第9話 キクラデス様式
「私たちの目的は人類の生存圏の奪還です。この港はそのための最重要拠点です。ここが崩壊したまま前に進んでも、目的を達成することはできません。まずはこの港を、新たな生存圏として確立しましょう!」
「「はい!」」
遺体の回収、そして瓦礫の撤去が終わり、ほとんど更地になってしまった港。
ここには二百人ほど滞在していたが、生き残ったのは43人であった。
壊れてしまったのなら直さなければいけない。
俺たちは港を直し、確かな生存圏として獲得する必要があるのだ。
そして今はそのための会議を行っているところである。
「復元するだけなら魔法を使えば可能です」
「本当ですか!」
「えぇ、瓦礫が残っていれば1日もあれば元の形に戻せるでしょう」
さすがノマさんだ。
この世界の復興技術のレベルは分からないが、周りの反応からして彼女は異常なのだろう。
「だがなぁー、」
ノマさんの方法に微妙な顔を見せたのはラッセンさんだった。
「それじゃあこの港を生存圏として確立することは難しいぞ」
「どういうことですか?ここには二百人も住んでいたんですよね?」
「いや違う。二百人だけだ」
「だけ?」
俺は冷静に頭を動かしてみる。
「確かに、崩壊した港の面積に対して住んでいる人数は少ないですね……」
ここは人類の生存圏の最前線である。
港の面積も充分あるし、もっと大勢住んでいてもおかしくないのだ。
「ここに住んでいたやつは研究者や兵士だ。その全員が普通より強く、優秀な人物だった」
「つまり、ここもまた普通に住むのは難しい土地ということですか」
「そうだ」
魔王の侵攻により、特殊な土地での生活方法が失われている。
この土地での暮らし方も失われてしまったのだろう。
「まぁ、とりあえず復興することには賛成だがな」
この場にいる皆が現状回復に賛成のようだ。
いや、
「すみません、俺に時間をください」
「ハジメン?」
「俺がこの世界で勇者でいる理由は、こういう状況を打開するためです」
そうだ俺は知識と鑑定スキル、その全てを使って抗うと決めたのだ。
「分かった。ハジメは打開策を考えてくれ。ひとまず俺たちは仮の拠点をつくる」
「お願いします」
俺たちはそれぞれの役目を果たすために動き出した。
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「よし、ハジメン頑張ろーー!!」
「おぉーー!!って、なんでここにいるんですか!?」
俺は港の改善策を考えるために行動しようとしていた。
そしたら、別行動をすると思っていたクローリアさんが一緒についてきたのだ。
「だって君、一人じゃすぐに死んじゃうでしょ」
「グッ、何も言い返せない……」
「まぁまぁ、そんな落ち込まないで。適材適所、それが一番大事だから!」
彼女は満面の笑顔と親指を突き出した。
「そうですね。俺一人では心細かったですから、クローリアさんがいれば助かります」
「ハジメーン!!もぉー、君は本当に可愛いなー」
「ちょっ、やめてください!俺結構いい年ですよーー!!」
まるで子供に接するかのように抱きついてきたクローリアさんをはがす。
まだ何もしていないのにとても疲れた気分だ。
「それでハジメンはこれからどう動くつもりなの?」
「そうですねぇー、まずは現状の問題点を知るために聞き込みをしようと思います」
「オッケー!」
この港の問題点、誰もが安心して暮らすために解決しなければいけないところを俺たちは知る必要がある。
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「なるほど、これがこの土地の特性か」
俺はこの港で暮らしていた者たちから情報を集めた。
この土地の厄介な点は、強烈な陽射しだ。
それもただの陽射しではない。
どういうわけかこの土地に降り注ぐ陽射しは魔力を帯びているそうだ。
すぐに影響が出るほどの量ではないが、長期間あび続けると体調の悪化や、魔力の暴走などを引き起こす。
さらにその魔力を帯びた陽射しによって飲み水も汚染されてしまう場合があるらしい。
「確かにこれは安全な土地と言えないな」
「私たちのような頑丈な者ならともかく、耐性の無い人にとっては毒だからね」
「耐性の無い人……あのー、もしかしたら俺もヤバイんじゃ?」
「あぁー、ハジメンは大丈夫だよ」
「えっ?」
「君、私の妖精の粉を浴びても全然平気だったし、かなり耐性は強いはず。異世界からきた影響かもねー」
「なるほどって、あの粉そんなヤバイやつだったんですか!?」
「あれ言ってなかったっけ?」
色々と聞きたいことはあったが、あいにく今の俺には時間がない。
本題に集中するべきである。
(日差しに魔力を含んでいる。確かにこの港の建物や研究所は地下空間をかなり利用していた。何か日差しを遮るものが……)
「あれが使えるか……」
俺は一つの方法を見つけ出した。
それは世界を回る旅をしていた時に訪れた、とても美しい光景を参考にした物だ。
そこの土地は青い海と美しい白い家が立ち並んでいた。
俺が利用するのは、ギリシャの『キクラデス様式』だ。
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『キクラデス様式』
ギリシャ領のサントリーニ島や、ミコノス島で見られる建築様式。壁を石灰で造る真っ白な建築物は、熱吸収率が低く、強い陽射しから守っている。さらに石灰によって雨水を除菌している。
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今回の場合は魔力が問題なため、完璧にこの建築様式を活かせるわけではない。
だが陽射しという共通の問題点があるため、参考にできることは多いだろう。
「クローリアさん、この近くに白色の岩石などはありませんか?」
「私もあまり詳しくないからなー」
「俺、知ってますよ」
「おっそうか。それは良かった……って、誰ぇぇーー!?」
俺はいつの間にか会話に加わっていた青年に驚きの声を上げた。
「初めまして勇者様、俺はファンデル。この港で大工をやっていました」
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