第54話 決戦、勇者と魔王
英雄種の力(
勇者ユウシアは、稀ではない方の現時点での限界を超えて最大値に近づけていくタイプであった。
リミッター解除、また解除と。
故に本人もその最大値がどこなのかは知らなかった。
「上限はどこだ?」
魔王が髪をかき上げながら問う。
「分からないな。ただ、今は全く死ぬ気がしない」
勇者はそう答えた。
──魔王城。
勇者は今、魔王の作成魔法で作った最強のモンスターであるデビキン2体と死闘を繰り広げている最中であった。
仲間たちは──オシャレ大魔道士ミナポやユナ、戦士マードリックやペルシャは現在は残念ながら蚊帳の外であった。デビキンが出現した際にその強大な魔力によって戦意が喪失させられており、戦いに参加することさえ叶わないでいた。
けれどそれは仕方のない事。なにせデビキンは1体でも大陸を滅ぼす力を持つ程に恐ろしいモンスターなのだから。
それを勇者はしかも1人で2体を相手にしていた。
「……いや、そもそも俺たちは4階で待ち構えていた三元狂(四天王の上の上の存在)と名乗る3体のモンスターとの戦いの時から役に立っていなかった……」
勇者と魔王とデビキン2体から遠く離れた壁の隅で戦士マードリックがボソリとそう言った。
「……そうね。勇者は無我夢中で戦っていたからチームプレイで勝ったと錯覚しているけど、実質あの3体のモンスターを倒したのは勇者1人よね……私たちは残念ながら手も足もでなかった……」
オシャレ大魔道士ミナポは悔しそうに歯痒そうにそう言った。
「これがユウたんの……あっ、ゆ、勇者の英雄種の本気の力なのね……格好いい……あっ、いや、さすがユウたん……あっ、勇者ね。これでこそ勇者よね」
ユナは5年の歳月の間になんかキャラが変わっていた。
「ふっ」
ペルシャは良い意味で変化はなさそうだった。
──なににせよ、勇者の英雄種の英力は、モンスターの強さに対する絶望感と、それに対する負けない気持ち、そして仲間たち想う強さで飛躍的に上昇し続けていた。
リミッター解除、更に解除、また解除、そして解除、と。
「俺が皆を守って魔王、お前を倒す!!」
「ユ、ユウたん。チョー格好いいんですけど。あっ……そ、それでこそ勇者よね」
ユナは勇者の彼女。しかもラブラブ期真っ最中。だからこそミナポは舌打ちをして距離を取り、それから睨みつけてはまた舌打ちをして更に距離を取るのだった。
……なににせよ、勇者とデビキン2体の死闘は続いている。
デビキン2体の攻撃は厄介であった、4つの顔の4つの目から放たれる正確無比な光線は掠っただけでも致命傷の威力があり故に避け続ける事しか出来ず、しかももう一体は常に先読みまでをしてくる始末。避けるだけでも至難。僅かな見誤りも許されない集中力が求められ続けた。
そして、更に──
「もう城には穴は開かないさ。デビキンを作成する時にそう設定したからな。城は決して壊してはいけない、と」
という天然なのか作戦なのかよく分からない魔王からの無駄話も割と厄介であった。
「ああ、そうかよ!」
………そして、何故かいちいち返事する勇者も天然なのか馬鹿なのかがいまいち分からなかった。
だが、それでも勇者はデビキンの16×2の光線攻撃を避け続け、リミッター解除を繰り返した結果、遂にその英力の解放値が90%を超え時、更なる速度でデビキンの懐に潜り込み、そして閃光のような一撃を炸裂させた。
ザシュンッ!
──だが、デビキンの全長は5メートル。4つの顔の下はマントに覆われていて、その中は空洞なのか勇者には手応えがあまり感じられなかった。
──が、
「ぐぁぁあああぁぁぁああああーー!!」
と一呼吸遅れてからデビキンが悲鳴を上げた。
「……ほう。凄いな」
魔王が思わずそう言った。
「──魔力を持たない人間が魔力だけで出来た胴体を斬ったという事か……」
「どういう事だ?」
勇者は何故かそう質問した。決して攻撃の手(目)が休まったわけではないもう一体のデビキンと、すぐに体勢を立て直して再び光線を放ってくる計2体のデビキンの攻撃を避けながら、無駄に体力と集中力を削りながら。
そして魔王も普通に答える。
「魔力を持たない人間はデビキンの唯一の弱点である顔にしか攻撃が当たらない。なのにお前は弱点以外の場所を斬った。しかも斬れる筈の無い魔力で作られた身体を。賞賛するよ。お前の規格外の強さを」
と、本当に魔王は凄く普通に喋った。しかも何故か弱点を暴露して賞賛までしていた。
「なるほどな」
そして勇者もいちいち返答をする。絶賛デビキンの攻撃を避けながらも。
そして、それから勇者はデビキンの攻撃を避けては自身の攻撃を当てるヒットアンドウェイと、その間に魔王との会話を挟みながら、1体のデビキンの胴体に5度の攻撃を加えた時、遂にデビキンが悲鳴を上げながら頭を地面に垂らした。魔王曰く弱点の頭を。間髪を入れずに勇者はそこに渾身の一撃を放った。
「グオオォォアアァァァアアアアーー!!!」
の断末魔と共にデビキンの1体が消滅した。
……本当に弱点だったんだ……。
ミナポたちはそう思った。
「……2が1になったな」
勇者はそう言った。
──それは約束された勝利でもあった。
だがその刹那、ドサッと勇者が前のめりに倒れた。
「──なんだ……これ……」
急に身体が重くなった。すぐに立ち上がれないほどに。身体中から大量の汗が溢れてくる。呼吸が乱れる。苦しい。視界が霞む。
「──……なんだよ、これ……」
疲労の限界。急激な英雄種の英力(潜在能力)の解放に、先に身体が疲労の上限値を迎えてしまったようだった。
「──マジかよ……今かよ……」
悔しそうに奥歯を噛む。だが辛うじて動かせるのは口だけであり、身体は指一つぴくりとも動かなくなっていた。
魔王は、
「嗚呼……」
と項垂れた。が、すぐにその表情は隠して、「惜しかったな、勇者よ……」と憐れむような表情でそう告げた。
そんな勇者にデビキンが容赦なく光線を放っ──
いや、
ドガーンッッ!
と城の天井が破壊されて、何かが空から降ってきて、それがデビキンの4つの頭に命中した。
「グオオォォアアァァァアアアアーー!!!」
と断末魔と共に消滅していくデビキン。
魔王と勇者とその一行は一瞬なにが起きたか分からなかった。
──が、そこには見た事のある顔とぬいぐるみが床の上で倒れていた。
時の魔法使いミヨクとゼンちゃんとマイちゃんと、後はベビーピンク色をした髪の毛の少女らしきなにか。
しかも、ミヨクのその首と胴体はどういう訳か無惨にも離れ離れとなっていた。
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