第59話 猫が見た夢
150年ほど前の話だ。
かつてこの世界には惑星外からの強大な刺客があった。
それは、巨大な隕石群の襲来であった。
それを2ヶ月ほど前に誰よりも早く察知したのが夢の魔法使いであるナツメさんで、彼は早速その事を予知夢で時の魔法使いに報せた。
ただし、正確な日時を教えて欲しかった吾輩を探すがいい。ガーガーガー。と……。
隠れん坊、開始。
奇しくも(?)この時、時の魔法使いミヨクは暇だった。ただ暇ではあったのだが、暇以上に面倒くさかったので非常に無視したい心情ではあった。けれど夢の内容が大変な感じだったので一応は取り敢えず魔力感知をしてみると、驚く事にナツメさんは同じ大陸内部に居て、ミヨクは長考の後で項垂れながらも渋々ながらもナツメさんに探しに行くしかなかったのだった。
隠れん坊、終了。
ナツメさんはとある町の路地裏で仲間の猫たちと共に残飯を──いや、1匹の黒猫が残飯を食べ終わるのを見ていた。そしてその黒猫が食べ終わり、その場から離れた瞬間にその残飯に向かって勢いよく駆けていった。どうやら、見ていた。ではなく待っていたようだった。黒猫が残飯を食べ終わるのを。まるで上下関係のように。
「ガーガー。うまい、うまいガー。ガーガー」
そんなナツメさんをミヨクは頭を掴んで持ち上げると、先ずはこう言った。
「……色々言いたい事があるけど、先ずはお前、ボスじゃないんだな。もう数百年も生きているくせにボス猫じゃないんだな……」
「ガーガー。ミヨク、お前が思ってるほど猫の世界は簡単じゃないガー。吾輩なんてペーペーのペーペーだガー。ガーガー。ちなみに人間 (ミヨク)が来たから警戒して距離を取った黒猫のオサムさんもボスじゃなく、C地区統括主任だガー。ガーガー」
ナツメさんにそう説明されてミヨクは、確かに猫の世界も複雑そうだな、と思った。統括主任って……。
◇◇◇
ブッ。
ナツメさんはミヨクに宿屋に連れて来られるなり、すぐに一発をかました。
「匂い付けは大事だからな。ガーガー」
それに対してミヨクはすぐに窓を全開にして悪臭を外へと逃すのだが、そんな様子を見てナツメさんは「滑稽、滑稽。ガーガー」と笑うのであった。
「──ガーガー。吾輩の匂いはそんなくらいじゃ消えないガー。ブッとした瞬間に部屋中にこびりついているガー。ガーガー。吾輩の匂い付けを舐めちゃいけないガー。ガーガー。ガーガー。」
ミヨクはそんな無駄に腹の立つ説明をされて取り敢えず暴力(魔法)を振るおうかとも考えたのだが、この日は気分的に(ここに来る前に食事を済ませて腹の幸福感は満たしていたので)まあ、いいや、で済ます事にした。
「ところで、あの予知夢の事だけど……いや、先ず俺は初めて宇宙を見たんだけど、宇宙ってあんな感じなんだ。いや、それよりも凄い巨大な岩……なのかよく分からないけど大量に、しかも物凄い速度で何かがこの世界にぶつかってくるんだな」
「ガーガー。あれは隕石っていうらしいガー。なんか吾輩が夢で見た時には既にそんな名前が付いていたガー。あんなのが空の上から落下してくると世界がどうなるかミヨクは予想がつくガー? 吾輩の目算では世界を包んでいるオゾン層が破壊されてガー、その結果、気温が乱高下をしてガー、一気に世界は氷河期時代に突入するかも知れないガー。なんかそんな感じがするガー。もしくは単純に世界の大陸のあちこちが破壊されて海一色になるかも知れないガー。ガーガー。吾輩は寒いのも陸が無いのも嫌いガー。ガーガー」
正直ミヨクは隕石の事も宇宙の事も知らなかったし、オゾン層的な事も考えた事がなく詳しくもなく、氷河期と言われてもピンときてなく、ただ、ナツメさんって意外と頭が良いんだと思っていた。けれどそれでも正直ナツメさんがガーガー言っているから話が上手く入って来ておらず、故に尊敬に値せず、そう考えると後ろから見たらほぼ鏡餅にしかみえないそのフォルムも、妙に短い2本の尻尾も、皮膚が贅肉て垂れ落ちているその顔も、つまりは全体的に何かやっぱり褒めたくはない存在だな、と改めて思った。
そして、
