなり高ランクの『フレイムバースト』とかから覚えたりするのだ。
僕と違って自分の覚えているスキルが見られない以上、何を覚えているのかはひとつひとつ試していく必要がある。
幸い、一般的に知られている魔法は目録に載っているので、それを順番に試すだけでいいのは楽だ。
「ファイアアロー! ……出ませんわね。アイスアロー! ……これも出ませんわ。ウィンドアロー! ……出ませんわ。ストーンアロー! ……あの、これやんないと駄目ですの? ちょっとその、恥ずかしくなってきたんですけれど」
「やんないと駄目だね。はい次」
ミラは冊子を片手に恥ずかしい作業を続ける。
彼女が持っている魔法目録には魔法使いが使える魔法が全部載っている。もちろん全部と言ってもあくまで社会に認知されているものだけだ。僕が見た限り、上位の魔法はかなり歯抜けになっている印象だった。たぶん使えるけど黙ってるみたいな奴がいるんだろうね。
そういう未記載の魔法がいわゆる秘伝とか奥義とかいって伝えられていくのだろう。これ絶対失伝してる魔法とかあるでしょ。武器スキルとかもそうだけど。
しばらくその様子を見ていたら、突然庭の木が爆発して炎上した。
「きゃあ!」
「おー。出たね。なんて言ってた? 今」
「ミラがフレイムバーストって言ったら爆発したにゃ」
下から順番に試していたはずだから、そうなると火系で最初に覚えたのがフレイムバーストということになる。
フレイムバーストはターゲットに魔法攻撃力の等倍の火属性ダメージを与え、その周囲2メートル以内に0.5倍のダメージを与える微妙な範囲魔法だ。
実際に、今僕らの目の前でも爆発した木の周りの草もなぎ倒され、メラメラと燃えている。これが0.5倍の範囲ダメージってやつなんだろう。
最初に覚える属性魔法がフレイムバーストであるパッケージは、僕が知る限りだと「火魔導士パッケージ」か「大賢者パッケージ」のみだ。
「にゃにゃっ!? 爆発して燃えてた木が今度は凍ったにゃ! 周りの草もカチコチにゃ!」
フリーズバーストも発動したか。
となると、可能性としては火魔導士パッケージと氷魔導士パッケージかな。剣士系のパッケージを持っていたことを考えると、それでもう3枠埋まってしまったことに──
「にゃー! すごい風にゃ! ちっちゃい嵐みたいだにゃ!」
──今のエアロバーストでしょ。大賢者パッケージで確定ですかそうですか。
盛りすぎじゃないかな。ミラの前世の人。いやそんな才能持ってたらそりゃ覚醒悪役令嬢だって出来るだろうけどさ。
でも、大賢者か。
そんな重たいパッケージが入ってたら相応に必要経験値も増えると思うんだけど、そんな無茶な経験値稼ぎなんてさせたかな僕。
させたかもなあ。グレイラットは繁殖力が強いから僕ら2人が狩ったところで絶滅したりはしないけど、この街のラット肉と毛皮の相場はかなり下がっちゃってるらしいし。
でも言うて相手はたかが少し大きなネズミだし、その程度でこんなレベルアップとかしないと思うんだけどな。まあ都合がいい分には別にいいか。
◇
それはそうと、庭をめちゃくちゃにした件でめちゃくちゃに怒られた僕は、ミラを先に行かせた後、店で一番高い指輪型の発動体を購入することで店主の怒りを収め、なんとか無事に店を出た。
武器屋のように店の中でやったほうがよかったかと言おうかなと一瞬思ったけど、わかってて言うのはさすがに徳マイナス案件だろうからやめておいた。
おかげで真面目にコツコツ破落戸どもから巻き上げたへそくりが無くなってしまったよ。
「……本当にいいのかにゃ?」
「……なんのことだかわからないな」
「……イオラ様が良いのにゃら、うちはもう何も言わないにゃ」
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