第4話 新人の白田さん

「...おはようございます」と、小さく挨拶を済ませて、デスクに座る。


 ちなみに俺が勤めているのはそこそこ有名な会社の経理事務である。


 ちょっと勉強ができたため、いい会社には勤められていたものの、その会社の中では使えない側の人間だし、今は入ったことを後悔している。


 そんなことを考えながら、ぼっーと横の席を眺める。


 横のデスクはまだ空いていた。

数ヶ月前まではそこは陸也の席だったが、突然やめてから未だに席は埋まらない。


 しかし、経理事務でかなり優秀な方だった陸也が抜けた穴は大きく、最近は残業三昧...。

新しい人が入ってくるとは結構前から言われていたが、どうやらその気配もない。


 さてと、今日も仕事をやりますか...。


 時刻は8:30。

少し早めに来て、溜まっていた仕事を片付けていく。


 すると、横のデスクに人影が現れる。


 何やら荷物を置き始めて、そのまま先に座ったのが何となく視界に入る。


 新人さんか?それなら挨拶しないと。

そう思って横を見ると、「せ〜んぱい。これからよろしくお願いしま〜す」と相変わらず緩い口調でそんなことを言ってくる白田さんがいた。


「...えっ?な、なんで!?」と、流石の俺も驚きまくってしまうと、「驚きすぎだよ〜。前の会社でも経理やっててね〜、ちょっと会社で色々あったから転職しようと思ってね〜。そしたら、ちょ〜どこの会社が募集してたんだよ〜」と、朗らかに笑う。


「...な、なるほど」

「ということで〜、これからよろしくお願いします〜。センパイ」と、笑った彼女の左手の薬指には指輪が嵌められていた。


 そっか、白田さんは結婚しているのか。

いや、そりゃそうだよな。

むしろ、赤村さんが結婚してない方がおかしいのだ。

あれだけ可愛くて、コミュ力があって...。

そんな人になんか告白みたいなのされたんだよな...。


 それから、上司がやってきて、白田さんは応接室に入って行った。


 てかまさか、白田さんがうちの会社に来るなんて...と、改めて動揺しながらも仕事を続ける。


 そうして、朝礼で白田さんは挨拶をして、男性からは熱い視線を浴び、女性からは少し厳しめの視線を浴びる。


 白田さんって典型的男子に好かれて女子に嫌われるタイプの人だもんな...。

経理事務は基本的に女性の割合多めだし、大変そうだろうな。

いや、結婚しているしそんなこともないのかな?なんて考えていると、目が合ってニコッと笑う。


 ちょっと恥ずかしいので目線を外してしまう。


 そうして、朝礼が終わるとすぐに上司の相川さんに声を掛けられる。


「上杉、ちょっといいか?」

「はい」

「朝礼であいさつしていた白田さんだが、前職も経理だったらしいから、基本的なうちのやり方について研修したらお前の下で働いてもらうことになるから。そのつもりでよろしく」

「は、はい」

「相手は既婚者だから間違いは起こすなよ?」と、やや半笑いでいじってくる。


「だ、大丈夫です...。ほら、月とすっぽんなので...」と、ぎこちなく笑うと「確かに」と、同調するのであった。


 そう...月とすっぽん、もしくは二次元と三次元。

どうやったって、俺が関わることはないのだ。


 その日、いつも通り定時には仕事が終わらず、残業かーと考えていると、研修が終わった白田さんがやってくる。


「セーンパイ、今日は残業ですか?」

「...うん。その先輩っていうのちょっと辞めてくれるかな...。ほら、同級生だし」

「えー!いいじゃないですかー!だって実際先輩ですし〜!」


 相変わらずのマイペースである。


「...まぁ...無理にやめろとは言わないけど」

「は〜い。やめませーん!じゃあ、仕事終わるまで私待ってますね〜」

「...え?」

「歓迎会してくださいよ〜」


 これは参ったな...。


 1時間ほど残業で切り上げて、白田さんに連絡する。


 すると、5分ほどで小走りでやってくる。


「やっほ〜お疲れ様〜」

「お疲れ様です」

「よ〜し!飲みに行こう〜!」


 そのまま腕を引っ張られて、居酒屋に連れて行かれる。


「ここ〜おすすめなんだよね〜」

「そ、そうなんだ」


 てか、いいのか?

旦那さん心配すると思うんだけど...。


 そうして、個室に案内されて、適当にメニューで注文を始める。


「じゃあ...生2つで」

「かしこまりました!」


 店員さんが避けていくと、「ふふふ〜、生だって〜えっちぃ〜」と、酔ってないのに酔ってるような絡みをしてくる。


「...旦那さん...いいんですか?」

「ん〜?あ〜これ〜嘘だよ嘘〜」と、ヘラヘラしながら指輪見せながら言ってくる。


「そ、そうなんだ...」

「そうだよ〜!彼氏もいない〜へへへ〜募集中〜」

「そうなんだ...」

「え〜、今のは『じゃあ俺も立候補しちゃうかな〜』っていうところじゃない〜?」

「そうなのかな...?」


 この人はいつか男性からすごい恨みを買ったりしそうだな...。


「そういうところだよね〜」

「...ん?何が?」

「ううん。変わってないなーって」


 そうして、ビールが二つ運ばれてくる。


 それからは高校時代の話とか、仕事のこととか、休みの日は何をしているのかとかそんな話をした。


「あ〜、そういや怜亜と遊んだんでしょ〜?何したのー?」


【挿絵】

https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818093089394664971


 段々と酔いが回ってきて、顔を赤くしながらそんなことを聞いてくる。


「いや...特に何をしたいっていうのは...ないかな」

「え〜?本当かな〜?ふーん?」


 それからも、休むことなく飲んでいき、翌日も仕事だというのにベロベロになってしまう白田さん。


 そうして、お店を出ると「あはは〜!たのしぃ〜!」と楽しそうにスキップしている。


 大きな胸がすごく跳ねて、思わず目のやり場に困る。


「とりあえず、駅まで行こう」

「えー!まだ飲もうよ!そうだ!じゃあ、上杉くんの家でのもー!」

「...いや、それは勘弁で」

「え!何で!女いるの!?女いるんでしょう〜!私がいるのに〜!馬鹿馬鹿馬鹿〜!」


 このやりとりは何なんだ。


 結局、やめてという俺の意見は採用されず、何をしてもついてくる白田さんを仕方なく家に連れて行くのであった。


「...部屋汚いよ」

「気にせんでええよ〜えへへ」


 その日は家にあったお酒を少し飲むと、すぐに寝てしまう白田さん。

流石にスーツのまま寝るのはマズイと無理やり起こして、彼女が1着だけ残していった寝巻きを渡すも、胸周りのサイズが合わずとんでもないエロい格好になった彼女を無理やりベッドに寝かせて、俺はソファで寝るのだった。


【挿絵】

https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818093089415486733


 ...はぁ...大変なことになったなと呟き眠る俺であった。

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2024年11月30日 00:15 毎日 00:15

彼女を同僚にNTRられてヤケクソになったモブが、10年振りに高校の同窓会に参加したら何故か美少女四傑に迫られた 田中又雄 @tanakamatao01

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