第53話 そしてオア大陸の勇者と魔王⑮へ

 

 45日後まで時間があるので、ミヨクたちは取り敢えずリドミの大陸から近いオアの大陸に行く事に決めた。


 ミヨクの自宅は6つの大陸の全てにあり、もちろんリドミにもあるのだが、どうにもこの大陸には魔法使いが多く居心地が悪いらしく、故にそう判断したようだった。


 ただ、忘れてはいけない事が1つ。それはハウの今後についてであった。先延ばしにしていた次代のルア……かも知れない存在のその今後。


 正直、ミヨクは結局は何も考えていなかった。いや、それどころか考える事もほぼ忘れていた。モクジュの国からウナサの町に戻ってくるまでの道のりを、ただゼンちゃんとマイちゃんに友達が出来て良かったね、くらいの朗らかな気持ちで見ていた。


 故に、なんとなくウナサの町の校門まで歩いていき、そこで偶然(たぶん魔力感知してミヨクに気づいた)にもニヒルな校長と再会し、そこで「お帰りなさいませ。いかがでしたかモクジュの国は? いえ、それよりもハウのこれからをどうするか方針が決まりましたか?」と言われ、あっ! という表情をしたが、けれどそれはすぐにプライド(世界最高レベルの魔法使い)でとり繕い、そのままさも余裕を見せるように「ハウはどうしたい?」と寧ろ一番情けない責任転嫁をした。


 ただ、ここで誤算が。その問いにいち早く反応をしたのがマイちゃんであった。


「えっ、ミョクちゃん! 本当? ハウちゃんが決めていいの? だったら、だったら、もっとずっと一緒に居ようよハウちゃん!」


 ミヨクは無論、しまった、という顔をした。なのですぐに方向転換をしようと考えた──のだが時は既に遅く、ハウが返答を開始してしまった。


「もちろんだマイちゃん! 楽しかったからな。そもそもわらは最初からマイちゃんと離れる気なんてないぞ。ふはははははは」


「……で、でもハウはこの国で生まれて、なんか世話になっているじいさんとばあさんが居るって言ってなかったか?」


 ミヨクがなんとかそう言った。


「居るぞ。わらの大好きなじいさんとばあさんだ」


「……俺らと一緒に行動をするという事は、その大好きなじいさんとばあさんと離れ離れになるって事だぞ? その大好きなじいさんとばあさんと……いいのか?」


 ミヨクは口調ら冷静を保っていたが、心中な割と必死だった。すると──


「離れ離れは寂しいね。オラだったら友達になったハウちゃんと別れるのはとても寂しいよ」


 と、またマイちゃんが無駄な反応を示した。故にハウはそんなマイちゃんを力強く抱きしめると「大丈夫だマイちゃん。わらはずってマイちゃんと一緒だ」と健気に言った。


「──そもそも、じいさんとばあさんが言っていたんだ。可愛い子には旅をさせよう、ってな。わらはよく分からないが、世界にはそんな諺があるらしいんだ。だから、そもそも、わらは可愛いから旅をするのが決まりらしいぞ」


 ミヨクは咄嗟に思った。違う。大分ニュアンスが違う、と。そして、旅をさせよう。ではなく、させよ。であり、そこには世間の厳しさに立ち向かって行け的な意味が含まれているもので──とあれこれ突っ込みたくなったのだが、その間に2人は既にハッピーダンスを始めていて、その楽しそうな笑顔を見るとそれを無碍に奪い取るなんて出来る筈もなく、仕方なく、まあいいか。と渋々ながらもそう最終決断をしたようだった。 ^_^


 なので、


「……この町に、この国に、じいさんとばあさんの近くに居る理由が無いのなら一緒に来るか?」


 ミヨクはそう言った。と、同時にニヒルな校長が後ろに振り返ってからガッツポーズを決めた──が、それはすぐにミヨクの指示によるハウの風の魔法で「ゴフッ」となっていた。


 ハウ。


 ──生後の姿が既に少女の大きさをした何か。修練なしに魔法が使え、その魔力の上限は計り知れず、現在は火の大魔道士兼風の魔道士の異例の存在。可能性としては、神に使命を与えられて作られたルアのような気がするのだが、確証はないので現在保留中。


 ただミヨクはこの出会いが偶然なのか必然なのかは……いや、これもまた今は考えないようにした。


「ふははははははは」


 タイミング良く(?)、ハウが高笑いをした。



 ◇◇◇



 ──それから2週間後、舞台はオアの大陸。時間は、第22話、オアの大陸の勇者と魔王⑮へと繋がる──


 ミヨクは昼過ぎに起きて、ボサボサ髪で口の周りには薄っすらと髭を生やしたままのだらしのない姿で台所で料理を作っていた。そして何の前触れもなく不意にこう言った。


「……どっちでもいいんだ」


 と。


「えっ? ミョクちゃんどうしたの、急に? なんの事?」


 食卓に座っていたマイちゃんがそう聞いた。


「うん。今ね、魔王と勇者たちが戦っているんだ」


 ミヨクはそう言った。


 それからの3人のやり取りは、⑮で。


 ──そして、ゼンちゃんとマイちゃんが、勇者と魔王のどちらが死んでも等しく悲しいと泣き出した後で、がこう言った。


「マイちゃんとゼンちゃんが泣いたら、わらも悲しくなるではないか」


 と。


 そして、


「──どうすればいい?」


 と言葉を繋げた。


「えっ?」


 と単発音を上げたのはミヨクで、マイちゃんは感情を最大限に昂ぶらせながら「2人に死んで欲しくないの!」と声を張り上げた。


 すると、


「分かったぞ!」


 ハウはそう応えた。


「──それで勇者と魔王はどこに居るのだ?」


「魔王城。あっちの方」


 マイちゃんが指で方角を示しながらそう言った。


「あっちだな。よし、分かったぞ!」


「えっ?」


 とミヨクはまた単発音を上げた。


 そしてハウは魔法を唱えた。


 風の魔法を。「【シカトグラビティ《飛翔》】」を。


 それはミヨクの知る限り、風の魔法の中でも使える者は僅か数人しかいない極めに極めた最高難度の魔法で、ハウは全身に風を集めると、それを留めて風の衣を作り、ミヨクとマイちゃんの手(ゼンちゃんの手はマイちゃんが)を掴んで、それからその場でジャンプをした。いや、ジャンプというにはあまりに高すぎる跳躍を。そしてすぐに天井にドガンと激しくぶつかっが、どうやら風の衣の効果でダメージは無いようで、そのまま遙か上空まで一気に飛んでいった。


 そしてハウは高度10キロを超えた辺りでピタリと止まると、今度はそこから斜めに急降下していった。下方に見える魔王城の立派な建物に目掛けて一直線に。


 その速度はどれくらいだろう? 200キロは超えている気がする。下方一面に三途の川が広がっているように見えるのは気のせいか…….。


「ふはははははははははははッ!!」


 ミヨクはそんな狂気じみた高笑いを聞きながら、あれ? これって冗談抜きで死ぬんじゃ……と思っていた。


 ちなみにハウはこの魔法を使った事により、火の大魔道士に続いて風の大魔道士も達成した事となり、弐大魔道士となっていた。


 なんかこんな魔法が使えるかも、ってだけで。


 ただ、そんなハウだが──


「ふははははははッッッッッぐがっ!!」


 と、途中で気を失った。


「えっ! ええええぇぇぇえーーー!!」


 ミヨクは実に何年振りかで悲鳴を上げた。

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