第10話 シェアハウスの幕開け
「...」「...」「...」「...」「...」
我が家のリビングで全員無言で向かい合う。
なんですか、この地獄の空気。
嫌です。帰りたいです。
いや、帰っていただきたいです。
「へぇ?いやー、確かに私がアドバイスしたんだけど、まさか同棲までいっちゃってるとはねー?いやー、別にいいんだけどね?けど、個人的にはこの中で一番夏樹くんを理解してるのは私と思うけどね」と、まずは赤村さんが先制パンチを放つ。
「えぇ〜?そうかな〜?職場も一緒でお昼も食べたり〜、帰ったりしてて〜、お酒も飲んだり〜、プライベートでも仕事でも一緒な私のほうが理解してると思うけどな〜」と、柔らかい口調で対抗する白田さん。
「...高校時代に話していたのはこの中で私だけだけどね。新参者がなんか言ってるけど、客観的に考えて最も一緒にいた時間が長くて、距離が近かったのは私だけどね」と、静かに闘志を燃やす安善さん。
「私は...。私は、なんとも言えないかな。きっと、みんなの方が上杉のことを幸せにできると思ってる。私と一緒になっても多分幸せにはなれない。けど、それでも...上杉が私を選んでくれたなら嬉しい」と、少し俯きながらそういう金野さん。
そうして、全員の視線がこちらに向く。
「いや...俺は...」と、なんと言っていいか分からず目線を逸らす。
だって、全員俺なんかには勿体無いスペックを持っていて...。
きっと、俺なんかよりお似合いの人はたくさんいるはずだ。
何より、怖いんだ。
好きになって、一緒の時間を過ごして、いつか結婚して...その先でもいつか自分なんかより理想的な人が現れた時、俺はまた捨てられてしまうのではないかって。
分かってる。
目の前にいる4人はそんなことをしない。
あれは元カノだからされただけってことくらい。
それでも...それでもなんだよ。
もう、1人でもいいって思い始めていたのに。
「俺なんか...大したことない人間だよ。みんなに好かれるようなそんな大層な人間じゃない」
そうして、少し俯きながら呟く。
「気持ちは痛いほどわかるよ。元カノにされたことを考えれば、一歩踏み出すのは怖いのは分かる。けど、だからこそなんじゃないかな。私は...ううん、ここにいる皆んなはそれを待てるよ。今すぐ気持ちに答えて欲しいなんて思ってない。ゆっくり考えればいいよ」と、赤村さんは優しく笑いながらそう言ってくれた。
すると、ポンと手のひらにグーを乗せながら閃いたかのように話し始める白田さん。
「あ〜、いいこと思いついた〜!みんな一緒に住もうよ〜!シェアハウス的な〜?そしたら、抜け駆けとか出来ないし、楽しそうだし〜、ニーナもそのほうが助かるでしょ〜?どう〜?」と、提案される。
俺にとっては天国のような地獄のような話だったが、現時点でニーナと同棲しているという事実を考慮すれば、俺に断る権利はなかった。
「...同棲って...まぁ、私は別にいいけど。部屋さえあれば配信できるし。けど、V的にも女子たくさんとの同棲って結構メリット大きそうだし。アリかも」と、意外にも乗り気な安善さん。
「え?み、みんな乗り気なの?きっと私だけ反対したら、4人で住むみたいな流れになるよね?え...でもシェアハウス...。ラッキースケベもいけるかも...?」と、混乱から変なことを口走る赤村さん。
当然、ニーナも反対する理由はなく、早速物件を探し始める女子4人。
おいおいおいおい、まじかよ。
金野さんとの同棲すらまだ始まったばかりなのに、全員とシェアハウスとか...。
「ほら、こことかよくない?」
「え〜、私たちの職場遠いよ〜」
「...私はもう少し個室が広いところがいい。でも、意外とシェアハウスって多いんだね。なんかエロい」
「私はどこでもいいよ」
困り果てながらも、こうしてまるで学生時代の時のように楽しく話している4人を見ていると、何となく懐かしく、ほっこりした気持ちになる。
「ちょっと、何してるの夏樹くん。こっちに来て、一緒に物件を見よ?」
昔はその輪に入れるわけもなく、蚊帳の外から眺めているだけだったのだが、今ではその輪の中心に自分がいた。
奇妙な感覚だが、決して悪くはない感覚だった。
こんな時間がずっと続けばいいのになんて、そんなことを思っていたのであった。
そして、あれよあれよという間に時が流れ、1ヶ月後には家が決まり、住むことになった。
ちなみにその期間は、金野さんは赤村さんと同棲することとなり、俺は残りわずかの一人暮らしを楽しんでいた。
引っ越し先は新築の5階建のシェアハウスであり、1フロア5人ということでベストであり、3階が俺たちの住む家となった。
もちろん、共同の空間の他にプライベートな部屋が5つ用意されており、シャワーやトイレなどもそれぞれの個室にある。
ラッキースケベなんて期待はしていなかったが、少しだけそこにはショックを受けざるを得なかった。
そうして、忙しい合間を縫って、引越しの作業を始めて、シェアハウスでの暮らしが幕を開ける。
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