第7話 実戦経験

 ハンターになるための試験を俗にハンター試験と言うらしいが、その試験が受けられるのは帝都だけである。

 なので、グロリアス領を後にした僕は街道をのんびりと帝都に向かって歩いていた。


 15歳の大人初心者の小娘が護衛も雇わず街道を歩くというのは本来自殺行為だ。もしモンスターが現れれば襲われてしまうし、モンスターが現れなかっ場合でもおそらく盗賊が現れる。

 しかし、僕もこれからこの腕ひとつで身の証を立てようとしているのだ。

 たかが街道ごときに護衛が必要などと情けないことは言ってられない。なんなら僕がか弱き令嬢の護衛をしてやりたいくらいである。


 あとまあ、現実的な事情としてお金がないし。

 父というか侯爵家に買い与えられたもの──夜会用のドレスとか装飾品──は侯爵領で全部売り払った。

 それで得られた幾ばくかの金貨は、ハンターとして活動するための準備に全て消えていた。

 最も高かったのは魔法の鞄だが、これは野営道具や食料など、嵩張る荷物を入れる必要があったので仕方がない。

 魔法の鞄とは、どんな大きさのものでも重さを感じさせずにしまうことが出来る、まさに魔法のような鞄である。当然ながら値が張る。

 その他で高かったものだと数日分の食料だろうか。

 剣を買っていればそっちの方が高くついていたのかもしれないが、僕は剣士じゃないので剣は必要ない。槍士でもないから槍もいらない。斧も棍棒も短剣もだ。まあ買ったところで箸より重そうだからどうせ持てないってのもある。


 そんな僕の武器は魔法だ。

 魔法そのものというよりは魔法によって呼び出されたものが武器だ。

 簡単に言うと召喚魔法である。召喚した武器や防具やモンスターを使って戦うのが僕のスタイルだ。

 これは転生時にBPを支払って取得したスキルなので、生まれつき使うことができる。なので侯爵家にいた頃から屋敷の裏山でこっそり練習していた。

 召喚されたモンスターには召喚した時点でひとつだけ命令をすることができ、その命令が終了すると好きに暴れ出す。普通は命令が終わったらその時点で送還するか、完全に支配下に置いた魔物を召喚するのが鉄則らしいが、僕はそうしなかった。


 僕が成長するために必要なBPは、日々の行動や経験から得ることができる。

 もちろん普通に生活するだけでもそれらは得られるし、事実、一般的なヒューマンやほとんどの魔族は成人までは特別何かを訓練したりしなくても勝手にレベルが上がっていくらしい。だいたいレベル5くらいまでかな。

 ある一定以上の年齢になると、新鮮な経験を得ることが無くなっていくせいかレベルアップがストップするらしいけど。

 どちらかというと、経験則として、レベルが上がらなくなった時点を以て成人、ということにしている感じだろうか。知らんけど。


 レベル制なのはサンプルキャラクターかパッケージビルド勢だけなのだが、僕もまあだいたいのところは年齢相応のレベルに等しい経験値──すなわちBPを得ている。

 けれどそれだけでは、せっかく持って生まれた多くの才能を活かしきることは出来ない。普通の経験によって得られる普通の経験値では、取得した全てのスキル、これから取得したい全てのスキルを満足行くまで成長させるには足りない。


 だから僕は、召喚したモンスターに適当な命令を与えて用を済ませた後、暴れようとするモンスターを、同じく召喚した剣で倒して経験値を稼ぐことにしたのである。

 僕が召喚した剣は僕のパラメータに合わせた性能になっているので、重さもちょうどいい。たぶん箸と同じくらいだと思う。知らんけど。


 最初はもちろん弱いモンスターから試した。

 どのモンスターが弱いかは、召喚時に必要なマナの量で類推できる。

 一番消費魔力の小さいスモールラットを呼び、適当な木の根っこを齧らせる命令を与えた後、襲ってくるラットを召喚した剣で殺す簡単な作業である。

 小さいラットを慣れない剣で倒すのは骨が折れるかと思われたが、一度与えた命令をこなしたラットは何も考えずに僕に向かって突進してきた。とりあえず地面に剣を突き立てておけば、勝手にぶつかって脳天が割れてジ・エンドだった。本当に楽な作業である。「実戦経験こそないものの」と僕が言ったのは、こんな作業はとうてい実戦などとは呼べないからだ。

 そんなので経験なんて得られるのかなと思ったが、どうも生き物を殺す行為はかなりの経験を得ることができるらしく、幼い僕にとってはそこそこ多めのBPがどこからともなく振り込まれたのだった。


 このやり方を選んだのは、『枢要』のひとつ『怠惰』と相性が良かったからだ。

 僕はひとりで動き回れるようになってからは、毎日欠かさずこの日課をこなしてきた。どこが『怠惰』なんだよこんな勤勉な幼児いねえよ。


 とまあ、そんなことを段階を踏みながら繰り返してきた僕は、おそらく同年代と比べても相当多くのBPを保有している。

 いや同年代はみんなビルトキャラクターかパッケージビルドであるらしく、鑑定の儀で僕以外に『無職』と呼ばれた子はいなかったので、フルスクラッチの僕とは単純比較はできないわけだけど。


 というわけで、そういった魔法を使う前提なら武器や防具は必要ない。いざという時のためにはあったほうがいいのかもしれないが、資金が限られている今、どうしても必要というわけではないものにお金は使えない。


 と、つらつらとそんなことを考えながらトコトコと街道を歩いていると、少し離れたあたりから自分を監視しているかのような気配を感じた。

 これはスキル『気配察知』の効果である。スキルレベルを3まで上げてあるので、レベル3までの『気配遮断』は無効化できる。この手のスキルが対抗した場合、同レベルなら防御側が勝つ仕様になっているらしい。

 魔物の気配ではない。おそらく盗賊だろう。


「……なんてことだ。実戦経験が向こうから来てくれたぞ」


 僕はほくそ笑んだ。





 ★ ★ ★


序盤はどうしても説明回が多くなってしまうのがネックですね。

これでも結構削ってるんですが。枢要の詳細とかまだひとつも出してないですし。

『怠惰』の詳細は後で説明する機会があるのでそちらで。

18話くらいだったかな。遠。

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