1:JORKER

第4話

いじめを黒歴史っていう人は試しにループしてみるのがいい。



それは黒歴史ではなく、まぎれもなくあなたの人生の一部であると気付くはずだから。



“過去を踏み台に今を生きる”と先人たちはいうが、全くその通りなので彼らの名言はなるべく後世に伝える努力をしようと思う。



面倒だけど、いったん斜に構えてね。



目の前の可愛くない少年に伝えるため、空気を吸い込んでから吐いて、気持ちを整えてから身構えて。



それからやっぱりちょっと考えて。言うのをやめた。





「おいババア。とっとと俺をこっから出しやがれ。」



ほら言わんこっちゃない。ベリー短髪頭の少年が、目元の立て傷を歪ませ、私をババア呼ばわりするじゃないか。



「ここから出たとして、あなたは高校に通ってそれなりに勉強して、友達ともいっぱい遊んで、部活なんかもやってみちゃったりして、それで将来は何になりたいの?」


「ババアがババアらしく振る舞うんじゃねぇ。」


「すいませんでしたー。」



14歳の少年は懐かない猫よりもずっと野性的。血が滲むキズだらけの手の甲を舐めてから「不味まず」と唾を吐いた。胃が痛い。    



「てか何?今日男と会うの?目尻がピンクなんですけど。色気づいてんの?」


「……い、いえ。今日は旧友と会う予定でして、」


「へえ。芥田あくたさんって友達いたんだー。」


「……それよりもですね、佐島さとう君。鑑別所から出てからの方向性を決めていかないと」


「うるせーババァ〜。」 


      

矯正心理専門職という、極めてマイナーなカウンセリングの仕事に就いている私、芥田歩未あくたほみ。29歳。



少年鑑別所、つまり非行に走ってしまった少年を鑑別する施設で、かいつまんでいえば、少年院の一歩手前の施設。少年院に行くかどうかを審査し、非行に走った少年少女を更生する場所だ。



自分をいじめから救ったカウンセラーの仕事に興味を持ち、間違ってこの仕事を選んでしまった。



選んでしまった結果、少年にババア呼ばわりされている。

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