第60話 45日後──①
世界の臍と呼ばれるコア島は少し歪な楕円の型をしており、その面積は25キロ平方メートルくらいで、今は誰も住んでおらず、木々や大きな岩なども無く(800年前にルアがそう願ったから)、ただ中央部に三角屋根の神殿のような造りの建物があった。
封印の魔法使いのソクゴの元住処が。
現在は、ミヨクがソクゴが亡くなった際に全てを処分し(遺言通りに)、何も無い殺風景な室内なのだが、ただそのど真ん中には一枚の扉が倒れた状態で置かれていた。
ファファルの空間魔法で作られた扉が。
ラグン・ラグロクトが閉じ込められている扉が。
夢の魔法使いのナツメさんから教えてもらったあの時から数えて45日後の現在、ミヨクはその扉の前に来ていた。しかも普段は基本的に手ぶらなのに今日はリュックを背負っていた。なにか特別なものでも入っているのか彼には珍しく。
時間は──14時16分。
あと10分でラグン・ラグロクトがこの扉から出てくる。
ハウは来ていなかった。ファファルの姿も無かったが、ファファルに関してはいつでも瞬間移動が出来るので、今ここにいる必要もないとミヨクは思った。
──ハウが来ていないのは予想外だった。ミヨクはてっきりハウはルアなので、神によって急に覚醒か何かをされてここに来ると勝手に予想していたので、その思惑が外れて少々困惑していた。
まさか、ハウはルアではないのか?
と、疑問も過ぎる。
「いやいやいやいや、生まれた時からあの姿で、いきなり基礎魔法がなんでも使えて、使ったら使ったで急に大魔道士や弍大魔道士になるような者がただの人間である筈がない。ルアだよ、あれは絶対にルアだよ」
自信がなくなってきたのか、声を出して自分を励ます始末。しかも挙句に「──やっぱ一緒に居たら良かったかな……」と自らハウの面倒を放棄したくせに支離滅裂な事を口走っていた。
「相変わらずヤバいな、お前」
不意にそんな声が背後から聞こえた。確認するまでもなくミヨクはファファルだと分かった。
「……盗み聞きするな。お前と違って俺は色んな事を考えてるから忙しいんだから」
「無い知恵は搾れんぞ。それよりお前、男のくせに気持ち悪くも名前をつけているあのぬいぐるみはどうした?」
「き、気持ち悪いってなんだ? そういう事を言うな。これからラグンと対峙するってのに俺の気持ちをへし折る気か?」
「ん? そういや、お前、随分と若返ってないか?」
ファファルはふとそう言った。ミヨクをその姿にした張本人であるにも関わらず不思議なまでに。というのにも実は理由があり、ファファルはいつの頃からかミヨクが時の魔法を使ったら反射的に殺すようになっていて、魔王城で殺したあの時の事を今はすっかり忘れていたのだった。それくらいファファルにとって世界の時間を止めた時のミヨクを殺す事は日常茶飯事となっていたのだった。
「……。……15歳と30日くらいだ……」
「何をやっているだお前は。こんな大事な日にまた時間が巻き戻ったのか。お前。不死だからといって油断しすぎだぞ」
「お前に殺されたんだよ!」
ミヨクはようやくキレた。
「──なんか身に覚えがなさそうだし、俺も殺された相手にお前が殺したんだよって言うのもアレだから黙ってようと思ったんだけど、どうすんだよコレ? ただでさえ嫌な奴の復活に緊張してるのに、15歳の俺は精神的に凄く弱いからさっきから心臓が──」
とミヨクが切に訴えている最中に、ファファルは空間魔法を使って姿を消した。
「──……あいつめ……空間魔法で瞬間移動ができるからって、やりたい放題だな……ちくしょう……」
15歳の心の弱いミヨクはこんな事くらいで悔しそうに泣きそうな顔になっていた。
故に、
「──ゼンちゃん……マイちゃん……」
と縋るように呟く。だが、慰めてもらいたくても、2人は今はいない……。
──いや、
実は居た。
ミヨクはすぐに背負っていたリュックのファスナーを開けると、中からマイちゃんを取り出した。
そういえばミヨクはあの時に魔王城では言っていた。15歳でも魂を上げるのは不可能ではない、と。
──だとすると、
「……いや、ぬいぐるみのままでもいいから持ってきただけ。お守り的な感じで」
どうやらそういう事らしかった。ちなみに本当はゼンちゃんも持ってきたかったのだが、全長が80センチのぬいぐるみをリュックに2体入れる事は難しく、悩みに悩んだ挙句に今回はマイちゃんを選んだようだった。
「ふふふ。マイちゃん」
マイちゃんを見つめながら不気味に笑う。
時間は──
14時25分になった。
それでもミヨクはマイちゃんのぬいぐるみを見つめたまま、そのまま癒され続けていた。
そして、14時26分。
夢の魔法使いのナツメさんの予知夢の時間。
と、同時に床に置かれていた扉がバタンと勢いよく開き、そこから天に向かって手が出てきた。
左手。
その時──
ミヨクは思った。
──刹那のタイミングで再び姿を現したファファルも思った。
そして、その思いは同じ言葉として1つに重なった。
「違う」
と。
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