第6話 持たざるもの
転生前に想像していた通り、この世界はファンタジーと暴力が支配する世界である。
人は当然のように剣や魔法を振り回すし、それでも世界の支配者たり得ないほど過酷な環境だ。
その理由は簡単に言うと、野生動物がヤバすぎるからだ。
いわゆるモンスターみたいな謎の生命体がゴロゴロしているのである。
そこそこ大きな街とかならそれなりに安全なのだが、小さな村だと常に全滅の危険と隣り合わせみたいなところがある。
わかりやすく中世から近世頃のヨーロッパで例えると、フランスの怪物ジェヴォーダンが野良犬感覚でそこら中にいるみたいな感じだろうか。何ならじゃれて餌までねだってくるまである。まあこの場合の餌って言うのは生きた人間のことで、じゃれつかれるとそのまま餌にされちゃうんだけど。
そして安全なら安全で、今度は盗賊が現れたりする。地域によっては、盗賊はモンスターより多い。
これはおそらく統治機構が脆弱なせいだろう。別に民主制に比べて君主制が劣っているとかそういうことを言っているわけではなくて、野生動物ヤバすぎ問題のせいでまともな統治が出来ていないという意味だ。社会としての人類の防衛能力が自然環境に追いついていないのである。
そのせいで、前世の中世とか近代よりも食料の確保が格段に難しい。
狩りをして獲物を得ようにも、ほとんどの場合において一般人より獲物の方が強かったりするし、農業をしようにも、野生動物から農地を守るだけで精一杯だ。精一杯どころか、出来てないところの方が多い。作物の研究をして収穫高を増やそうなんて夢のまた夢だ。そういう発想すらない。
あらゆる経済活動の根幹となる食糧事情がそんなレベルなので、当然ながら科学技術も発達しない。産業革命もなければ農業革命もない。窒素肥料なんてとっかかりの概念すらも生まれていない。
魔法のおかげで野生動物にもギリギリ対抗出来ているし、マジカルズ農パワーで農作物も進化してるおかげで、かろうじて社会制度を保てているって感じだ。
そんな社会なので、一般人も割と簡単に職を失うことが多い。大体の場合は一緒に生命も失うが、全てを失ったけど生命だけは残っちゃったって場合はもう盗賊になるしかない。盗賊が多いのはそういう理由である。
けれども、我々魔族もモンスターにやられてばかりではない。
この魔帝国にはモンスターを狩るハンターという職業がある。
ここから遥か遠くに住んでいるヒューマンたちからは、モンスターも魔族の配下みたいに思われているらしいが、それは正しくない。
ほとんどの魔族はモンスターを配下にすることなんてできないからだ。
なので、魔族としても日々の生活の邪魔になるモンスターを排除する必要がある。
そのために生まれた職業がハンターである。
魔族は他の人間種より生まれつき強いため、ごく弱いモンスターなら商人や農民でも狩れるが、商人の仕事は商売をすることで、農民の仕事は農作物を作ることである。モンスター退治に割くリソースなどない。それに彼らも、弱いモンスターなら自助努力で駆除できたとしても、ちょっと強めのモンスターが相手だと餌になるだけである。
そういうものは専門家のハンターに任せるのが常識だ。
また盗賊も扱いとしてはモンスターと変わらないので、これの対処もハンターの仕事になる。
自由に生きる。
とは言ったものの、何の後ろ盾もない15歳の子どもが、いや成人したからもう大人か。大人の初心者が自由になったところで、生きていく術などそうはない。
幸い僕は実戦経験こそないものの、腕っぷしには自信がある。
自由に生きる、その為の日銭を稼ぐのなら、ハンターになるのが手っ取り早い。
腕っぷしの自信の根拠は、転生前にセンターで振り、転生後にもちまちま稼いだBPを投資したパラメータといくつかのスキルだ。
一般的なヒューマンの基礎パラメータは以下の通りである。
筋力値(STR) 5
敏捷値(AGI) 5
器用値(DEX) 5
体力値(VIT) 5
知力値(INT) 5
精神値(MND) 5
これに、例えば基本の剣士パッケージ、斧士パッケージ、槍士パッケージを選んだとすると、こうなる。
筋力値(STR) 10
敏捷値(AGI) 7
器用値(DEX) 7
体力値(VIT) 8
知力値(INT) 5
精神値(MND) 5
さらに、これに各パッケージのレベル上昇分が加算されて、現在値になる。
レベルアップで増えるパラメータは、レベル1ごとに、パッケージを取得する際に消費したBPの合計値を100で割って小数点以下を切り捨てたものになる。
40BPのパッケージである「剣士」「槍士」「斧士」の3つを選んだビルドなら消費BPの合計値は120なので、1レベルあたり1ポイント分上昇するということだ。
このポイントが、前回レベルが上がってから次にレベルが上がるまでにその人物が最も必要としたパラメータに振られる感じになる。
例えばヒューマン、剣士パッケージ、槍士パッケージ、斧士パッケージを持って生まれた人物が、魔帝国のベテラン兵士の目安と言われるレベル15までバランスよく鍛えてきたとしたら、おそらくこんな感じになる。
筋力値(STR) 13
敏捷値(AGI) 10
器用値(DEX) 9
体力値(VIT) 11
知力値(INT) 7
精神値(MND) 7
ここに、各パッケージ──貴族風に言うなら『職業』の、レベルに応じたスキルも取得しているはずだ。それがどんなものだったか、僕もある程度は覚えているが、弱い職業や細かいところまでは覚えていない。
そして、ちまちま育てた僕のパラメータがこれだ。
筋力値(STR) 3
敏捷値(AGI) 3
器用値(DEX) 15
体力値(VIT) 10
知力値(INT) 15
精神値(MND) 10
偏ってるね。
僕は箱入りの侯爵令嬢だから、筋力がないのは当たり前だ。箸より重いものなんて持てないよ。まあ魔帝国に箸はないから、つまり僕は実質なにも持てないってことになるね。
敏捷がないのも似たような理由だ。貴族令嬢は走ったりしないのである。
その分他のパラメータに振り分けた形になるんだけど、体力が多いのは貴族令嬢にそぐわないと思うかも知れない。でも仕方がないんだ。これ耐久とか防御力に直結するからね。
僕のパラメータが偏ってるのは、筋力や敏捷よりも知力と器用が欲しかったからだ。
このパラメータも、キャラメイク時にだけ、規定値よりマイナスさせることでBPの払い戻しを受けることができた。たぶんフルスクラッチ勢だけだと思うけど。
あと、偏ってることにもメリットがある。
実はパラメータが均されている方が有利なスキルと、逆に偏ってる方が有利なスキルがあるのだ。
例えば魔剣士パッケージの基本技の『MP消費攻撃』は、MPを消費することで武器による攻撃の威力がINTの数値分加算されて計算されるスキルだ。武器による攻撃の威力はSTR依存なので、STRとINTが両方高いほうが威力が高い。
一方で斧士パッケージの高レベルで取得する『大切断』は、STRの値がINTの値より高い分だけ攻撃力に上乗せされる効果がある。脳筋であればあるだけ威力が高いってことだね。
そういった、複数のパラメータを参照するスキルもある。その内容によっては偏っていたほうが良いほうがあるし、逆の場合もある。
もっとも僕はその手のスキルを取ってないから今は関係ないんだけど。
そういうわけで、僕は15の小娘である割には腕っぷしには自信があるため、いっちょハンターとして身を立てようと考えたのである。
★ ★ ★
マジカルズ農パワー気に入ってます。今後出てこないけど。
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