第7話 ずぶ濡れの好きだった人
安善さんが帰ったあとは、特にやることもないので家でゴロゴロとしていた。
ここ数日、赤村さんに白田さんに安善さんと...結構慌ただしい日々を送っていたため、1人の休みを謳歌していた。
もちろん、誰かと遊ぶのは楽しいのだが、1人で居るのも結構好きだった。
適当にサブスクの映画を漁り、のんびり過ごしていた。
外は相変わらず雨。
朝方少し晴れてからはずっとまた雨が続いていた。
あー、買い物...しに行かないといけないんだよな。でも、めちゃくちゃ雨降ってんだよなー。
そうして、少し渋っていたものの、空腹には勝てず嫌々外に出ようとした。
適当な服を着て、玄関の傘をとって、扉を開けると、そこにはずぶ濡れの女性が立っていた。
「うわっ...って...金野...さん?」
そこに居たのは全身ずぶ濡れで虚な目をした金野さんだった。
「...家追い出されて...。少しの間でいいからここに居させてくれない?...無理なら他のところに行く」と、ポツリとつぶやく。
断ろうとも思ったが、そんなことを言える状況でもなかったので、「...いいよ」と受け入れてしまうのだった。
【挿絵】
https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818093089494741252
そうして、ずぶ濡れの彼女を家にあげて、「シャワー...はそっちの部屋だから。タオルは好きに使っていいよ」と伝える。
最近このパターン多いな...。
そう思いながら、出かけるわけにもいかなくなり、一旦家の中に戻る。
「...ありがとう」と、ぽつりと呟くと、そのまま着替えらしきものを持って、お風呂に向かって行った。
家を追い出された...とは中々にすごいことになってるな。
そう思いながら、大変申し訳ないが、外に出るのは諦めて、大雨の中ではあるが配達をお願いすることにした。
そうして、やや緊張しながら待っていると、それから30分ほどしてようやくお風呂から出てくる。
かなり薄めのキャミソールと短めのパンツを履いていた。
そのまま何も言わず、相変わらず暗い表情のまま、ソファに座る。
【挿絵】
https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818093089494754619
「...一応...ご飯頼んでおいた」
「...ねぇ、あんた馬鹿でしょ?」
「...え?」
「私が本当に家を追い出されたかどうかも分からないのに、私を庇うなんて。嘘だったらどうするの?」
「...そこまでは考えてなかった」
「相変わらず馬鹿だね。賢い馬鹿」
「...ごめん」
よく分からないが謝罪した。
数分後に届いたファミレスのご飯を2人で食べる。
雨ということもあってか、少し冷めていたが十分美味しかった。
特に会話もなく、テレビを見ながら黙々と2人並んでご飯を食べる。
そうして、食べ終わると「...ごちそうさま。ありがとう」と、小さくお礼を言った。
「...うん」
「そういや、玲亜から話聞いたよ。彼女さんを同僚に寝取られてそのまま二人とも居なくなっちゃったんだってね」
「...うん」
「昔から女を見る目がなかったもんね。私を好きになるくらいだし、本当に相当見る目ないよね」
やっぱりバレていた。
いや、バレているかもとは思っていたが...。
「...」
「そこはそんなことないよ!って言えよ」と、パシンと背中を叩かれる。
「...ごめん」
「私のこと誰かに聞いた?」
「...いや、何も」
すると、少し意外そうな顔をして、そのまま話し始める。
「そっか。まぁ、簡単にいうと父親が借金して私と母さんを置いて出て行った。借金していたのがヤクザさんだったから、踏み倒しとか無理で、私は今一生懸命体で支払ってるってわけ。そんで、母さんがこの前自殺してさ。もうなんかどうでも良くなって、家を出てきた。だから、もし私を庇ったら面倒なことになるよ。それでも私を庇う?」
「...別にいいよ。好きなだけ居て」
「...この話を聞いて追い出さないとか、本当馬鹿。それともまだ私のこと好きなわけ?それなら、いいよ?泊めてくれる代わりに私のこと好きにして」
真剣な眼差しでそう言ってきた。
「...そういうのいいよ。もう...誰にも裏切られたくないから」
「...そっか。分かった。じゃあ、好きなだけ居させてもらう」
「...うん。部屋はあっちの部屋使っていいよ。布団とかで良ければ押入れに入ってるし」
「いや、寝るのはベッドがいい。てか、今1人で寝るのは無理。怖いし。てことで、あんたと一緒に寝る」
「...いや、それは...」
「別にエロいことはしないよ。したくなったらしていいけど」
昔からこうだった。
彼女に何かを言われると反論できなくて、結局頷いてしまっていた。
白田さんや安善さんの時は断れていたのに、彼女に迫られると何も言えなくなる。
そのまま、歯を磨いて、後は寝るだけになると彼女に手を引かれてベッドに連れて行かれる。
「相変わらずちょろいよね、あんたって」
「...そうだね」
「自覚ありか。まぁ、いいけど」
すると、金野さんは俺の胸に顔を埋めると、すぐにすやすやと寝息を立て始める。
突然の出来事に関してはこの数週間でたくさん味わったせいで、何となく慣れてしまっていた。
しかし、それでも心臓の鼓動はかなり早くなっていた。
緊張していたのだ。
当たり前だ。初恋の女の子が今、腕の中にいるのだから。
そのまま、彼女から離れることもなく俺も眠りについた。
朝起きたら、家の中は間抜けの殻になっていた...なんてこともなく、普通の月曜日が幕を開けた。
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