セカイ
あたしが住む
まともな人間がいないこの地域で、それでも学生の殆どが学校に通うのは、学校の敷地内が
いつ誰が言い出したのかは知らないけど、あたしが生まれた頃から既に地域のルールとして、学校の敷地内は安全圏であるように取り決められてて、外での揉め事や争い事なんかを持ち込まない事になってるし、敷地内には学生と教職員しか入れないようにもなってる。
だから学校の敷地内は、一応程度ではあるけど守られてる。
そのルールは、あたしが通う、地元にひとつだけある、地元の人間しか通ってない高校にも適用される。
もちろん通える人間に制限をかけてる訳じゃないけど、こんな地域にある、偏差値なんてあってないような高校に、他の地域からわざわざ受験して来る奴なんていなくて、必然的に地元の人間ばかりになる。
お陰で学校には、昔から知ってる人間しかいない。
「アリス、朝からずっとスマホ見てるけど、何してんだよ?」
教室の隅で床に座ってスマホを見てたら、そう声をかけられたけど、相手がジュンヤだって声で分かったから、スマホから目を逸らさずに「うん」と適当に返事した。
「何か調べてんの?」
続け様に聞いてくるジュンヤは隣に腰を下ろすと、あたしの肩を抱いてスマホの画面を覗き込んでくる。
ただ、あたしが見てるのがジュンヤの思ってたようなサイトじゃなかったらしく、ジュンヤはすぐにスマホの画面を覗くのをやめて、一応って感じで「何見てんだ?」って聞いてきた。
「ちょっと気になる事があって色々調べてる」
「気になる事って?」
「兄貴関連」
あたしの返事にジュンヤは「そっか」と言う。
どっからどう聞いても関わりたくないって感じの「そっか」だった。
まあ、気持ちは分かる。
あたしだって出来る事なら
なのにあたしが兄貴関連で、今日の朝からずっとスマホを眺めてるのは、昨日の一件があったから。
ハイエンドなホテルから始まった昨日の一連の出来事は思い出したくない事ばっかだけど、兄貴が付く相手を変えたっぽい上に、その所為でヤバい事態になってるから気にしない訳にはいかない。
しかも当の本人に聞こうにも、家に帰ってきやがらなかったし、連絡もつかないから自分でどうにかするしかない。
—―確かに高校生って書いてあったが、そりゃマジもんの制服か?
昨日ミヤビはそう言った。
書いてあったと言った。
その言い方が指すのは、間違いなく「ネットに」って事だろうから、朝からずっとその「書いてあった」というサイトを探してる。
でも見つからない。
兄貴が今まで使ってたサイトとか、知りうる限りの「裏サイト」や「闇サイト」を探してるけど、それらしいものは見つからない。
こんな地域に住んでるお陰で、世間一般の高校生よりは断然それ系のサイトに詳しいけど、これだけ探して見つからないって事は、もっとヤバいサイトにあるって事なのかもしれない。
—―死なない程度にならナニしてもいいらしいが。
ミヤビが言ってたあの言葉からして、かなりヤバいサイトの可能性は大いにある。
あのクソ兄貴、マジで一体何を——。
「あっ! アリスいたあ!」
離れた場所からかけられた舌足らずな声の方に目を向けると、教室の出入り口にいたルナが小走りにこっちに向かってくるのが見えた。
「もしかしてラブラブ中だった?」
目の前まで来たルナは笑ってそんな事を言いながら、ジュンヤがいるのとは反対側のあたしの隣に腰を下ろす。
そしてジュンヤを見遣ると、「本当はアリスはルナのものなんだからね」と
「お前のじゃねえよ。俺のだよ」
「ルナの方が先にアリスと友達になったんだから! ジュンヤなんてあとから仲良くなった分際でアリスと付き合うとかマジ許せない!」
「端っからお前の許しなんか求めてねえっての」
「ムカつく言い方! アリス、何でこんな奴と二年以上も付き合ってんのお?」
「俺の事が好きだからに決まってんだろ」
「ジュンヤに好きになる要素なんてないと思うけど!?」
いつもの事とはいえ、騒がしいふたりのじゃれ合いみたいな会話に正直げんなりした。
そんな会話を聞いてる気分じゃないから、ふたりともどっかに行って欲しい。
兄貴と連絡取れない事が気にかかる。
昨日みたいにあたしを騙して無理矢理シゴトをさせようとしたあとに、兄貴が姿を晦ます事はまあよくあるけど、今回に限ってバカみたいに気になって心配してしまうのは、兄貴が
ミヤビ曰く、昨日は他の斡旋先にも「獣神」の奴らが配置されてたらしい。
そこに兄貴が斡旋に絡んだ女が行ってたら相当ヤバい。
斡旋される女は口を割らないようにある程度は躾けられてるけど、情報を得ようとしてる相手が相手だけに、黙ってられるとは思えない。
もしかしたら兄貴は既にあいつらに捕まったんじゃ——。
「――って、アリス聞いてる?」
不意に声をかけられたのと同時に手を握られたから、ハッとして隣に目を向けると、ルナはあたしの顔を覗き込んでた。
だから。
—―え? 何? 聞いてなかった。
そう言おうとした矢先。
「だからね? 今度またバイトについて来て欲しいんだ」
ルナが先に口を開いた。
何が楽しいのかルナはずっとニコニコしてる。
人生のどの部分をどう捉えて生きてたら、そんなに楽しそうな表情が出来るようになるのかと不思議に思う。
あたしが知る限り、ルナの人生も大概クソだ。
「ああ、うん。あたしがバイトじゃない日ならいいよ」
「ありがとう! アリス優しいから大好き!」
あたしの返事に満面の笑みを浮かべたルナは、徐に立ち上がると「用事あるから行くね」と手を振って教室の出入り口に歩いていく。
そんなルナの姿が見えなくなるまで黙って目を向けてたジュンヤは。
「アリスとルナが友達だってのは分かってるけど、ルナってちょっとヤバい事に手え出してんだろ? ルナとはあんま関わんなよ」
お前がそれを言うか——と、思う事を口にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。