第8話 スキルの使い方

 シーサペントにより大きく損傷してしまった船だが、クローリアさんが浮かしている間に修理された。

 魔法を使ったらしいが、すごい勢いで修復されていく光景は圧巻だった。

 そしてシーサーペントとの激闘から4時間、俺たちはついに目的地に辿り着こうとしていた。


「っん?」


 最初に異変に気がついたのはラッセンさんだった。


「何か様子がおかしいな」

「ラッセンさん?」


 目的の港はまだ数キロ先で、俺の目にははっきり見えていない。

しかしラッセンさんは異変を感じたようだ。

 

「ハジメ、お前の鑑定スキルは名前が分かれば使えるんだよな?」

「はい」

「あの港はトリーニの港だ。何か気になる情報があるか調べてくれ」

「分かりました」


 鑑定スキルは調べたい物を目にしていること、そして名前を知っていることが条件で使用できる。

 あの港が目にしているの状況に当てはまるか微妙だが、試してみるしかないだろう。


「鑑定」


---


『トリーニの港』


大陸唯一の港。勇者の進行のために死守された港であり、長い歴史の中で幾度も改築されている。


---


(有益な情報は得られないか……)


「ラッセンさん、具体的に気になることはありますか?」


 俺の鑑定スキルは知りたいことを知る力だ。

 こちらが何を知りたいのか意図を示さなければ、必要な情報は得られないのかもしれない。


「あの港が無事かどうか、現状の様子を調べられるか」

「やってみます」


 知りたいことは港の現状。

 それを意識してもう一度、


「鑑定」


---


『トリーニの港』


シーサーペントに襲われ、壊滅的な被害を受けた。建物・人員の損害率80パーセント。


---


「ラッセンさん、あの港ほシーサーペントによって壊滅的被害を受けています!」

「くっ、やはりそうか。ハジメ、俺たちは先に行く。お前は皆にこのことを伝えてすぐに活動できるようにしておけ」

「わかりました」


 俺はすぐにこの情報を伝え回った。

 ラッセンたち四人はクローリアさんの力で先に港へと飛んで行った。


(なんとかなってくれ……)


 俺は焦りと不安を抱えながら港へ進んだ。



---



 それは凄まじい光景だった。

 崩れた瓦礫、そして血の匂い。

 俺は初めて地獄を見た……


「うっ、」


 俺は目の前に転がっていたものを見て口を押さえた。


「ハジメン、大丈夫?」

「大丈夫です……」


 隣に降り立ったクローリアさんが優しく声をかけてくれた。

 

「俺にできることはありますか?」

「……」


 隊員たちは既に瓦礫の撤去や遺体の回収に動いている。

 だが俺は彼らと比べて身体能力も低く、このような状況にも慣れていない。

 要するに役立たずでいるのだ。

 だから俺は自分ができることを全力でやりたいのだ。


「ハジメン、とても辛いことだけど……」

「……やります」


 俺は覚悟を決めた。



---



 俺はまだ形を成している建物の一室にいる。

 そして手元には一つの資料が置かれている。


「勇者様、お願いします」


 一人の隊員がある物を布に包んで持ってきた。

 俺はその布をめくり中身を見る。

 それは左足だった。


「ドルトン……、ルーシー……、リリアン……彼女はリリアンです」

「ありがとうございます」


 俺は今名簿を見ながら左足の鑑定をした。

 名前が分かれば鑑定ができる。

 その特性を活かした識別だ。


「勇者様、無理をなさらないでくださいね」


 俺の顔色を最悪だろう。

 少しずつ血の匂いも、動かない体にも慣れてきた。

 だがどうしても慣れないものがある。

 鑑定と同時に見えてしまう情報だ。

 今鑑定したリリアンは22歳の女性だった。

 優秀な研究員だった。

 亡くなる直前まで突然発生した嵐に着いて調べていた。


 本当に最悪な気分だ。



---



「本当に最悪な顔だな」

「……モロクさん」


 日も暮れ始めた頃モロクさんが俺の元に顔を出した。


「今日の分は終わりだってさ」

「……そうですか」


 俺は今日何度も鑑定スキルを使った。

 そして何十人も識別した。

 

「お前は今最悪な気分だろ」

「そうですね。いい気分ではないですね」

「……俺は悪くない気分だぜ」

「えっ?」

「確かにたくさん死んだ。血の匂いも惨劇も慣れるもんじねぇ。だがなここで死んだやつは幸せ者だ」

「そんなこと、」

「俺は誰のかも分からない腕を持ち帰った。戦場で死んだやつが家族の元に帰ることは無い。だがここで死んだやつはお前に家族のもとに届けてもらえる。だからお前は自分の仕事を否定するな」

「……はい」

「チッ、何泣いてんだよ」


 俺は知らなかった。

 自分の仕事がもたらす結果を。

 何度も確認してボロボロになった名簿の価値を。

 だが俺は教えてもらった。

 俺のこの役目は必ず誰かのためになり、俺がこのスキルを得た意味があると知れたのだ。



---



「彼はドルトンさんです」

「勇者様、お疲れ様でした」


 俺は二日かけて全ての人を見ることができた。

 モロクさんに大切なことを教えてもらい、俺は自分の役目を理解することができた。

 

「勇者様!」

「あなたは?」


 鑑定の仕事も終わり、瓦礫の撤去に加わろうとした時ある人物が俺のところを訪れた。


「勇者様、ありがとうございます、ありがとうございます」


 その人物は涙を流しながら俺に感謝の言葉を述べた。


「あなたは、いったい」

「私はドルトンの父です。先ほど息子を見つけてくださったと聞きました。大切な息子を、見つけてくださり本当にありがとうございました!」


 この港の惨劇を生き残った者たちもいる。

 彼らは同僚や家族、仲間を失ったのだ。

 彼らはもう二度と失った者に会えないと思っていた。

 だが勇者の力によって再開することができたのだ、大切な者たちに。


「俺の力が役に立てたのなら良かったです」


 笑顔で応えることのできた俺の気持ちは、悪くないものだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る