第13話 ハンター生活

 受付に戻り、試験結果を聞いてみると合格だった。

 妙に評価が良かったらしく、受付からは期待の新人だとか持て囃された。全く心当たりがないのだけれど。

 もしかしてあれかな。預けていたナンシーがよろしくしてくれたのかな。

 これが枕営業ってやつか。今後も何かあったらナンシーを受付に吸わせよう。


 何にしろ、これで僕も晴れてハンターだ。

 先日のように盗賊に襲われても、相手の身ぐるみを剥ぐ以外に討伐報酬が貰えるようになる。


 この世界はゲームではないので、モンスターを倒してもお金を落としたりはしない。換金しようと思ったら金目の素材を剥ぎ取って売る必要がある。面倒なら死体ごと買い取ってくれる業者もあるが、運搬が手間になる。僕は魔法の鞄があるから死体の方が楽でいいかな。

 その点盗賊なら、だいたいは金銭や貴重品を身に着けている。討伐報酬が欲しいなら死体をハンターズギルドに持ってくる必要があるが、これはモンスターと同じである。つまり金銭や貴重品の分モンスターよりお得だ。


 また、素材として売れる部分は少ないが、ここは魔帝国なので盗賊もみんな魔族である。

 そうするとたまに立派な角が生えている者がいたりする。

 そういうやつの角は好事家に売れたりする、らしい。もっとも、元貴族令嬢の僕にはそんな怪しい伝手ツテはないので考えても無駄だが。

 他にもコウモリみたいな羽とか悪魔みたいな尻尾が生えた魔族もいるけど、彼らの素材も売れたりするのだろうか。

 もし今後変態好事家に伝手が出来るようなことがあったら聞いてみよう。


「……ちょっと、何見てるにゃ。うちの背中に何か付いてるのかにゃ?」


「いや、何も付いてないよ」


 ちゃんとしまってあるからね。

 念の為に言っておくが、もちろん大事な使い魔であるナンシーの羽を売ろうだなんて考えてはいない。再生魔法で元通りになるのだとしても。

 再生魔法とかまだ取ってないし。



 ◇



 僕らはそれからしばらく、帝都の外壁街──城壁と城壁の間の、ハンターズギルドや余所者向けの店が並ぶエリアをそう呼ぶらしい──を拠点にして、ハンターの仕事をこなしてお金を貯めた。


 帝都自体はクソデカ城壁に守られているため安全だが、城壁の外はそうでもない。さすがに帝都から見える範囲には目立ったモンスターも盗賊もいないが、うねった街道を一、二時間も歩けば普通に襲われるようになる。

 つまり農村とかから帝都に食料その他を運ぶだけでも命がけってわけだ。

 そういう定期便にはだいたい職業兵士が護衛としてついてたりするんだけど、急な便とか兵士の都合がつかないときとかはハンターズギルドに相場より割高で依頼がきたりする。前世で言うと赤帽みたいなものってことだね。具体的に赤帽が何を意味しているのかは覚えてないけど。

 盗賊たちはそういう情報にも敏感みたいで、まるで示し合わせたかのように狙われることが多い。

 取得BPや徳のために積極的に盗賊を狩っていきたい僕としては狙い目の依頼だ。


 そういう美味しい依頼がないときは、毎日二時間ほど遠征して討伐報酬が設定されているモンスターを狩ったりして過ごした。適当に殺して適当に死体を持ち帰るだけの簡単なお仕事だ。

 なんかオンラインゲームのデイリークエストみたいだな。いや逆か。こういう生活をする冒険者とか探索者とかのルーティンをゲームに落とし込んだのがデイリークエストなのかもしれないね。

 たまに出る盗賊なんかも同じように殺して同じように魔法の鞄に入れ、ギルドで納品することでお小遣い程度の報奨金を貰ったりもしている。





「えっと、今日のクエストは……また街道の盗賊討伐だにゃ。帝都のそばにゃのに治安悪すぎじゃにゃいかにゃ?」


「むしろ逆じゃないかな。帝都の近くは人を襲う凶悪なモンスターが減ってきて安全になったから、だからこそ盗賊──人間が増えてきたんだよ」


「うちの記憶が確かなら、凶悪なモンスター減らしたのはイオラ様だにゃ」


「そうでしたっけ。ウフフ」


 同じくらいの強さなら、モンスターよりも人間の方が貰える経験値──BPが多い。

 それならモンスターをなるべく間引いておいて、盗賊に増えてもらった方が効率がいい。

 徳も積めるし万々歳だ。


「さーて。じゃあ今日も元気に徳を積みにいきますか!」


「BPも忘れるにゃにゃあ。そろそろうちにもBP使って欲しいのにゃ」


「ああそうだね。今日の盗賊で稼いだBPでナンシーもちょっと強化しよっか。ソロで盗賊狩れるようになれば色々できることも広がるだろうし」


 ナンシーはBP50弱を費やして生み出した使い魔だけど、僕とのパスや召喚適正とか、戦闘以外の部分にもBPを振らざるを得なかったため、純粋に戦闘能力のみを追求して作られたBP50のモンスターよりも弱い。そんな恣意的に作られたモンスターが存在すれば、だけど。

 一方で盗賊たちは、まず魔族である時点で初期BPは少なくとも150はあったであろう人たちである。

 そこからさらに人生経験を積み、少なからずレベルアップしているだろうことを考慮すると、まあ200BP相当くらいと見ておけばいいだろうか。


「あとちょっとで300BPか。キリがいいからナンシーには300BP突っ込もう。今日の盗賊の分で貯まるかな。何人いるか知らんけど」


「依頼として貼り出されるくらいだから、そこそこいるんじゃないかにゃ」


「楽しみだねぇ。どういう風にビルドしよっか。目からビームとか出るようにする?」


「それは違う猫にょ! じゃにゃかった、うちは猫じゃにゃくてマンティコアにゃ!」


「あははは! ナンシーは可愛いなあ!」


 この外壁街──帝都の外壁と外壁の間に作られた狭間の街──に慣れてきた僕らは、会話をすることをことさら隠さないようになっていた。

 使い魔という存在は珍しいが、いないわけではない。使い魔と相性のいい『枢要』もあるしね。

 珍しいがいないわけではないというその微妙なバランスが、ナンシーの存在を周りに受け入れさせる土壌となった。

 ナンシーはどう見ても可愛いただの黒猫だが、ただの黒猫を使い魔にしても喋ったりはしない。ナンシーが話せるのは、彼女がマンティコアだからだ。

 でもそんなことは、使い魔を持ったことがない者にはわからない。

 使い魔を持っている者でも、たいていは自分以外の使い魔持ちには数人しか会ったことがないため、たとえ自分の使い魔が言葉を話さなかったとしても、言葉を話すのがおかしいのかどうなのかまでは判断できない。

 だからナンシーが人の言葉を話していても、ほとんどの人にはそれがおかしなことだとは思われないのだ。

 ビルトキャラクターやパッケージビルドの人たちは僕と違って、使い魔作成時にキャラクタービルドウィンドウなんて開けないしね。たぶん、ビルトキャラクターごとかパッケージごととかに決まった使い魔が配布されてるんだと思う。



 ◇



 この日キルした盗賊はどこかから流れてきたそこそこの集団だったようで、ナンシーを強化するのに十分なBPを得ることができた。

 あと徳も積めたと思う。

 こつこつと、盗賊討伐の依頼が貼られる度に受注していた結果だと言える。

 まあ盗賊討伐の依頼はあまり受けたがる人がいないようなので、慌てなくても確実に僕が受注できるのだけど。





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