第5話

「……で、その手の甲のキズ、どうしたの?」


「これ?なんかムカついた奴がいたから殴ったぁ」


「さいですか。」



未成年の話は話にならない。



特に彼、佐島ゐ弦さとういずる君は不良集団のトップに立っていた。喧嘩の最中に補導され、家庭裁判所で観護措置決定がされた後、鑑別所に送られてきたのだ。



親御さんはホストクラブで働いているらしい。でもゐ弦君が補導されて以来、行方が分からなくなった。



 


一つに縛っていた髪をほどき、オフへの切り替えを卒なくこなす。ほっぺ両手でパンパン、はい完ぺき。


   

今日は1年ぶりに桐絵と飲む約束をしている。



駅ビルの地下にあるメキシコ料理のお店で、予約の“春日桐絵かすがきりえ”の名前を伝えれば、店員さんに個室に案内された。



案内された個室には、桐絵と、もう一人、知らない男が座っている。



すぐに帰りたくなった。知らない男がいるなんて聞いてない。



「歩未久しぶり!髪、伸びたね!」


「あ、…うん、久しぶり……。」


「ええと、実はね。今日はちょっと歩未に会ってもらいたい人がいて―――」  

   


テーブルに両腕を乗せ、眠そうに上半身を伏せたような格好の男。



ゆるゆるのパーマを耳にかける、素振り。やたら甘い顔で、顔を両腕に乗せて。タンクトップにだぼだぼなカーディガンを羽織って、肩を出す、といういかにもクズな所業。



見た目だけで判断しちゃいけないのは分かっている。でも初めましての席で、顔を両腕に乗せて、じっと私の顔を見上げてくるのはいただけない。

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