第12話 白魔石

 日が沈み始め、多くの者が作業を終え始めた時間に俺は全員を集めた。

 

「俺が最後だな」


 モロクさんが最後に来て、全員が揃った。

 勇者パーティーも、隊員たちも、そしてこの港で生活していた者たちもだ。


「みなさん集まってくださりありがとうございます!」


 俺はまず感謝を述べた。 


「勇者様には感謝してますから当然ですよ」

「俺たちは勇者様のために集められたんですから、感謝の言葉なんていらないですよ」

「私たちはあなたについていきます!」


 本当に俺は幸せ者だ。

 ラッセンさんたちのような頼れる先輩がいて、モリースさんたちのような俺に期待と信頼を持って着いてきてくれる仲間がいる。

 俺は彼らに応えたい。


「今からこの土地を生存圏に戻す策を説明します」


 俺は右手に石を握り上にあげた。


「これは白魔石です!」


 そう言った瞬間、体を強風が駆け抜けた。


「おい、これはどういうことだ?何故邪魔をした?」

「話は最後まで聞きなさい。まだハジメは話し終えてない」


 俺があげた右手のすぐ横までモロクさんが移動していた。

 だが彼の動きはノマさんによってその場に静止させられている。

 

(ここまでは予想通りだ)


---


白魔石の調査から戻ってきた直後のこと


「ハジメ、この後全員を集めて説明する?」

「はい、そのつもりです」

「そう、その時に吸魔石に着いても説明するつもりでしょ」

「確かにそうですが、何か問題が?」


 俺はこの土地の建築に白魔石を利用することを説明するつもりだった。


「その石が魔物を呼ばないと知っているのは、私とあなただけだから。全員びっくりすると思う」

「あっ、確かに」


 魔物を呼ぶ石を持ち込んだなんて思われたらパニックが起きかねない。


「だからその石を説明するときは手に握って高く掲げて」

「逆効果ではないですか?」


 そんなに堂々と見せれば余計パニックが起こりそうな気もする。


「大丈夫。すぐにモロクが石を弾き飛ばそうとするから」

「全然大丈夫じゃなさそうなんですが」

「私がモロクの動きを止める。その後説明を続ければいい。たぶん周りもパニックにならないと思う」


 一周回って冷静になるという感じだろうか。


「わかりました。ノマさんの言うとおりに動きます!」

「うん、ありがとう」


 ノマさんは嬉しそうに微笑んだ。


---


(そういうわけで、モロクさんがとった行動は予測できていたわけだ)


「この石は白魔石。別名は吸魔石で、魔物を呼ぶ石として知られるものです」


 俺の言葉にざわめきが起こった。

 

「ですが、この石には魔物を呼ぶ性質はありません!俺の鑑定スキルで得た情報なので確かなものです」


 俺のスキルについてはこの場の全員が知っている。

 勇者の力という名前がその信憑性を上げてくれている。

 本当に先代勇者様には頭が上がらない。


「白魔石には周囲の魔力を吸収して成長するという特徴しかありません」


 そうなのだ、白魔石にはこの特徴しかないのだ。

 だが、話を聞く限り白魔石の成長する特徴は全く知れ渡っていなかった。

 そもそもこの土地にあった白魔石には成長という特徴は見られていない。

 もしかしたら数十年単位なら、多少の成長が見られるかもしれない。

 成果の出ない特徴を特徴として認識できる人はいない。

 それこそ、俺のような特殊なスキルがない限り。


「白魔石が魔物を呼ぶ石と言われた原因は、この植物です」


 俺はセビアを皆に見せた。


「それは?」

「これはセビアです」

「セビアだと!?」


 隊員たちだけでなく、ラッセンたちも驚いた表情を見せた。


「はい、食魔植物として知られているセビアです」

「確かに、見た目も似てると言えば似てる気がするな」

「通常のセビアは巨大な食魔植物です。魔物を捕獲するために大きく成長しますが、この種は白魔石を媒体にすることで成長しないのです。しかし、魔物を呼び寄せ、長く生かすために傷を癒す力はそのまままです。つまり、白魔石が魔物を呼び寄せると言われる要因はこの植物なのです!」


 白魔石の別名が吸魔石なのも、魔物を吸い寄せるのではなく、魔力を吸い取るという意味だったのだろう。

 500年の争いによって本当の意味は失われてしまったようだが……


---


 とりあえず説明の第一段階は上手くいったようだ。

 だが今回、全員を集めた理由は白魔石の安全性を示すためだけではない。

 次の話こそ本命である。


「それでその白魔石が生存圏の奪還とどう関わってくるんですか?」


 そう、この疑問に答えることが目的なのだ。


「この土地を人類の生存圏とするために、この白魔石を建築材料として使います」

「それはどうしてですか?」


 疑問が出るのは当たり前だろう。

 

「この土地の特徴は魔力を帯びた強い日差しです。その日差しの問題を解決しない限り、この土地を人類の生存圏として確立することは困難でしょう。だからこそ、この白魔石を使うのです!白色というのは強い日差しを防ぐ効果があります。更に、白魔石を使用することで、日差しに含まれる魔力を吸収してもらうことができます」


 白魔石を石灰石の代わりに利用した、異世界版キクラデス様式である。


「なるほど、それなら問題が解決されるな」

「さすが勇者様だ!」

「勇者様ー!!」


 俺の提案に納得してくれたようで、全体から勇者様コールが上がる。

 正直照れくさいし、俺は地球の先人の知識を借りただけである。

 だがここで皆の声に応えるのが、俺の役割なのだ。


「ありがとうございます!」


 俺は大きく頭を下げて、再び顔を勢いよく上げた。


「この建築方法なら、この土地でも問題なく暮らしていけるようになれるでしょう。ですが、私には知識があってもそれを形にする力はありません。だから君の力を貸してください、ファンデル!」

「えっ、俺ですか!?」

「君の大工としての腕が必要だ。このイメージを形にして、生み出すために君の力を貸してくれ!」


 俺はファンデルに向けて手を伸ばした。


「俺が……俺の力が役に立てるなら、喜んで!」


 ファンデルは俺の手を握ってくれた。

 いよいよ、人類の生存圏奪還作戦の開始である。

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