第2話 再会と手紙

 声をかけてきたのは赤村さんだった。


「...えっ?あぁ...まぁ...はい」


 思わず敬語が出る自分が情けない。


 彼女の後ろには数人の男女。


「夏樹?夏樹なんていう奴いた?w」

「全然覚えてないw」「顔見ても思い出せねー」


 そんな声が耳に入る。

思わず顔が引き攣る。

こういうところは昔と変わっていない。


 ...というか、善意なのかもしれんが、流石にこうなることはわかっていただろうに...。


「...俺、もう帰るので」というと、後退りするとテーブルに足をぶつけてしまう。


「ちょっと待って。これ」と、1枚の手紙を渡される。


「え?何これ?」というと、少し微笑んでから「いつでも連絡待ってるから」と言って去っていった。


 渡された小さな手紙には彼女の電話番号と、住所が書かれていた。


 ...どういうことだ?そう思っていると、入れ替わるように安善さんがやってくる。


「...上杉うえすぎだよね?」と、質問される。


 そのまま、顔をめちゃくちゃ近づけながら話し始める。


「う、うん」

「...久しぶり」

「ひ、久しぶり...」

「元気だった?」

「ぼ、ぼちぼち...。そちらは?」

「...ぼちぼち」


 というか...距離が近い。

そもそも声が小さいから近づかないと声が聞こえないのだが、真正面から真横に移動して、肩が当たるくらいぴったりくっつくように立っていた。


 そういえば昔からこんな感じだったかも...。


「...ずっと探してた。もう遠くに引っ越して同窓会には来ないのかと思ってた」

「...まぁ、色々あって...本当は今日もくるつもりなかったんだけど」

「そっか。でも、会えたから私は嬉しい」

「...お、おう」


 ど直球な言葉に流石にドキドキしてしまう。


 すると、彼女の後を追うように、「あらぁ〜?上杉くん〜?久しぶり〜」と、白田さんまでやってくる。


「...おっぱいお化け」と、嫌そうに呟く安善さん。


「...白田さん...お、お久しぶりです...」


 てか、白田さんまで俺のことを覚えているのか?高校時代はほぼ一回も話したことすらないのに。


「元気してた〜?ていうか〜、こっちに住んでたんだ〜」

「あっはい...まぁ...」と、苦笑いを浮かべる。


 思い出したかのように「あっ、そうだ。ていうことはやっぱり〜、少し前に駅で彼女的な人と歩いていたの〜、絶対上杉だよね〜?ほら、セミロングの女の子〜」と、白田さんが笑う。


 ...元カノは確かにセミロングだった。


「いや、上杉に限って彼女とか...ないでしょ?」と、安善さんが少し上目遣いでそう質問してくる。


「...いや、多分それ...俺だと思う」

「...そう...なんだ」

「だから言ったでしょ〜?私たちもう28歳だよ〜?恋の一つや二つしていて当たり前なんだって〜」

「...でも、もう別れたので」


 そういうと、少し嬉しそうな顔になる安善さん。何が嬉しいのだろう。俺みたいな地味なやつでも幸せを掴んでいることが許さないのだろうか?


「なんで別れたの?」


 その言葉はある意味必然で、当たり前の疑問だった。


「...喧嘩別れしちゃって」


 嘘をついた。

何のための嘘なのか、誰を守った嘘なのか、もう分からなかった。


「...そっか。そうだったんだ」

「それは仕方ないね〜。あっ、そうだ〜。折角だし、3人で写真撮ろうよ〜」と、いきなり提案されると、こちらの返答を待たずに勝手にカメラを起動し始める。


「え?あ...」と、戸惑いながらも3人で写真を撮った。


「これインタスにあげていい〜?」

「あっ、えっ、そ、それは...」

「ダメって言ってもあげちゃうけどね〜。てか、上杉くんってインタスやってる?」

「いや、やってないです...」

「そっか〜。んじゃ、写真送るから連絡先教えて〜?」


 そうして、2人と連絡先を交換した。


 まさか、四傑の3人に話しかけられるなんて...。


 最後の1人である金野ニーナを見つめる。

相変わらず、1人で寂しくお酒を飲んでいる。


 まぁ、あんな冗談をマジにしているのは俺の方だけで...そもそも彼女は覚えてすらいないだろう。


 けど...せっかくの機会だし。

そうして、俺は金野さんに話しかける。


「...金野さん」


 そう呼びかけた俺の声に怪訝そうな顔をしながらこちらに目を向ける。


 しかし、俺の顔を見た瞬間、少し驚いたように瞳孔が開くほど大きく目を開ける。


「...上杉...生きてたんだ」


 すると、こちらを見て何やらひそひそ話をされる。


「...?」

「それで?私に何の用?」と、冷たく返答される。


「...これ...」と、ポケットからとあるネックレスを取り出す。


 それを見た瞬間、さっきより驚いた表情をする。


「...っはwばっかじゃないの?w」と、楽しそうに少しバカにしたように笑い始める。


「...いや、俺も最近まで忘れてたんだけど...その...一応...」

「...はー笑った。上杉、何も変わってないんだな。まぁ、分かった。これは返してもらうわ。それと携帯貸して?」と言われるがまま、ネックレスと携帯を渡す。


 すると、何やら俺の携帯をいじってすぐに返す。


「はい、これ私の連絡先。やりたくなったらいつでも呼んで?こんな落ちた私に話しかけてくれたお礼に一回タダでしてあげる」

「え?やりたくって何?落ちるって...」

「...そっか。何も知らなかっただけか。本当、昔から頭いいバカだったよね、あんた」


 そんな意味深なことを言われて、首を傾げる俺を虫を払うみたいにあっちにいけと手で払う。


 そうして、1人で会場を後にした。


 結局、あの手紙の差出人は分からなかった。


 今回、同窓会に参加するにあたって、久しぶりに卒業アルバムを開いた。


 文化祭とか修学旅行とか野外学習とか...少し懐かしく思いながら、こんなやついたっけ?とか首を傾げながらページを捲っていく。


 すると、最後の寄せ書きのページを開くと、一枚の手紙が落ちる。


 なんだ?と思いながら、その手紙を開くとこう書いてあった。


『ずっと好きでした。もし、次会ったときに好きな人とか付き合っている人が居なければ、私と付き合って欲しいです。待っています。5年でも、10年でも』


 そんな手紙が入っていたのだ。

そういや、この10年間一度も卒業アルバムを開くことはなかった。


 もしかしたら、男子のイタズラだったのだろうか。

しかし、そんな悪戯をする人も思い当たらない。


 5年も10年もあれば人は変わる。

当たり前のことだ。

あの時と何も変わっていないのなんて俺くらいだ。


 こんな手紙をマジにして、本当どうかしていた。


「...あー...今日は疲れたな」と、ポツリと呟きながら家に帰るのだった。

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