第66話 ラグン・ラグロクト……少年
ラグン・ラグロクト……少年が目を覚ましたのは5時間後。
先ず目に映ったのは見た事のない天井で、ここが何処なのか分からなかった。分からなかったから、ああ、やはり“続き”なんだと思った。
続き。
ここに辿り着くまでの──あの奇妙な場所の……と。
ラグン・ラグロクト少年は今回の目覚めが800年前に封印をされてから2度目であった。
1度目は──
無論、封印の地であるファファルの空間魔法の中であった。
◇◇◇
そこは暗い場所であった。けれど真っ暗ではなかった。宙に幾つもの小さな粒が星のように瞬いていて、周囲を見渡す事が出来る程には薄明るかった。ただ目に見える範囲の景色に変化はなく、ここが広いのか狭いのかさえ判断はつかなかった。重力はないように思った。思ったというの久しぶりの目覚めでその威力を忘れていた為であり、ただ自分の身体が浮遊しているような感じはあった。
地はどこだろうか?
ラグンはまずそれを欲っした。するとそれに反応を示すかのように身体がストンと尻の方から落下した。
久しぶりの地。すぐに足の裏を着けて立ち上がった。と、同時にそれが可能だという事は身体の機能が弱っていないからだとも判断が出来た。
頭がぼーとしていた。
思考が随分と低下しているのが自分でも分かる。
ただ、およそ自分の中に人らしい一般的な常識があるのは分かった。闇とは暗いもの。重力という言葉の意味、星という比喩方法も。
ただ、一行に思い出せないのは自分が何者かだという事であった。
名前は──?
少しの間、考えて、それから自身の名前をゆっくりと思い出した。
ラグン・ラグロクト。
──が、途端にそれが禁句のような気がして背筋に悪寒が走った。
ラグン・ラグロクト……。
まるでこの世の最悪のような名前。
だが、それが紛れもなく自分の名前なのは理解ができた。
ラグン・ラグロクト。
何をした? コイツは?
それは思い出せない。ただ、鈍っていた脳が正常を取り戻していくと、ああ、そうか……“ボク”は、何か凄い罪を犯してしまっていたんだ。と、推測ができた。
つまりはここは、そんなボクを隔離する幽閉の地だ、と。
では、
──だったら、
「なんでボクは目を覚ましちゃったんだろう……」
幽閉するほど、隔離するほど生きていては駄目な人間ならば、いっそ殺しておいてくれれば良かったのに……。
ラグン・ラグロクト少年は心底にそう思った。目を覚ましてしまったからにはラグン・ラグロクトとして──この最悪な何かとして生きなければならない選択肢が増えてしまうのだから。
「──ボクはどうすれば良いのだろう……」
彼はそう言うと、項垂れながらも歩を刻んだ。どこへではなく、どこかへ向かって。
やがて、ここの場所にはゴールがない事に気づく。そして気づいたから気持ちが少し楽になった。
「──このままここに居れば、やがて僕は空腹で死ぬだろう。なんだそれでいいのか……」
だが、体感で何時間が経過しても彼に空腹はやって来なかったし、おまけに睡魔も現れてくれなかった。それはミヨクの魔法による作用なのだが、彼がその事を知る筈もなく、その現状は正に無限地獄のように彼を苦しめた。
やがて彼は逃れるようにまた歩き始めた。
初めて景色が変わったのは数時間後、
闇の中に立つ一枚の扉を見つけた。
ゴール。まさかの。
故に彼は思った。
開けてもいいのか? と。
そしてその疑問を繰り返すまま14時間が経過した。
それでも答えは出て来なかった。
──……出て来なかったけれど、彼は、扉を開けようと決心をした。
端的にこのまま無限地獄で生きるよりも、その扉が外に繋がっているかは分からないけれど、仮に繋がっているとするならば、彼は死ぬ事を選びたかったから。
ラグン・ラグロクトが何をしたのかは分からないけれど、ボクを楽にしてはくれないだろうか……。
だから彼は、扉を開けた。
生きる事を拒む為に。
ラグン・ラグロクトの罪を償う為に。
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