第13話 ファンデル

 今俺たちの目の前にはまっさらに整えられた土地が広がっている。

 数日前にシーサーペントが引き起こした嵐に巻き込まれ崩壊していた土地は、多くの者の力によって新たな土地へと生まれ変わる準備が整えられた。


「天気は快晴、風はやや強め。まさにこの土地らしい天気だ」


 これから昼に向けてどんどん強くなっていく日差しには多くの魔力が帯びていて、耐性のないものにとっては毒である。

 この特徴が長い間この土地を確実な生存圏とすることができなかった最大の要因である。

 だが、その問題はこれから解決される。


「それにしても、圧巻されるな……」


 俺は隣に目を移しながら言葉を漏らした。

 そこには、俺の身長の五倍ほどの高さまで積み重ねられた白魔石がある。

 俺が白魔石の説明と、キクラデス様式について説明した翌日に、ラッセンさんとモロクさん、そしてノマさんが三人で白魔石の調達に動いてくれた。

 ちなみにクローリアさんは、白魔石が妖精の粉の魔力を吸収してしまうため居残りとなった。


「そうですね……」


 俺と一緒にいるファンデルも圧倒されている。


「この白魔石の扱いは任せるよ」

「はい!勇者様に基本的な造りは教えていただいたので、必ず完成させて見せます!」


 俺はキクラデス様式の特徴や、基本的な形や仕組みを伝えた。

 あとは彼の腕に任せるだけである。


「それじゃあ俺は別にやることがあるから」


 俺は彼に建設をお願いしてその場を離れた。



---



-ファンデル視点-


 この数日は俺の人生の中で最も濃い時間だった。

 あの日、多くの命と建物が失われた。

 オヤジも俺を庇って建物の下敷きになって……死んだ。

 そんななか俺は奇跡的に助かった。

 いや、奇跡ではない。

 俺が助かったのには明確な理由がある。

 俺がいた場所がオヤジの工房だったから、俺は今生きているのだ。

 オヤジの元から離れた後、俺はなんとか工房に逃げ込むことができた。

 そしてオヤジが全てをかけて築いた工房はあの嵐を耐えきった。

 

 俺にあれと同じものが作れるのだろうか?


 きっと作れないだろう。

 あれはオヤジにしか作れないものだった。

 だが俺にはこの港を、何にも負けない物にする使命がある。

 俺はオヤジと勇者様の期待に応えたい。


---


 あの日の嵐の原因はシーサーペントという魔物だったらしい。

 普通の嵐ではなかったが、まさか魔物が引き起こしたものだなんて思いもしなかった。

 そんな魔物がいることすら知らなかった。

 オヤジやみんなの仇だが、俺には一生かかっても倒すことなどできなかっただろう。

 そんな魔物を勇者様は倒してくれた。

 20年前、俺が生まれる一年前まだこの世界には勇者がいたらしい。

 勇者は仲間と共に500年続いた争いの元凶である魔王を討伐した。

 そしてこの世界に平和をもたらしたらしい。

 この話は誰もが知っているものだ。

 だが俺は実物の勇者にあったことはなかった。


 そんな中、この世界に新たな勇者が召喚されたという話を聞いた。

 そして勇者は生存圏を奪還するためにこの港にやってくるという情報も入ってきた。

 絵本に書いてあったような剣士だろうか、もしかしたら魔法使いかもしれない。

 キラキラとしたオーラを纏い、颯爽と現れる勇者。

 そんな人物がここに現れるのだと思うと、心が躍った。

 そんな俺にオヤジはある言葉を口にした。


「いいか、勇者といっても一人の人間だということを忘れるなよ。俺は昔勇者に会ったことがある。誰よりも強く、優しい奴だった。それでも人間だった。お前の才能は確かなものだ。この世界を救うにはお前のような奴が必ず必要だ。だから、勇者の力になってやれ」


 オヤジがこんなに話すのは久しぶりだった。

 かなり酒を飲んでいたようだ。

 俺はオヤジの言葉を聞いて勇者というものがどういった者なのかより一層興味が強くなった。

 

 そして俺はついに勇者の姿を目にした。


 その者は剣士でもなく、魔法使いでもなかった。

 キラキラとしたオーラも纏っていなかった。

 俺が目にした勇者は、部屋でひたすら遺体を調べている者であった。

 よく言えば真面目な、悪く言えば特徴のない人物だった。

 だがその勇者は俺にとっても勇者だった。

 もう二度と会うことができないと思っていたオヤジと再開することができ、きちんと埋葬してあげることができた。

 俺は勇者のおかげで前に進み出すことができた。

 オヤジの言葉に応えるために。


---


「俺はファンデル、この港で大工をしていました」


 俺は勇者様に白魔石を利用した建築を託された。

 その後すぐに大勢の者が俺のところに集まった。

 勇者パーティーの人たち見える。

 俺は緊張を抑えて、皆に話しかける。


「この土地には魔力を多く含んだ日差しがさします。その日差しが原因で人類はこの数年先へと進むことができていません。ですが、ついにこの日差しを克服することができます。勇者様が見つけたこの白魔石を使った建築によって、この土地は人類の生存圏になるのです。俺は勇者様からその方法を学び、造ることができます。しかし、俺だけではこの土地を取り戻すのに何年もかかってしまいます」


 俺はオヤジじゃない。

 一人でなんでも作れるわけじゃない。

 だから……


「皆さんの力を俺に貸してください!」


 俺は力を借りるのだ。


「「おおぉぉーー!!」」


 大きな歓声に俺は下げていた頭を上げた。


「勇者様のために、頑張るぞー!!」

「俺たちでこの土地を取り戻すんだ!」

「ファンデル、頼むぞ!!」


 俺には多くの期待が向けられている。

 だが不思議と重たくはない。

 なぜなら、共に背負ってくれる者たちがいるからだ。


(オヤジ、俺は必ず成し遂げるよ)


 俺は彼らの期待に応えるため、工場へと向かった。

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