ふたりの関係
人生に於いて「変化」ってものは、それを受け入れ続けるかどうかで、するかしないかが決まるのかもしれない。
いいものであろうと悪いものであろうと、過去を振り返って今が変わったと思うなら、変化を受け入れ続けた結果なんだろう。
ある日突然変わってしまうなんて事は滅多にない。
ある日突然訪れるのは「変化」のきっかけ。
それを受け入れ続けて初めて本当の「変化」になる。
そしてその変化は、いつしか「当たり前」になる。
例えばあたしがミヤビに対して持つ距離感。
最初は喋る事さえ拒否してたあたしが、今ではミヤビとそれなりに会話するまでになってる。
小さなきっかけを境に、話す事を受け入れ続けて、徐々にそうなっていったからこそ
ボアジャケットもそうだった。
ミヤビが「くれてやる」と言った、あたしには到底買えないブランドのボアジャケットを、渡されたその日から毎日着続けたからこそ、いつしか着てる事に違和感がなくなって、着る事が当たり前になった。
もしも着ないでずっと家に置いてるだけだったら、あたしにとってミヤビのボアジャケットは、いつまで経っても異質な物だっただろうと思う。
きっかけは強引に渡された物だったけど、着ると決めてそれを続けたのはあたし。
仮令きっかけが外的要因だったとしても、どうするかを決めるのは自分。
人生に於いての変化ってのは、往々にしてそういうものなんだろうと思う。
『――てめえ、ふざけんのも大概にしとけよ!?』
通話中になった途端、電話をかけてきたミヤビに因縁を付けられたのは、ボアジャケットを渡されてから数日後。
すっかり忘れてたミヤビの連絡先のブロックを解除したその日のバイト中、突然ミヤビから電話がかかってきて、何の用かと思ってみれば、開口一番喚き散らかしてきたから意味が分からなかった。
だから「何が?」と聞き返そうと思った。
だけどそれよりも先に、喚き散らかしながらではあるけど、ミヤビが答えをくれた。
『何のつもりで俺をブロックし続けてやがったんだ、てめえは!』
どうやらミヤビはあたしがブロックの解除をしてなかった事を知ってたらしい。
でもだからって。
「……忘れてた」
『忘れてただあ!?』
何をそこまで喚き散らかす必要があるのかと思う。
てかそもそも、あたしとしてはブロックしてた事を思い出したあとも、別に解除する必要はないかもしれないと思ったくらいだし。
それでも解除したのは単純に、ボアジャケットを貰っておいて連絡すら取れない状態にしておくのは、人としてどうかと思ったっていう建前的なものなだけで、まさか連絡がくるとか全く思ってなかったし。
だけどブロックの解除をしてなかった事を知ってるくらいだから、ミヤビは何度か連絡をしてきてたらしい。
『お前やっぱ俺に喧嘩売ってんなあ!? 何回連絡したと思ってんだ、ああん!?』
何度かどころか何度もらしい。
「……何の用?」
『ああ!?』
「何か用があったから連絡してきてたんでしょ?」
『忘れた』
「は?」
『てめえにムカつきすぎて何の用だったか忘れたっつってんだよ』
「……じゃあ切っていい? バイト中だし」
『バイトだあ? 何のだよ』
「店番」
『みせばん?』
「個人商店の店番。あとレジ打ち」
『お前がレジ打ちとか世も末――』
面倒臭い事を言ってくるって分かったから通話を切っておいた。
どうせ文句を言ってくるだろうと思ってたら、案の定すぐにミヤビからメッセージが届いた。
—―今度会ったらぶっ殺す。
多分それに意味はない。
ただ怒ってるって事を伝えたかっただけだと思う。
そう思ってるのに何故かあたしは、「今度会ったら」って言葉を妙に意識してしまった。
ミヤビに会う事もなく、だからぶっ殺される事もなかったけど、ブロック解除あとの通話をきっかけに、ミヤビとまた他愛もないメッセージのやり取りをするようになった。
でも前回の時とは少し違った。
前回は、基本数日おきのやり取りで、たまに一週間くらい間が空いたりしてたのに、どういう訳だか今回はミヤビが一日待たずしてメッセージを送ってくるようになった挙句、あたしの返信が遅いと謎の因縁メッセージを送りつけてくるから、あたしも早く返信しなきゃいけない羽目になった。
結果的にほぼ毎日、一往復くらいだけどメッセージを送る事になった。
だけどそれも一週間ほど続けていたら、当たり前の日常のひとつになってた。
ただ、あたしを拉致した時にミヤビが言ってた、「クソ忙しい時」ってのは本当の事だったらしく、ミヤビからのメッセージは早朝来る事が多かった。
聞いたところによると、昼も夜も忙しくしてて、早朝ようやく家に帰って、眠る直前にメッセージを送ってきてるらしい。
しかも「不思議の国」を離れてる事が多いらしく、あたしが「不思議の国」に行く時は前もって連絡するように言われた。
別に「不思議の国」に行くつもりはないけど、それにしたってどうしてわざわざ連絡しなきゃいけないのかを聞いたら、「お前は誰彼無しに喧嘩売るからだ」ってまた心外な事を言われた。
そんなのした事ないって言ったら、「黙れ」って言われたから、ムカついて返信放置してたら、ミヤビは次の日の早朝に電話をかけてきて眠ってたあたしを叩き起こした上に、一方的に文句を言うだけ言って切りやがった。
マジでムカついたけど、その時のミヤビの声は疲れてる感じだった。
ミヤビの忙しさは日に日に増していってるようで、毎日送られてきてたメッセージが一日間隔になり、そのうち二日間隔になった。
送ってくる内容も、あたしのメッセージに対しての相槌みたいな短いものばかりで、その程度の返信ならわざわざしてこなくていいのにって思うほどだった。
それでもミヤビはあたしとのやり取りを、完全にやめようとはしなかった。
相槌のみのメッセージでも送り続けてきてた。
相当忙しく、相当疲れてるらしいのに、ミヤビは何故かやり取りを続けようとする。
そんなミヤビの忙しさの原因を知る事になったのは、あたしの誕生日の夜だった。
あたしにとって、長い長い誕生日の夜となったその始まりは、リオンさんからの電話だった。
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