第8話 好き同士でも結ばれない

 ◇数日前


「...久しぶりだね、怜亜」

「久しぶり、ニーナ」


 同窓会から数日後のある日、私は怜亜に呼び出されて、とあるカフェに来ていた。


【挿絵】

https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818093089656089514


 正直、家庭の事情で色々あってからは私の周りから人はどんどん居なくなっていった。


 まぁ、当たり前と言えば当たり前か。

関わると面倒毎になりそうだし。

しかし、未だにこうして連絡してくれる友達がいる。


 それだけでも私は幸せものなのだろう。


「この前ね、夏樹くんと会ったよ。夏樹くんの家でね」


 その言葉に思わず手が止まる。


「...そうなんだ。私も同窓会で少し話したよ。全然変わってなかったよね」


「そうだね。昔と変わらず、優しかったよ。けど、色々あってすごく傷付いちゃってね。私の口から言うことではないから、詳しくは言わないけど...。簡単に言うと同棲していた元カノさんに裏切られて、逃げられたんだ。それでも、未だにその家に住んでる。だからね、そばにいてあげたいって思ったんだ」

「...ごめん、話が読めないんだけど。私を呼んだのは上杉の話をするためなの?」と、少し怪訝そうな口調で言ってみる。


「そうだよ。今、私は夏樹くんが好きだから。別にニーナが興味ないっていうなら、友達が好きな人の話をしているんだって思ってくれればいい。もし、夏樹くんに何か思うところがあるなら...あらかじめ確認しておこうと思って」

「...別に私に確認なんていらないでしょ」

「そんなことないよ。きっと、私が1年かかることをニーナなら一瞬でできてしまうから」と、言い切られた。


 学生時代、私は上杉の事が好きだった。


 なぜ好きになったか...については一旦置いておいて、とりあえず好きだった。

 多分上杉も私のことが好きだった。


 だけど、結局卒業するまでお互いの気持ちを口にすることはなく、こうして10年経った。

そして、嫌々ながら参加した同窓会で、上杉と再会した。


 正直、怖かった。

見下されてるんじゃないか?馬鹿にされるんじゃないか?あーこいつと付き合わなくてよかったとか思われるんじゃないか...。


 だが、そんなことは杞憂だった。

昔と変わらない優しくて虚ろな目で私を見つめて、すぐに昔の感情が呼び戻された。


 10年経っても私は好きなままだった。

どんなイケメンに抱かれても、どんなお金持ちに抱かれても、どんな有名人に抱かれても、埋まらなかった心の中をあっさりと笑顔だけで埋めてくれた。


 それだけで嬉しかったのに、私にあるものを返してくれた。


 それは...私の勇気でもあったネックレス。

これを持っていてくれたこと、持ってきてくれていたこと、覚えていてくれたことが嬉しすぎて、茶化すようなことを言ってしまった。


 やっぱり、大好きだった。

それから数日、無理やり交換したRINEに連絡しようとして何度も挑戦し、何度も辞めた。


 私は何も変わっていなかった。


「...ごめん。強がった。本当は好き。上杉のこと...ずっと前から」

「...そうだよね。知ってた。だけどいいの。私はね、夏樹くんが幸せになるならそれでいい。けど、負ける気はないよ。ちゃんとニーナと向き合った上で私を選んで欲しいって思ってるから」


 知ってる。

怜亜は昔から正々堂々という感じのまっすぐな女の子だったから。


「...うん。受けてたつ。けど、私は負けるつもりはないから」


 それからは私はお店に顔を出さなくなってしまった。

もう、誰かに抱かれるのが嫌になったから。


 元々、お金がなく家賃滞納を繰り返していたこともあり、それも重なり、ある日突然家を追い出された。


 しかも、大雨の日だった。


 そんな私が向かう場所は一つしかなかった。


 ◇


 勇気を出して、家の周りに来たものの、インターホンを押すのが怖くて、ずぶ濡れの中、ひたすらキャリーバッグを引いて歩いていた。


 そしたら、ちょうど上杉が出てきて、家にあげてもらって、更に家に住ませてもらえることになって、一緒のベッドで寝ることに成功した。


 個人的にはそういう流れになってもやぶさかではなかったが、私に手を出すことはなく、2人で抱き合って寝るに留まった。


 そして、早朝目を覚ますと、目の前には大好きな人の顔があって、耐えきれず初めて自分からキスをした。


 それでも目を覚ますことはなく、変な顔で寝ていたので、ちょっかいをかけ続けた。

この時間が楽しくて仕方なかった。


 すると、そんなタイミングで彼の携帯が鳴る。


 ダメだと分かっていながらも、誰から来たのか気になってスマホをタッチする。


 すると、3人から連絡が来ていた。


 それは奇しくも、私以外の四傑女子からの連絡だった。

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