「──ガーガー。ガーガー。ガー……ガー……ガガ……」
ナツメさんは話(鳴き声)の最中で急に眠りに就いた。
──それは過去にも何度かあった事でミヨクは少し慣れていたのだが、ナツメさん曰く猫は喋る事よりも眠る事の方を重要視しているから仕方のないとのことだった。あくまでもナツメさん曰くだが。
「……」
1時間後──
その瞬間は急にやってきた。
ビクっと身体を震わせて、おまけにちょっとブッとさせながらナツメさんがハッと目を覚ました。
「ガーガー。ガーガー。ガーガー。ガーガー!」
何やら慌てている様子。なのでミヨクはナツメさんの頭を掴んで「落ちつけ」と少々圧力をかけながら黙らせるのだった。
「ガーガー! 夢の続きを見たガー。ガーガー」
「隕石のか?」
「そうガー。他に何があるガー。ガーガー。ミヨクは面白いことを言うガー。ガーガー。ガーガー」
ミヨクは特段に面白い事を言ったつもりはなかったが、これもきっと人間と猫の価値観の違いだと考えて聞き流す事にした。だが、「ガーガー。ガーガー。ガーガー」とナツメさんの笑いは一行に収まらず、仕方がないのでミヨクはナツメさんの頭を掴んで持ち上げる事で話の続きを促した。
「ガーガー……。ガーガー……。分かった。言うから頭を掴んで持ち上げるのを止めてほしいガー。ガーガー。ガーガー」
「……早く話せ。俺も暇じゃないんだから(本当は暇)」
「ガーガー。なんか隕石は落下しないガー。吾輩に予知夢を見せている何者かも、えっ? て驚くくらいに不可思議な事が起こるようだガー」
「……予知夢ってお前が発祥じゃないんだ……。いや、今はそこはいいや。不可思議って何?」
「ガーガー。止まったんだガー。大量の隕石たちがこの世界にぶつかる前に、その全てがその数センチ手前でピタリと止まったんだガー。ガーガー。不可思議ガー。ガーガー」
隕石群の謎の停止。
それに対してミヨクは少考の後に思い当たる節を思い出した。
「……そういや、この世界ってファファルの空間魔法によって外側から閉じられてるんだっけ……」
「……ファファル? ガーガー。吾輩、アイツは嫌いガー。なんか呼びもしないのに急に吾輩の背後に現れて凄い殺気で吾輩を怯えさせて、そのまま去って行くから、物凄く嫌いがー。ガーガー……」
「うん。俺もアイツは嫌い。何度も殺されたからな。でも、その瞬間移動なんだけど、それを使う為にアイツは世界を空間魔法で閉じているんだ。だからもしかするとそのお陰かもな、隕石の落下を防ぐのって……」
「……ガーガー。空間魔法って隕石の落下を阻止できるのかガー? ガーガー」
「分かんない。ただ、アイツ自身も空間魔法で閉じているんだけど、それによって外からの攻撃を無効に出来ると言っていたような気がしたな」
「ガーガー、それが本当なら凄い事ガー。ガーガー」
「……うん、凄いね。なんかよく分からない存在だよね」
「ガーガー……それに吾輩ちょっと思ったんだガー。世界を外側から閉じるってそれ自体が物凄く物凄い事じゃないガー? ガーガー? ガーガー?」
「……うん。よく考えると凄いね……。深く考えた事がなかったけど、世界を閉じるって何だろうね? なんか世界はファファルの手の中にあるって感じがするね……。まさかアイツそのまま圧縮して世界を消滅する事も出来るのかな……何、世界を空間魔法で閉じてるって……そもそも瞬間移動って何? 瞬間移動ってそもそも凄くないか……」
「ガーガー……ガーガー……」
空間の魔法使いファファル。そうこの世界は彼女の魔法によって外側から閉じられていた。
──それがミヨクの言うように、圧縮する事までが可能かどうかは本人に聞かなければ分からないのだが、とにかくこの世界はファファルの空間魔法で閉じられていた。
世界の三大厄災。
「……恐ろしい奴だな……」
と、ミヨクは言うのだが彼は彼で時の魔法使いで、世界の時間を止める事ができ、不死の存在であった。
「……ガーガー……」
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