第2話 パッケージビルド

 検索タブをタップすると、下方にずるりと広がった。検索用の入力窓の他、それぞれのキャラクターの元となった作品名が無数に並んでいる。作品名の頭にはチェックボックスがあり、現在は全てのチェックボックスにチェックが入っている状態だった。


 何とはなしに見ていると、僕の知らないゲームタイトルを発見した。

 いや僕だって世の中の全ての創作物を把握しているわけではないし、見知らぬタイトルを見つけたとしてもそれがゲームなのかアニメなのか、漫画なのか小説なのかも判断できない。

 でも、確実にそれは「知らないゲームだ」と断定できるものだった。

 なぜなら。


「ゴールデンKKTXIV14? これって確か9作目までしか出てなかったと思ったけれど。製作会社も倒産して……。あ、まさか」


 無数に存在する平行世界。

 それは、転生前に僕が住んでいたであろう世界にも同じことが言える。だからこそ、僕は自分自身の生前もナニカのキャラクターだったのではないかと邪推した。

 で、あるならば。

 株式会社HJがゲーム業界の覇権を握り、ゴールデンKKTが14作目まで恙無つつがなくリリースされた世界線があったとしてもおかしくはない。


「なるほどね……。そりゃキャラクター数も膨大になるわ……。さっきの彼が迷うのもわかるわ……」


 埒が明かない。

 僕は検索窓の作品チェックボックスから一旦全てのチェックを外し、知っている作品のみをタップしようとし──妙なものを見つけた。


「……パッケージビルド? なんか、作品名っぽくないな。いや有り得ないとは言わないけど。昨今はどう考えてもタイトルとは思えないようなタイトルの作品も増えてきてたし」


 試しに、そこにだけチェックを入れてみる。

 すると──誰の名前も表示されなくなった。


 変わりに、ウィンドウの名前が変化し、「選択可能なキャラクター」から「選択可能なパッケージ」になる。


「おや?」


 選択可能なパッケージ一覧には、「剣士パッケージ」や「槍士パッケージ」など、先ほどキャラクターの欄で見かけたワードのついたパッケージもある。


『ビルトキャラクターからの選択ではなく、パッケージビルドをお望みでしょうか』


 謎の声が聞こえる。

 先ほどまでは「キャラクター選択」と言っていたはずだが、「ビルトキャラクターの選択」に変化している。


 察するに、こちらが持っている情報によって説明に変化がある、ということだろう。

 先ほどまでは、用意されたキャラクター──謎の声風に言うのであればビルトキャラクター──の中から選択する以外には、文字通り選択肢がないのだろうと思わされていた。

 謎の声は別に、キャラクターを選ぶことでしか転生できないとは言っていない。ただ「転生後のキャラクターを選んでください」と言っただけだ。選ばない場合、どういう処置になるのかを言わなかっただけなのだ。


「とりあえず、そのパッケージビルドとやらについて聞かせてくれ」


 すると案の定、謎の声は淀みなく説明を始めた。 

 やはりこの情報は、パッケージビルドの存在に僕が気づいたからこそ開示されたと考えるべきだろう。


 不思議なことに、周りにはたくさんの人影があり、おそらくはその各々が僕と同様に謎の声と会話をしているのだろうが、それらの声は一切聞こえてこない。逆もそうなのだろう。僕と謎の声の会話は誰にも聞かれていない。

 そうでなければ情報に制限をかける意味はない。


『パターン化されたパッケージを3つ選択してビルドする方法です。パッケージにはそれぞれ必要BPが設定されており、3つのパッケージの必要BPの合計がご自身のビルドポイントを超えるような選び方は出来ません。

 またパッケージには戦士タイプ、魔法使いタイプ、斥候タイプ、職人タイプなどがあり、各タイプがさらに得意なものごとに細分化されています。例えば戦士タイプの中には剣士パッケージ、槍士パッケージ、斧士パッケージなどが含まれています。同一タイプのパッケージには重複するスキルやパラメータがありますので、同一タイプを複数選ぶと重複したスキルやパラメータはその分数値やスキルレベルが上昇します』


「3つ選択、か」


 先ほど何気なく見たビルトキャラクターのステータスには「剣士」、「槍士」、「盾士」のみっつのワードが並んでいた。


「……ビルトキャラクターとはつまり、このパッケージの中から3つを選択して作られたものだということかな? ビルドというのはそういう意味……。それがたまたま、いずれかの物語の登場人物に似通っているだけだ、と……。なるほど、なるほど……」

 

 パッケージビルド、というのは、要すれば、用意されたこの数多くのパッケージから3つを選択し、この場で新たなキャラクターを作り出すことを指しているのだ。


 と、ここまで考えればアホでもわかる。

 パッケージを用意したのは誰なのか。いや、それは重要ではない。

 重要なのは、どうやって用意したのか、だ。

 パッケージが用意されているというこの状況は、先ほどまでの、ビルトキャラクターが用意されていた状況ととてもよく似通っている。

 ならば、ビルトキャラクターに対してパッケージビルドが存在したように、このパッケージビルドに対しても何らかの代替手段が存在している可能性がある。


 僕はパッケージのウィンドウのタブを開き、検索用のチェックを全て外し、ひとつひとつのタイプを見ていく。

 謎の声の説明通り、戦士タイプや魔法使いタイプなど、多岐にわたるタイプがある。

 ざっと目を通して、「タイプ」と付いていないワードを探す。

 そして。


「……見つけた」


 無数の「タイプ」の中に埋もれていた、『フルスクラッチビルド』の文字を。




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