第11話 真相
足に怪我を負っていたはずのワイルドボアから傷が消えていた。
すぐに治るような傷でもなかったし、ワイルドボアに治癒のような力はない。
(要因があるとしたら明らかにあの行動だ)
ワイルドボアは吸魔石の周りを回っていた。
今考えれば、足に怪我をしていたにしては軽快な動きだった。
つまり、あの瞬間に怪我が治るような何かが起きたということだ。
それなら要因は、吸魔石しかない!
「…ジメ…ハジメ」
「あっ、」
どうやら俺は食事中に考え事をしてしまっていたようだ。
「……仕方ない。私の分もあげる」
「えっ、いや、」
「あまりの美味しさに固まってたんでしょ」
どうやらノマさんに誤解されてしまったようだ。
「なんだ、気に入らなかったのか?なら俺が、」
「どさくさに紛れて奪おうとしない!」
俺の皿からステーキを取ろうとしたモロクさんはクローリアさんに止められた。
「みなさん、気になることがあるのですが」
「俺たちに答えられることならなんでも答えるぞ」
俺は現在抱いた疑問を確認してみることにした。
「吸魔石には魔物を治癒するような効果はありますか?」
「あぁ?んなこと聞いたことないぞ」
「私も」
「実は今食べたワイルドボアなんですが、怪我をしていたんです」
「それがどうかしたか?」
「ですが、ここまで運んだ時にはその怪我が消えていたのです」
「そんなバカな話があるか」
「俺の鑑定スキルでは確かに左後ろ足に怪我をしていました」
「そういえば、左後ろ足を気にして移動してた気がする!うん、怪我をしていたことは私も保証するよ!」
クローリアさんの説明もあって怪我をしていたことには納得してもらった。
そしてワイルドボアを捌いた人からは怪我など無かったという話も聞くことができた。
「どういうことだ?俺はワイルドボアに自然治癒能力があるなんて聞いたことないぞ」
「流石にそれはないはず」
「はい、俺もそう考えています。なので今回傷が消えた原因は吸魔石にあると思います」
正確には吸魔石の効果ではないかもしれない。
俺の鑑定では傷を癒すなどという効果は見れなかったからである。
だがあの場所に答えはあるはずだ。
「この旅にはお前の力が必要だ。必ず真相を見つけてこいよ」
「はい!」
ラッセンさんは俺の背中を軽くたたきながら、気合を込めてくれた。
「私も気になるからついていく」
「いいんですか?」
「今日の私の仕事は終わってるから大丈夫」
「はい、私がノマと変わるので大丈夫です!」
「それじゃあよろしくお願いします」
俺の調査にはノマさんが付き合ってくれるようだ。
「勇者様、俺は自分の仕事をしますね」
ファンデルも大工としての仕事に戻って行った。
「必ず役に立つ情報を見つけてきます!」
俺はノマさんと共に、再び吸魔石を目指した。
---
「こんな近くにあったんだ」
吸魔石は港からそう遠くない位置にある。
魔物を呼ぶとされている石が居住地域の近くにあるということが、一筋縄では行かない土地だと証明している。
「そういえばこの先には白壁があるんだった」
「白壁?」
「白魔石でできた壁よ。この港から進んだ先で通る必要がある場所」
「めちゃくちゃ危険な場所じゃないですか!?」
白魔石に魔物を呼ぶ性質があるのなら、そこはまさに危険地帯である。
「よく無事に通れましたね……」
「壁に近づくに連れて魔物は増えたけど、壁の上まで行ってしまえば魔物はほとんどいなくなった」
「飛行系の魔物もですか?」
「えぇ」
今の話を聞く限り、やはり目の前の魔石には魔物を呼ぶなんて効果はないように感じる。
「壁の下には魔物はいたんですよね?」
「たくさん」
どうも吸魔石自体より、周囲の環境あるいは付属的現象によって魔物が集まっている可能性が高い。
俺はそのように考えて足の周りを注意深く確認する。
一見普通の空間であり、真っ白な石意外に違和感は感じない。
特に地表が剥き出しているわけでもなく、綺麗な花もすぐそばに見られる。
「ここだけじゃ何も分かりませんね。他にも吸魔石がないか調べてもいいですか?」
「大丈夫、魔物は私が全て倒すから」
本当に心強い仲間である。
だからこそ俺は彼らの期待に応えたいのだ。
---
「ここも同じか……」
あれからしばらく森を探索し、合計五箇所も白魔石が地表に現れていた場所を見つけた。
だがどこも同じような光景が広がっていた。
「ハジメ、何か分かった?」
「いえ、共通点は見つかっても違いは見つけられませんでした」
「そう、順調ね」
「えっ?」
俺は彼女の言葉の意味がわからなかった。
俺はまだ何も成果を出せていないのに、順調とはどういうことなのだろうか。
「俺はまだ何も見つけられてませんよ」
「共通点が見つかってるじゃない」
「でもそれだけです」
「ハジメ、当たり前にとらわれちゃダメ。例えばハジメとモロクの共通点は?」
「俺とモロクさんはかなり違う気が……」
「確かに違うところだらけ。ハジメは弱いけど、モロクは少し強い。でも、二人とも言葉を話す。意思の疎通ができる」
「確かにそうですけど、」
「ハジメはこの世界で亜人と呼ばれる者たちのこと知ってる?」
「少しですが」
前にモリースさんから少しだけ聞いている。
亜人差別というのが行われていた時代があったらしいが、今では共に暮らしいている。
「人類は長い間気が付かなかった。人間と亜人の共通点に。だから差別をして、争ったりもした。だけど魔王という共通の敵が現れたとき、彼らは互いに意思疎通が可能だということに気がついた。それは共通点の発見。当たり前のようなことだけど、その認識が今の常識をつくっている」
当たり前に気がつくこと、それが新たな常識をつくりだす。
俺は今一度全ての白魔石の状態を思い出す。
(全ての環境がとても似ていた。だがそれは違和感でもある。日当たりのいい場所、日光の当たらない木陰、川の近く……異なる環境なのに白魔石の周りだけ同じというのは明らかな違和感だ!)
俺はすぐ側にある白魔石に近づいて、その周りを細かく調べる。
「これは……」
俺が手に取ったのは小さな白色の花であった。
なんの不思議もないただの花だが、全ての白魔石の周りに咲いていた。
「ノマさん、この花の名前はなんですか?」
「それは……私も見たことがない。いや、もしかしてこれは」
ノマさんは俺から渡された花をまじまじと観察して何かに気がついたようだ。
「私が見たことがあるものとは大きさが全然違うけど……『セビア』、これはセビアというものと特徴が似ている」
「答え合わせは任せてください!」
物事の真実の答え合わせは俺の唯一の特技だ。
「鑑定」
---
『セビア』
食魔植物。魔物をおびき寄せて栄養を吸い取る。獲物を長く生かすために、傷を癒す力がある。
『セビア』『白魔石』
魔物の代わりに白魔石をよりどころにしている。魔物を捕獲する必要がないため、成長をしないように進化をした。魔物を癒す力は失われていないため、怪我をした魔物が集まる。
---
「ノマさん、真相がわかりました!」
「よかった。それでこの土地を生存圏に取り戻すことはできる?」
「はい!」
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