第14話 赤村怜亜は恋をした

 ◇赤村怜亜視点


 私には好きな人がいた。

それは同じクラスの上杉夏樹くんだった。


 どこが好きなのか?と聞かれたら何とも答えづらいのだが、全てというのが正しいだろう。


 一目惚れだった。


 生まれてこの方、100度告白されてきたが誰かを好きになったことは一度もなかった。


 だからこそ、誰と付き合うわけでもなく、ここまでやってきたのだ。


 しかし、それが仇となり、私は好きな人ができてから初めて自分というものを理解した。


 私は恥ずかしくて一切話しかけることができなかった。

何度も挑戦しようと思ったけど、声が出なくなって、何を話していいか分からず真っ白になって、結局遠くから見守ることしかできなかった。


 だけど、それでもよかった。

どうやら彼は友達がいないようで、もちろん女子と話すところもほとんど見たことがない。


 つまり、誰かに取られるという心配は一回なかったのだ。

それなのに...ここ最近、ニーナが夏樹くんと話しているのを見かけるようになった。


 それが不安で不安で仕方なかった。


 ニーナと話している時の夏樹くんは嫌そうだけど、どこか楽しそうだった。

...ずるいって思ってしまった。


 だから私も動かないと思って、本日話しかけることにしたのだった。


 ◇7:45


 いつもより早めに家を出た。


 理由は今日は夏樹くんが日直の日だからだ。

つまり、偶然を装って話しかけるチャンスを狙っていたのだ。


 クラスメイトの目がないほとんどない状況であれば、私だって話しかけることくらいはできる。


 そう思いながら、スキップしながら教室に入る。


 すると、教室にはすでに3人のクラスメイトがいた。


 それは夏樹くんと、その隣の席で同じく日直の岩井くん。

それと、茶奈だった。


 更に茶奈は何故か夏樹くんの隣の席に座って、楽しそうに何か話をしていたのだった。


「...あっ、おはよ。怜亜」と、いつも通りのテンションで挨拶してくる茶奈。


「お、おはよ...。珍しいね、こんなに早く来てるなんて」と、無理やり笑って見せるが多分今の私は上手に笑えていない。


「まぁね。怜亜こそ珍しいじゃん」

「う、うん。ちょっと早起きしちゃって...」と、ようやく夏樹くんに目線を映して、「お、おはよ、上杉くん...」と、心の中では名前で呼んでくるくせにちゃんと苗字で呼ぶ私。


「あっ、お、おはようございます...赤村さん」と、この時初めて会話を交わした。


 わ、私を見てくれてる!挨拶を返してくれた!と、そんな些細なことで私の心はすごく満たされた。


 しかし、私への挨拶が終わると、ニーナが楽しそうに夏樹くんに話しかける。


「それで?おすすめの小説は?」

「いや...俺は別にそんなに詳しくないし...安善さんが好きそうなジャンルとかも分からないし」

「ミステリーは好きだよ」

「み、ミステリーかぁ...何があったかな」


 多分、茶奈は自分で気づいていない。

今、自分がどんな顔をしているか。

そして、どんな感情を抱いているか。


 ...あぁ、よりにもよって茶奈もか。


 私は決して性格はよくない。

そのことは自分が一番知っていた。


 嫉妬もするし、嘘もつくし、嫌な相手には遠回しにそれなりの対応をする。

誰にでも優しい赤村さんなんてどこにも存在しないのだ。


 だから、今も素直に嫉妬して、茶奈に対して、友達に抱いては行けないような感情を抱く。


 私は...最低だ。


 そのまま、私は自分の席に向かっていき、自己嫌悪に陥る。


 こんなことになるなら、恋なんかしなきゃ良かった。


 そう思っても全てはすでに時遅しだった。


 あぁ、恋ってこんな気持ちなんだ。

そう思ったのである。

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