第52話 リドミの大陸の夢の魔法使い⑪
ブッ。
ナツメさんはミヨクたちに宿屋に連れてこられるなり、テーブルの上に寝転がって、まず放屁をした。
「ガー。匂い付けは大事だからガー。ガー、ガー」
それに対してミヨクはすぐに窓を開放して対処をし、ベッドで寝相悪く寝ていたハウは音のせいか匂いのせいかで目を覚ました。物凄く不安そうな顔をしながら。そこにマイちゃんが近づいていくと、途端に抱きつき、そして力強くギューとした。
「ハウちゃん。オラだよ。おはよう」
マイちゃんが優しくそう言い、ようやくハウが「ん。おはよう……なんか変な夢を見ていたぞマイちゃん。ばあさんの美味しい蒸かし芋を食べていたら急にそれが悪臭を放ってな……ばあさんの隣にはじいさんも居て、もしかしたらじいさんが作ったからそうなったのかと思ってな……そう考えるととても怖くなってな。わらはじいさんの事もばあさんの事も好きだから怖くなってな……でも、もう大丈夫だ。マイちゃんをギューとしてるからな。ふはははははは。って事で起きたぞ! マイちゃん、わらの寝癖は大丈夫か? 髪は女の命だからな! ふはははははは」と、調子を上げてきた。
じいさんに対しての失礼な発言は置いておいて、マイちゃんはそんなハウの寝癖だらけのベビーピンク色の髪をペタペタと押さえつけながら、「大丈夫だよ。ハウちゃんは寝起きも可愛いよ」と言った。
なんとも微笑ましい光景にミヨクがほっこりとしていると、「ガー。吾輩を無視するなガー」とじいさんに濡れ衣を着せた悪夢(悪臭)の張本人の丸猫がふてぶてしく割り込んできた。
「──早くミルクを持ってくるガー」
「おっ! 喋る猫か?」
すぐにハウが食いついた。
「ガー、ガー。吾輩は子供が嫌いではないから特別に撫でさせてやってもいいガー。ガー、ガー」
ナツメさんはそう言ってハウをじっと見つめたが、ハウがベッドから降りてくる様子は残念ながらなかった。
「お前、可愛くないな。凄いな。猫なのに可愛くないな。わらは猫を初めて見たが、お前が可愛くないのはよく分かるぞ。わらは可愛いものしか好きにならないぞ。マイちゃんのようにな」
そう言ってハウはまたマイちゃんをぎゅーと抱きしめると高笑いを上げた。そんなナツメさんにミヨクは下手な同情をする事もなく「ミルクは後だ。それよりラグン・ラグロクトの話をしてくれ」とシビアに告げた。
「……ガー。これだから人間は嫌いガー。でもガー、分かったガー、吾輩も真面目モードになるガー。ただ、ミヨク、吾輩は可愛いよな? ガーガー」
「……」
「……ガー、ガー……」
「……」
「……ガー、ガー……」
「……ナツメさん……答えないのは俺の優しさだぞ」
「……ガー、ガー……ガー、ガー……ガー……」
こうして夢の魔法使いナツメさんを探す旅は終わった。そして本題が始まる。
◇◇◇
「──ラグン・ラグロクトは復活するガー。それは間違いないガー。だけどそれは吾輩が教えるまでもなく、ミヨクも予想していた事だろうガー?」
「うん。ラグンを一緒に封印した、“ソクゴ”が寿命で死んだ1年半くらい前から予想はしていたよ。ソクゴが死んだって事はラグンを封印していた3つの魔法の内の1つが解除されてしまうって事だから……」
「今から、45日後の14時26分だガー。それが正確な時間だガー」
「……そうか。割と時間が無いんだな」
「ガー。吾輩はラグン・ラグロクトの事を直接は知らないガー、世界は滅亡するかガー?」
「うん。かなりの高確率でする。ラグンはそういう奴だから。そんなラグンを倒す方法を俺は知らないから。ファファルも。また封印できればいいけど……前回の時も難しかったからね……。今回はソクゴとルアが居ないからたぶん無理だろうしね」
「ガー。ガー。それガー、その終焉が世界に定められた運命って事かガー?」
「……どうなんだろうね。もともとラグン・ラグロクトは神にとってもイレギュラーな存在だった筈だから……決まり事ではないと俺は思うけど、ただ、復活をしてそれを退治できなければ、結果的に世界は滅ぶよね」
