第6話 夢かまことか
「い、いや!家はちょっと...」
「...恵は連れ込んだくせに」
「いや!あれは白田さんが酔っ払ってたから...」
「じゃあ、私も酔っ払う」
「そういうことではなくて...」
やんわりと断ろうとするが、なかなか折れてくれない安善さん。
すると、痺れを切らしたかのようにこう言った。
「じゃあ、もしニーナに迫られたら、あんたはどうするの?」
そんな言葉に思わず、反応が止まってしまう。
数秒後、「...何で金野さんの名前がここで出てくるの?」と、質問する。
「そんなの、上杉が一番わかってるでしょ。上杉が好きだったから。それ以外にここで名前を出す必要がある?」
...そんなまっすぐな言葉に思わず苦笑いしか浮かべられなかった。
「笑ってる場合じゃないけど。どうなの?」
「それは...高校時代の話だから」
「でも、この前連絡先交換してたでしょ?見てたよ」
「あれも無理やりっていうか...」
「ふ~ん?どうだか...?ってことで家に連れて行って」
それからも何度か断るものの、こちらの声に耳に貸すことはなく、ずっと後ろをついてくるのであった。
まいったな...。
そう思いながら結局は家に帰り、仕方なく家に上げると、勝手に寝室のほうに行き、チェックを始める。
「...くんくん...女の匂いはしないか...」
浮気チェックみたいなの始まったんですけど...。
「それじゃあ、お風呂借りるねって、こっちの部屋何?」と、元カノが使っていた部屋に入る。
もう数か月経ってほぼ空き部屋のようになった部屋を見て、「何この無駄に広い部屋。てか、この部屋いる?あっ、もしかして元カノと同棲してたけど逃げられて空いた部屋的な?」と、少し笑いながらそんなことを聞いてくる。
「...まぁそんな感じ」というと、「正解なんだ...ってか、元カノと同棲してたんだ」と、つぶやくとそのまま無言でお風呂のほうに消えていくのだった。
安善さんがいなくなった後に、その部屋を見つめる。
もう帰ってくるわけもないのに...無駄に部屋が多くて家賃が高いところに住む意味ないよな。
そうだな...そろそろ引っ越しを考えるが。
てか、多分このまま寝間着に着替えて帰れと言わせない作戦だよな...。
巧妙な作戦だこった...。
タオルの場所とか知ってるのか?
そんなことを考えていると、外から雷が聞こえてくる。
すぐにものすごい雨音が聞こえてくる...。
これじゃあ、ますます帰れとは言えないよな...。
ソファに座り、ぼんやりとテレビを見ていた。
すると、だんだん眠気が襲ってきて、いつの間にか眠ってしまっていた。
◇
「ちょっと...そんなところで寝ちゃだめだよ?」と、佳奈が笑いながら俺の頬を抓る。
「っ...あっ...ごめん...寝てた」
「知ってるwご飯はできてるよ?」
【挿絵】
https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818093089479603368
テーブルに目をやると、そこには佳奈の得意料理のオムライスが二つ並んでいた。
「...美味しそう」
「おいしいですよ~?」と、楽しそうに笑う。
わかってる...。
これは過去の記憶であり...ただの夢だ。
そのまま、席に座り、並べられたオムライスを口に含む。
夢のはずなのに味がした。
俺が好きな少し濃いめのケチャップライスに、ふわふわな卵。
甘味が多いのは砂糖が少し多いからだ。
確か一時期、健康を気にしてカロリー抑えるためにケチャップは薄めで、卵が甘くなかった時に、少し喧嘩になったっけな。
それからは結局俺の好きな味に合わしてくれて、俺も佳奈に習って料理をするようになって、今ではオムライスに関しては佳奈と同じくらいのが作れるようになっていた。
だけど、やっぱり...佳奈のオムライスは美味しくて、その瞬間涙が溢れてきた。
「...何でっ、...何で!」
悔しくて、どうしようもなくて、情けなくて、泣くことしかできなかった。
「どうしたの?」
「どうしたのじゃねーよ!何で俺のことを裏切ったんだよ!あんなに仲良かったのに!何で何で!」
その瞬間、意識が遠のいていく。
いや、これは違う。
夢から覚めようとしていたのだ。
そう...これは所詮夢なのだ。
俺の記憶が作り上げたありもしないIFの話。
◇
目を開けると、目の前に安善さんが立っていた。
「う、うぉ!?び、びっくりした...」
「びっくりしたのはこっち。なんかソファで寝てるし、なんか泣いてるし」
そう言われて気づいた。
頬に涙が流れた跡があった。
「怖い夢でも見てたの?」
「いや、そんなんじゃないけど...。まぁ、嫌な夢だった」
「そっか。おっけー。夜ご飯はどうする?」
「あぁ...うん」
外は大雨でとても買い物に行けるような状態ではなかったため、冷蔵庫に入っていたもので適当にご飯を作る。
どうやら安善さんは料理が苦手らしく、俺が作る姿をずっとジロジロと見ていた。
「料理できるんだ。すごいね」
「そうかな...?そんなに味には自信ないけど」
そうして、出来上がったチャーハンを2人で食べる。
「うん。普通に美味しい。...やるじゃん」
「...うん」
その後はお互いに買ってきた本を読んで、だんだん眠くなってきたので、安善さんは俺のベッドで寝て、俺はソファで眠る。
次に目を覚ますと、朝になっていた。
夢を見ることはなかった。
ノソノソと起き上がると、テーブルに一枚の置き手紙があった。
『楽しかった。また今度遊びに行くから』とだけ書かれていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。