第6話 嵐
「うっ……」
「おい、大丈夫か?」
「だ、だいじょうぶ、です?」
「はぁー、まさかお前がこんなに船酔いするとは思わなかったぜ」
元気よく出航してから一時間後、俺は最悪の気分で船に揺られていた。
情けない話だが、俺は船旅というものを甘く見ていたのだ。
俺が地球で乗ったことのある船はどれも素晴らしい物だったと理解できた。
「ノマ、こいつを治してやってくれ」
「いいの?効果は1時間しか持たないけど」
「切れたらかけ直し続けるしかないな。船で酔ったやつがどうなるかはよく知ってるしな……」
そう言いながら二人は俺の隣にいる人物を見た。
「うっ、やばい。まじでヤバイ……」
隣で限界を迎えそうな声を出しているのはクローリアさんだ。
どうやら彼女も船酔いするタイプらしい。
「あの時は本当に大変だったなー。リアが使い物にならなくて、」
「いいから早く治してよー!」
「おい、こっちに来るな!ノマ、早くコイツを治してくれ!」
クローリアさんに抱きつかれたモロクさんがノマさんに助けを求めている。
「すぐに行きますよ。はい、これでよくなったはずです」
「ありがとうございました」
ノマさんは俺に魔法をかけるとすぐにクローリアさんの方へと向かっていった。
「まったく……騒がしい奴らだろ?」
クローリアさんから逃げるようにラッセンさんが近くに来た。
「あいつらも、そして俺もこうして旅に出るのは久しぶりだからな。テンションが上がって仕方ねぇんだ」
「とても楽しい旅ですよ。まだ始まったばかりですが」
「それならよかった!」
ラッセンさんはとてもいい笑顔を見せてくれた。
「ノマ〜、ありがと〜う!」
「リア、近づかないでください。まだ完全に魔法は効いていないはずです」
本当に楽しい旅になりそうだ。
---
それからの船旅は順調に進んだ。
俺はノマさんの魔法で調整しながら少しずつ船酔いに耐性をつけていった。
リアさんは残念ながら改善されなかった。
本人曰く、
「私たちのような鳥人はこういった揺れに弱いのよ!私が特別に弱いわけじゃないからね!」
ということらしい。
そんなこんなで五回の夜を過ごし終えた。
海上で見る星空は息を呑むほど綺麗だった。
たとえ世界が違っても、見える景色が違っても、夜空の美しさは変わらないものである。
「ハジメン、こんなところで何してるの〜」
「クローリアさん、大丈夫ですか?」
海を眺めていたところにクローリアさんがやってきた。
顔色を見るとまだまだ辛そうである。
「なんとかね。でも今日中には着きそうだし、ノマの魔法もあるし、大丈夫だよ!それより、ハジメンは一人で何してたの?」
「ただ海を眺めていただけですよ。他にやることもないですし」
「確かに暇だよねー。海の先に何か見えたりしたら……」
クローリアさんはそう言いながら海を眺めて動きを止めた。
「……これはちょっとまずいかもしれない」
彼女の顔色がよりいっそう悪くなった。
「ハジメン、たぶんこれから嵐が来る。きっと忙しくなるから準備しといてね」
「本当ですか!?」
「わたしは鳥人だよ。風の読みは絶対に外さない」
彼女の顔を見ればそれが本当のことだとすぐにわかった。
「私は船長に伝えてくるから、ハジメンはノマにこのことを伝えて」
「わかりました!」
なぜノマさんなのか分からなかったが、今は彼女の指示に従うべきだ。
俺はすぐにノマさんの元へ走り出した。
---
「ハジメさん?何かあったのですか?」
俺がノマさんのところに着く前にモリースと出会った。
「これから嵐が来るとクローリアさんが言っていました。モリースさんはこのことを他の人たちに伝えてください!」
「わかりました」
彼には他の隊員への連絡をお願いした。
情報の伝達は早い方がいいはずだ。
「ノマさん!」
俺はノマさんを見つけてすぐに声をかけた。
「ハジメ、どうしたの?」
「クローリアさんからこの後嵐が来ることを伝えるように言われました」
「そういうことね」
ノマさんは軽く微笑んだ。
……
「あのー、ノマさん?」
……
「俺の顔に何かついてますか?」
彼女は俺の顔をずっと凝視したまま動かない。
そして数秒間見つめたられた後、彼女はゆっくりと顔を上げた。
「うん、忙しくなりそう」
彼女はそれだけ言い残してどこかへ行こうとした。
「えっ!?」
あまりに緩急の効いた行動に驚きの声を出してしまった。
「俺にできることはありますか?」
「ハジメは、自分がやりたいことをすればいい」
(俺のやりたいこと……)
彼女はすぐにどこかへといってしまった。
---
「「しっかり掴まれーー!!」」
響いた声と同時に体が宙に浮きそうなほどの振動が伝わる。
グローリアさんの予想通り嵐はすぐにきた。
そして現在、絶賛嵐の中で航海中だ。
「いやー、本当に助かった!まさかこんな急に嵐が来るとは思わなかった!さすが勇者様たちだ!」
「いえ、俺は、とくに」
俺は揺れに耐えながら大きな声に返答する。
俺に声をかけてきたのはこの船の船長、フェルナンドさんだ。
「それにしても彼らはなぜあんな先頭に?」
「俺にも分からないです。どうしあそこに立っているのかも、立ってられるのかも」
俺と船長は同じ場所を見つめる。
そこには嵐の中平然と立っている四人の姿があった。
強風や揺れをモノともしていない。
そして周囲を丁寧に見回している。
その様子はまるで何かを警戒しているようだ。
そう思った次の瞬間……
「防護結界展開!!」
ラッセンさんの声が響いた。
同時に船長は魔法陣のようなものに手を触れた。
「「ドゴン!!」」
鈍い音と今までで一番の振動が伝わってきた。
俺は揺れに耐えられず倒れてしまった。
「マジかよ……」
船長の震える声が聞こえた。
「一体何が、」
俺は船長の見つめる方向を確認した。
そして船長が震えた理由を理解した。
「シーサーペントだ!!」
俺は初めて魔物と遭遇した。
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