第3話 フルスクラッチビルド

『パッケージを選択するパッケージビルドではなく、フルスクラッチビルドをお望みでしょうか』


 そして期待通りの謎の声。


「そうかもね。次はフルスクラッチビルドについて説明してもらえるかな」


『フルスクラッチビルドとは、お持ちのビルドポイントを使い、スキルや各種パラメータを自由に取得あるいは成長させる作成方式です。パッケージビルドでは、選んだパッケージによって転生後に取得可能なスキルが決まっており、また各種パラメータの成長内容も決まっております。ビルトキャラクターは、そのキャラクターに相応しいパッケージがすでに選択されているため、転生後はパッケージビルドと同様に成長いたします。

 対してフルスクラッチビルドでは、パッケージやキャラクターの生まれなどに関係なく、ビルドポイントさえあれば自由にスキルを取得しパラメータを伸ばすことが可能です。

 ただしフルスクラッチビルドは、スキルの取得や成長の際、パッケージビルドやビルトキャラクターよりも多くのビルドポイントを必要とします』


「なるほど? 具体的には?」


『例えば必要BP100で選択可能なビルトキャラクターがいたとして、このキャラクターと同じパラメータ、同じスキルをフルスクラッチビルドで取得しようとした場合、およそ120~140程度のポイントを必要とします。パッケージビルドと比較しても同様です』


「自由の代償というわけか──いや、逆かな。むしろビルトキャラクターやパッケージビルドに対するボーナスか。ということは、転生センターはよほどフルスクラッチビルドをしてほしくないようだね」


『……』


 考えてみれば当たり前か。

 ビルトキャラクターやパッケージビルドは誰かが用意したレールのようなものだ。

 その誰かが転生センターの者なのであれば、できれば転生者にはレールに沿って生きてもらいたいと願うだろう。その方が予測しやすいし、イレギュラーも少ないはずだ。

 あるいはビルトキャラクターやパッケージビルドは、フルスクラッチで予測不能なビルドをされないために用意されたものである可能性すらある。


「よし。そういうことならせっかくだから僕はこのフルスクラッチビルドを選ぶぜ。えっと……なんだ、生まれからしてBPが要るのか。どうせだったら貴族がいいな。貴族なんて現代じゃもう絶滅してるし。貴族は、と……高いな! さすがに勿体ないか……。おや、必要ポイントマイナス項目? つまり、これを選択するとポイントが逆に貰えるってこと? そういうのもあるのか……。なるほど……種族も……。それならこういうのは……」



 ◇



 これが僕の知る限りで一番古い記憶。そして、本来は持っていないはずの記憶。

 なぜならあの空間での出来事は、転生して物心がつく頃には全て忘れてしまうはずだから。

 いや必死で推しキャラ探してる人とかいたけど、何選んでもどうせ覚えてないらしいよ。ああいうの、骨折り損のくたびれ儲けっていうんだっけ。ご苦労さま。


 じゃあなぜ僕にその記憶が残っているのかと言うと、フルスクラッチビルドを選んだから。

 ビルトキャラクターやパッケージビルドの場合、転生後の行動や経験、それで得られた経験値によって、レベル的なものが上昇するシステムになっているらしい。そしてそのレベルに応じて、各パッケージで決められているスキルを覚えたり、特定のパラメータが上昇したりする。まあごく一般的なRPGと同じだ。


 対してフルスクラッチビルドの場合、決められたパッケージとやらがまず存在しない。

 どうなるのかというと、行動や経験によって経験値が得られるところまでは同じだが、その経験値はあの空間で見たBPとしてストックされるのだ。

 そしてそのBPを、やはりあの空間と同じように、自由に使用することができる。当然、生まれや身分のような、先天的にしか得られないものを選ぶことはできない。

 しかしそうすると、あの空間で触れていた半透明のウィンドウが必要になり、また随時その操作をしなければならない。


 そういうわけで、フルスクラッチビルドを選んだ僕には、あの転生センターでの記憶が保持されているというわけだ。生前のことまではさすがに覚えていないけど。

 フルスクラッチ勢がポイント的に不遇になっているのは、この仕様の影響もあるんだろう。前世のはっきりとした記憶まではなくとも、転生するまさにその時の記憶を持った人間など、そうそう居ていいものではない。絶対宗教観とか哲学とかに悪い影響を及ぼすし。


 そして、パッケージビルドのメリット、いやフルスクラッチビルドのデメリットは他にもあった。


「──侯爵家に生まれながらまさか『無職』で、しかもレベルも『無し』とは……。

 ヴィオーラ、お前のような出来損ないを我がグロリアス家に置いておくわけにはいかん。荷物をまとめてとっとと出ていけ。せめてもの情けとして、これまでお前に買い与えてやったものはくれてやる。

 当然だが、皇太子との婚約も破棄だ。無職の娘など、恥ずかしくてとても皇室には見せられん。

 対外的にはお前は死んだものとする。二度とグロリアス家に関わるな!」


 パッケージビルドのあの『剣士』とか『槍士』、この世界ではどうも生まれながらの職業として認識されてるみたいなんだ。ビルトキャラクターにもそれぞれ相応しいパッケージが選択されているとか言ってたから、職がないのはフルスクラッチ勢だけってことになる。


 いや、言っとけって話だよね。そんなことは。転生時にさ。

 そう思いつつも、まあ難しいかな、とも思う。

 あの時推測したように、おそらく僕の前世の世界はいくつもの分岐の上に成り立っている、無数のパラレルワールドのうちのひとつだろう。

 そして今僕がいるこの世界もまたそうだ。

 パラレルワールドなら、たとえ同じパッケージで活躍出来るそっくりな世界だったとしても、完全に同じというわけではない。

 他の多くの世界では、選択したパッケージを知る手段なんてなくて、無職がどうとかレベルがどうとか誰かに言われたりすることなんてないのかもしれない。

 だとしたら僕の運悪すぎると思うんだけど、まあそうなっちゃったものは仕方がない。

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