第7話 空飛ぶ船
『シーサーペント』
嵐を起こす魔物。上位の竜種であり、海の覇者。
「天災」の異名を持つ。
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俺はラッセンさんの声を聞いてすぐに目の前の魔物を鑑定した。
海から姿を現したその魔物は、まさに「天災」の異名にふさわしい風貌であった。
「クソ、結界が今の一撃でかなり損傷した!」
「すぐに反撃の準備をします!」
震えていた船長たちはすでに対応を始めていた。
「ハジメ、お前はそこで様子を見ていろ!」
「ラッセンさん!」
「チッ、お前が心配しても仕方ねぇだろ。お前は黙って俺の活躍を見てればいい!」
ラッセンさんとモロクさんは同時に船から飛び降りた。
「嘘だろ!?」
普通に考えてこの荒くれた海に飛び降りるなんて……
「……あっ」
次の瞬間俺の目の前に驚きの光景が映った。
シーサーペントの首が輪切りにされたのだ。
「さ、さすが勇者パーティだ!!」
空中に浮かびシーサーペントの首を切り裂いた。
その光景を見て多くのものが歓声を上げた。
「まだです!!」
ノマさんの聞いたことのないほど大きな声が響いた。
そして次の瞬間、
「「うおぉぉーー!!??」」
とてつもない衝撃が船を包んだ。
「ヤッバーーーイ!!!」
揺れが収まった瞬間、突然クローリアさんが突っ込んできた。
俺は咄嗟に目を瞑ってしまった。
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「フー、ギリギリセーフ!」
俺はクローリアさんの声を聞きながら恐る恐る目を開けた。
「これはかなり不味いかも……」
クローリアさんが珍しく不安げな声を出したのも理解出来る。
なぜなら、俺の目の前にはシーサーペントの首が貫いた船の姿があったからだ。
「ハジメンはしばらくここに浮いていて!私は皆を助けに行ってくる!」
そう言い残してクローリアさんは船に向かった。
俺は彼女の力で空中に浮かべてもらっている。
だが船員全員をすぐに浮かべることはできない。
どうしても船上で戦わなければいけないだろう。
彼女たち四人が揃えばシーサーペントなんかには負けな……
俺はこのタイミングで状況を理解した。
現れたシーサーペントはたかが一二匹ではなかったのだ。
まるで船を囲むように大量のシーサーペントがいたのだ。
「チッ、流石に数が多すぎる!」
「モロクさん!」
空中に浮かんでいる俺のところにモロクさんが飛んできた。
「いいかよく聞け、このままだと船は沈む。あいつの力で数名は助けられるだろうが……俺はそんな結果は認めない!勇者ってのは全員を救う者だ!お前が勇者ならなんとか策を考えろ。ここで躓いていたら、土地を取り返すなんて夢のまた夢だぞ!」
彼はそれを伝えてすぐに戦場へと戻った。
(彼の言うとおりだ。言う通りだが……)
俺にできることなんてあるのだろう。
俺に戦う力はない。
あるのは、このクソな鑑定スキルだけ……
「いや、やるしかない!!」
俺はスキルのせいにしようとした。
あの神がもっと力をくれたのならと思ってしまった。
だがそれは間違った考え方だ。
俺は覚悟を決めてはずだ。
このクソスキルと向き合って、世界を救うと決めたのだ。
まずは情報の確認だ。
俺のスキルは情報がなければ役に立たない。
(シーサーペントの数は、見えているだけでも13体。まだ海中に潜んでいる可能性もある。そしてあの魔物にまともに対抗できるのは四人だけだ。だが全員手一杯で……)
俺はそこである異変に気がついた。
ラッセンさんとモロクさんは嵐の中空中で戦うことに苦戦している。
クローリアさんも嵐の影響を大きく受けている。
だがただ一人、この戦いに満足に参加できていないものがいたのだ。
「ノマさんはどうして、」
彼女は魔法を使っているが、隊員たちとあまり変わらない威力である。
彼女の本気の力はあんな物ではないはずだ。
何か力を制限している理由が……
「あっ!」
俺は思い出した。
『カヤシ』は非常に魔力を帯びやすい。
つまり彼女が本気で魔法を使えば船ごと巻き込んでしまう可能性があるのだ。
ならその要因を無くしてしまえばいい!
「鑑定!」
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『妖精の粉』
妖精の羽から舞う魔法の粉。浴びた物を宙に浮かせる。
『キプセルルス』『妖精の粉』
船体を浮かび上がらせることが可能。
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「いける!」
俺は二つを同時に鑑定した。
名前がわかっている、その条件をクリアしていれば鑑定は俺の知りたいことを教えてくれる。
「クローリアさん!船を飛ばしてください!!」
「ええっ!?」
「妖精の粉を使って船を飛ばしてください!」
クローリアさんは驚いた顔をしたがすぐに行動に移ってくれた。
彼女が船の周りを高速で飛び回ると、綺麗な粉が船に舞い始めた。
そして船は空へと浮き始めた。
「良かっああぁぁーー!!」
羽が浮いた瞬間俺の体は落下し始めた。
「うぉおぉおぉーーー!!」
「おっと、」
危うく船激突するところをラッセンさんが受け止めてくれた。
「まさか、船を飛ばすとは思わなかった。いや、できるとすら思っていなかったぜ」
どうやらクローリアさんの妖精の粉は船を浮かばせるのに精一杯のようで、ラッセンさんとモロクさんは船上に戻りシーサーペントの攻撃を防いでいる。
「ノマさん!!」
「うん、よくやったハジメ。後は任せて」
彼女は自信に満ちた表情で魔法を唱えた。
『アブソリュート』
彼女の手から放たれた氷の矢が海面に突き刺さり、あっという間に全てを凍らせた。
『ゼロ』
そして凍りついたシーサーペントが砕けた。
「さすがノマ!」
俺や隊員たちが衝撃の光景に固まるなか、クローリアさんたちはいつものことのようにノマさんに声をかけている。
「ハジメ」
「ハッ、ハイ!」
俺はノマさんに呼ばれて上擦った返事をしてしまった。
「ありがとう。この船と人ごと凍らせるしかないかと思った」
「そ、それは恐ろしいですね」
「あぁ、今回犠牲者なしにシーサーペントを倒すことができたのは、ハジメの機転のおかげ」
「まさか私も船を飛ばせるとは思わなかったよ!」
「いや、お前は自分で気が付けよ」
あぁ、俺でも役に立つことができた。
スキルのせいにして、言い訳をしようとした。
だけどこのスキルがなければ俺は作戦を思いつくこともできなかった。
『鑑定』スキル、俺はこのスキルで生存圏を取り戻して見せる。
嵐が明けて差し込んだ光が砕けた氷に反射している。
その眩しさがこれからの俺たちの未来を示していると信じて、世にも珍しい空飛ぶ船は目的地へと進み続ける。
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