第5話 魔族

 さっきは大成する「人物」とか普通の「人」とか言っていたけど、基本的には魔族も人──人類の一種だ。

 同様にエルフやドワーフ、獣人なんかも人類種に分類される。

 それらの中で最も数が多く種族的特徴が少ないのが、前世で言うところの普通の人類──ヒューマンというわけだ。


 僕の『魔族』はもちろん、転生時に例のコントロールパネルで選択した。

「生まれ」の項目に「種族」の欄があったからね。

 ただ、種族を選択するには相応のBPが必要で、人類の基本種族であるヒューマンなら消費BPはゼロ、エルフなら消費BP50、ドワーフは消費BP20、獣人は消費BP10で、魔族は消費BPが100だった。逆にハーフリングやオークなど、ヒューマンに比べて何と言うか、チャレンジ要素強め(ポリティカル・コレクトネスに精一杯配慮した表現)な種族については、消費BPがマイナス、つまり選択した時点で一定のBPが還元される仕様になっていた。


 ヒューマンが基準種族になっているのは、世界的に見てヒューマンの能力値がほぼ平均値であることと、ヒューマンの社会的地位も平均くらいであることが理由だと思う。人口も最も多いし。

 なので、ヒューマン系の国家に逆らうととにかく生きづらい。

 エルフの消費BPが高いのは、ヒューマンと友好的な種族でかつヒューマンよりもパラメータ平均が高いからだろう。


 例えばヒューマンで言うと、成人の平均値はすべて5だった。

 それに対し、エルフは知力、精神の値がヒューマンよりも1ずつ高く、さらに『長寿』と『美形』という「生まれながらの特徴」がついてくる。

 ハーフリングなら、DEXやAGIはヒューマンよりも2高いものの、それ以外の能力値は全て2低いというデメリットがある。それでいて、エルフのような有利な特徴も持っていない。

 オークはというと、ヒューマンよりもSTRやVITはかなり高いものの、それ以外の数値は低めで、かつ「エルフ、ヒューマン、ハーフリングから嫌われやすい」というマイナスの特徴を備えている。


 この「生まれながらの特徴」とは文字通り、初期ビルド時にしか選択できないもので、プラスの特徴もあればマイナスの特徴もある。

 プラスの特徴はエルフで例に出したようなもので、マイナスの特徴ではオークのような「嫌われやすい」などのほか、面白かったものに「足臭:あなたは生まれつき足が臭い」なんてものもあった。足の臭いを嗅いだ相手からの友好度が大幅にマイナスになるとかいう呪いのようなものだった。取得すると初期BPが50増えるが、デメリットに見合ったメリットかどうかは考えものだ。


 そこで僕の種族である魔族の話だけど、魔族にもエルフ同様パラメータのボーナスと生まれながらの特徴がある。

 パラメータはヒューマンに比べ、精神以外の全ての値が1高く、生まれながらの特徴として『長寿』と『枢要』があるのだ。

 枢要とは、簡単に言うと物事の中心とか要とかそういう意味の言葉である。しかし、こと魔族特有の特徴となると少しばかり意味が変わる。

 魔族の特徴における『枢要』とは、その魔族が生まれつき持っている、まあ言ってしまえば特殊スキルのようなものを指すのだ。


 魔族は例外なく、持っている『枢要』の種類によって一部のパラメータにボーナスを得ていたり、パッシブな効果やアクティブな技を持っていたりする。

『枢要』には八種類あり、魔族であれば例外なくそのうちのいずれかを持って生まれてくる。サンプルキャラクターやパッケージビルドだとどの『枢要』かも決まっているが、僕はフルスクラッチなのでどれでも自由に選ぶことができた。効果を見てみると、あって困るものでもなさそうだったのでとりあえず全種類取得しておいた。

 何しろ、『枢要』は「生まれ」に魔族を選択した時点で無料でついてくるのだ。タップしてどの『枢要』を取得するかを選ぶんだけど、迷いながらタップしていったら全部選択出来ちゃったんだよね。あれ多分バグだと思うんですけど。まあ自分に優しいバグは仕様だと思い込むことにして、そのままいただいておいた。


 ここまでくると、これだけのメリットがありながら魔族に生まれるのにたった100BPの消費で済むなんておかしいと思うかもしれない。

 でも魔族にはひとつマイナスの特徴がある。

 それは、「魔族と知られれば、魔族以外の全ての人類種から敵対される」というものだ。

 好感度がどうとかの数値の話ではなく、嫌われやすいとかのやんわりした表現でもない。文字ではっきりと「敵対」と表現されているくらいだから、きっと仲良くするのは無理なんだろう。

 これのおかげでBPが100も払い戻しになっているので、能力的なことだけで言えば、魔族に生まれただけでヒューマンに比べてBP200分のアドバンテージを持っていることになる。その代わり種族的にめっちゃ嫌われてるんだけど。

 でもそれも、この魔帝国で生活する限りは何の不便も感じない。

 だって魔族しかいないし、魔族以外の人類が住むエリアとは、険しい山脈によって完全に分断されているからだ。魔族安住の地である。


 魔族という種族はただそう生まれただけで、平均的BPである100ポイントを消費して作成したヒューマンと同じだけのポテンシャルを秘めている。

 僕は初期BPが200もあったおかげで、ただでさえ能力的に有利な魔族を選択し、かつ100ポイントのBPを好きに振り分けることができた。

 しかも、システム上消費がゼロの『枢要』を全て選択した上で、である。


 それだけの才能を持って生まれ、しかも侯爵令嬢として、皇后としての教育の傍ら、自らを鍛え順調に経験値を稼いできた。

 しかしその行く末は皇太子の嫁である。安泰かもだけど面倒そうだなーと思っていたところへ、この勘当劇だ。


 最初こそ戸惑ったが、正直に言って、僕は勘当されて感動した。


 だって、これで晴れて自由の身になれたのだ。


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