「ガー。退治しに行くんだろガー?」
「いや、取り敢えず会いに行くって感じかな。ファファルもたぶん来るだろうし。戦うかどうかは先ずは会ってから決めるよ。勝ち目があるかどうかは別の話として」
「ガー、ガー。世界中の全員で戦えば倒せるんじゃないのガーか?」
「世界中の全員は俺かファファルでも倒せるよ。だから残念だけど役に立たないよ。ただ──」
「ただ? ガー、ガー?」
「もしかしたらこの事態に備えて何かは動いてるかもしれないね」
ミヨクはそう言ってチラリとハウに視線を移した。ハウはベッドの上でマイちゃんと楽しそうにじゃれあっていた。
「──確かな事は分からないけど、ラグン・ラグロクトを退治する何かがこの世界には既に存在しているのかも知れない。神の定めた運命によって」
「ガー。お前とファファル以外でガー? それは一体なんだガー?」
「それはまだ分からない。まだ俺の予測でしかないから。ただ俺がラグンに会いに行くのは変わらないよ。俺の行動に何者からも制限を敷かれてないって事は、俺が自由に動くのももしかしたら定められた運命の1つなのかもしれないから」
「ガー? 吾輩の夢の魔法でラグン・ラグロクトが復活したその後を見られたらいいのにガー。ガー、ガー」
「見られないのか?」
「ガー、ガー。見られる訳ないガー。吾輩が出来るのは吾輩が見た予知夢を他者に見せる事だけガー。ガー、ガー」
「……でも、お前さっき俺にラグンとは関係のない悪夢を見せてきたよな?」
「ガー、ガー。悪戯は別だガー。そういうのは世界中の誰にも見せる事が出来るガー。ガー、ガー」
「……世界中か……それはそれで凄いけどな……」
「ガー、ガー、吾輩も新法大者だからガー。魔力は強いからガー。悪戯をさせたら吾輩の右に出る者はいないガー。ガー、ガー」
「随分と悪戯に割いた魔力だな……」
ミヨクはそう言ったが、よく考えるとナツメさんは基本的には猫だもんな、と思った。感覚が人と異なっていて当たり前だ、と。猫は猫だもんな、と。
「──ところで、あの悪夢はなんであんなに酷い内容だったんだ? ゼンちゃんもマイちゃんも俺の頭を蹴っ飛ばしたりしないぞ。もっと性格のいい良い子だぞ」
「ガー、ガー、ガー。内容は吾輩は知らないガー、吾輩の夢の魔法は相手の心を不快にさせるガー。寝て起きたら凄く嫌な気分にさせるガー。もちろん逆に良い気分にしてやる事もできるガー。ただ基本的には嫌な気分にさせるガー。その方が吾輩は楽しいからガー、ガー、ガー」
そう言いながらナツメさんはゴロゴロと寝転がりながら、ガーガーガーと笑った。
「まさにお前の快楽の為の魔法って感じだな。でも、お前いい加減にしないと、今後お前からの魔法は完全に遮断しておくぞ」
「ガー。それは困るガー。そんな事されたガー、本当にピンチの時に予知夢を見せられなくなるガー」
「だったら、無駄な悪夢はやめろ」
「ガー、ガー、ガー。それとこれとは別だガー。悪夢で人の気分を不快にさせるのは吾輩の生きがいだガー、ガー、ガー。人の不幸は凄く笑えるんだガー、ガー、ガー」
その辺りでミヨクはナツメさん頭を持ち上げた。それに対してマイちゃんもゼンちゃんも何故だかもう何も言ってこなかった。
「……わ、分かったガー……。極力控えるようにするガー、ガー、ガー……ガー……」
それでもナツメさんは決して止めるとは言わなかったが、仕方がないのでミヨクも譲歩して許してやった。
「ただ、45日後か……ラグンの復活は……」
「そうガー。頑張るガー。ガー、ガー、ガー」
「まあ、なんとかね」
ミヨクはそう答えるとハウを見た。ハウはマイちゃんと手遊びをして楽しそうに笑っていた。
ルア──
神はどうする?
「ふははははははは!」
タイミングよく(?)ハウが高笑いをした。
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