第6話

「彼、覚えてる?」


「え?」


「ほら、2年んの時隣のクラスだった!歩未とおんなじバレー部の!」


「ええと…?」   


  

正直私は初対面が苦手だ。特に、大人の男性は。だから私は少年鑑別所で未成年を相手にする仕事を選んだのだ。



桐絵の隣で、ゆっくりと伏していた身体を起こした彼。今度は目の前にあるプチトマトのオリーブ漬を一つ指でつまんで、口にしながら上目遣いをする。



なんだこの、かわいいと妖しいを無理に詰め込んだ色気は。 





「こんばんは。久しぶり。歩未ちゃん。」


「は…い?」       

 


私のことを“ちゃん付け”で呼ぶ男はこの世にいない。はず。と思っていたけれど、世間は広いらしい。



「僕だよ僕。九十九つくもじょう。元気だった?」



は。



宇宙の創生を考えてみる。1万年と2千年前からきっと思案されてきたことだ。



アダムとイブを作った神に問いかけたい気分だった。なんで禁断の果実なんて作ったのって。


    

「歩未ちゃん、髪の毛伸ばしてもかわいい。淡いベージュ色の髪色は変わってなくてマジなごむ〜」



誰。



え?九十九浄って言った?……今、そう言ったの??

  


「九十九君、昔はこんなキャラじゃなかったからビックリじゃない〜?」

 

「…………」

  

「昔は全然喋るタイプじゃなかったし、その割に風格だけで存在してる感じだったし!」


「…………」



桐絵が笑いながらいうも、私に笑えるほどの器量はあるのだろうか。だって、九十九浄という人間は―――




ふと九十九君を見れば、なんとも柔らかそうに口角を上げて、蕩けそうな瞳を半月型に描いている。



高校時代の彼は、寡黙で素朴でガタイがよくって。いつも細目で睨んでいるような目つきで、人になんて興味はなさそうだけれど、バレーに関しては真面目なベリーショートの似合うスポーツマンだったはず。 

 


なんでこんな甘々な軽口叩く男になってるのか。



「歩未ちゃん、昔からスタイル良かったけど今もいい脚してるね。パンツスーツ超いい♪」


  


ごめん桐絵。やっぱ私、おうち帰りたい。

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