第10話 使い魔

 さて、物理的な戦利品の確認のあとは、取得BPの確認だ。

 この盗賊団を始末して得られたBPは63ポイント。かなりの量だ。

 人間を手に掛けたのは初めてだけど、もしかしたら人間はBP効率がいい獲物なのかもしれないね。

 僕にとってBP効率がいいということは、他の人にとっても経験値効率がいいということである。これだけ美味しければ盗賊がいなくならないのも当然だ。

 でもそうだとすると、一般人を狩って経験値を稼いだ盗賊は当然だが一般人よりさらに効率がいいことになる。


「つまり盗賊狩りが一番効率がいいってことか。徳も積めるし良いことずくめだな。もっと盗賊こないかな」


 そうなると、今回の盗賊戦の反省点は最大限に活かしていかなければならない。

 具体的には初撃の情けない避け方だ。

 いやまさか急にボールが──じゃない石が飛んでくるなんて思ってもいなかったのだ。もしもサッカー選手パッケージでも取っていたら上手くインターセプトできたかもしれないが、残念ながら僕はフルスクラッチ勢だ。パッケージビルドだとしても選んでなかったと思うけど。

 

 サッカー選手じゃないのなら、敵の不意打ちへの対抗手段は自前で用意する必要がある。

 現在の手持ちのスキル、そして今取得した60BP強で可能な手段となると、選択肢はひとつだ。

 使い魔を作って召喚魔法で運用する。

 ていうか、本来召喚魔法はそういう使い方がメインなんだよね。適当に呼んで命令一個だけしてすぐ送還ってのは普通はやらないみたいだし。いや召喚魔法がそういう扱いのゲームもあったけど。ファイナルな幻想シリーズとか。


「ええと、使い魔作成スキルを取得、と……。おお、使い魔もキャラビルドできるのか。これビルトキャラクターとかパッケージビルドの人はどうなるんだろ。自動的にビルト使い魔が作成されたりするんかな。まあいいや。そうだな……。使い魔といえば猫だよね」


 猫をデザインしかけ、一旦止める。

 よく考えたら、不意打ちを防ぐなら上空から監視できた方が都合が良いことに気づいたからだ。

 いや、だとしても猫案を捨てる理由にはならない。

 猫が飛べばいいのだ。

 そうすれば万事解決である。天才かよ僕。


 僕は猫のデザイン案に翼を書き加えた。


「……翼猫とか言ったかな、こういうの。でもちょっと似合わないな」


 ウィンドウの中、猫の翼を消して、コウモリの羽を取り付ける。さらにこれを黒猫にすれば違和感は少なくなった。コウモリ猫である。

 羽の分だけ余計にBPがかかってしまうが、それ以外の性能を全て最低にすれば今あるBPでもギリギリ作れそうだ。


「さて、これであとは会話ができれば完璧だな……。え、話せない? 猫の声帯だから? いらんとこだけリアルにするなよ……。んー、他に何かないかな……。お、マンティコアは人語話せるのか。人の言葉で獲物を釣るからかな。それってリアルなの……? まあいいや。じゃあマンティコアを素体にして……これならデザイン次第で黒猫に出来るな……おお、メスならコウモリの羽もデフォルトで付いてるのか。お得じゃん。メスの方が付いててお得とか珍しい種族だな……。尻尾はサソリ以外に変更出来ないのか……。甲殻の上に毛は生やせる? じゃあそれで。……お、これはなかなか可愛いんじゃないかな。若干デフォルメ気味っていうか、人間臭い顔してる気がするけど、マンティコアだからかな。よし、あとは僕のことを嫌わないように性的嗜好を弄って……」


 そうして、これからの僕の長い旅路の第一のお供となる使い魔が誕生した。



 ◇



「にゃー。うちはにゃんしーだにゃ。これからびおーら様の下僕として……にゃにゃ!? うまく発音できにゃいにゃ!」


「猫だからね。しょうがにゃいね」


「にゃー! うちは猫じゃにゃいにゃ! 誇り高きマンティコアにゃ! てか語尾がにゃってにゃんにゃんだにゃ!」


「あはは! 何言ってるか全然わかんないよ! 可愛いー! ねぇねぇもう一回自己紹介してよ! お名前なんだったかなー?」


「うちはにゃんしー……にゃんしー! にゃ・ん・しー! 自分のにゃまえさえ上手く言えにゃいにゃー!」


「あははははは! 可愛い可愛い! あはははは!」


「うにゃー! びおーら様ひどいにゃ! にゃー! ご主人様のにゃまえも上手く言えにゃいにゃ!」


「あはは! ごめんごめん。僕の名前は……そうだね。勘当されたことだし、この機会にナンシーが言いやすいようにリネームしちゃおうか。

 んー、イナンナとかどうかな?」


「いにゃんにゃ様」


「あははははははは!」


「ひどいにゃー!」


 ナンシーの抵抗の結果、僕の新しい名前はイオラに決まった。言いにくい発音を除外した上で、ヴィオーラの響きを残した形だ。急にあまりに違う名前に変えても僕も反応できないからね。


 こうして、僕ことイオラとにゃんしーの新しい旅が始まったのだ。


「うちはにゃんしーじゃなくてにゃんしーだにゃ!」


 使い魔って口に出さなくても意思疎通出来るから便利だよね。



 ◇



「ところでイオラ様。ここに落ちてる死体はにゃんにゃんだにゃ?」


「ああ、忘れてた。僕を襲った盗賊の死体だよ。戦利品は剥ぎ取ってあるから、もう用はないね」


「片付けにゃくてもいいのかにゃ?」


「いいんじゃないかな。野生動物がそのうち片付けてくれるでしょ」


 僕は自然の力を信じている。これもSDGsってやつだね。

 SDGsが何の略称だったかまでは思い出せないけど、何か自然とか環境とかに良さげな感じのやつで、前世では世界中で取り組まれていた運動だ。

 詳しくは覚えていないけど、世界中で取り組まれていたくらいなんだから、きっととても素晴らしい活動だったに違いない。

 意味がなかったり、失敗ばかりしているようならあっという間に廃れるはずだからね。

 きっとめちゃくちゃ頭のいい人が考えた完璧なムーブメントだったんだろうなあすごいなあ。





 ★ ★ ★


ヴィオーラ改めイオラには前世の具体的な記憶はほとんど残っていないので、彼女はそれを本当に素晴らしい活動だったんだろうなと思っています。本当です。信じてください。


ちなみにSDGsとはSustainable Development Goalsの略で、「持続可能な開発目標」という意味です。

実はその前に前身となるMDGsがあったことはあまり知られていません(本当)

そしてさらにその前には、なんとLDGsという超大型プロジェクトが(嘘)



ちょうど10話でキリもいいので、ここらで

イオラ様いいね! と思われた方は★を、

にゃんしー可愛い! と思われた方は★を、

あとがきもタメになるなあ()と思われた方は★をお願いします。

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