第49話 リドミの大陸の夢の魔法使い⑧


 3人の兵士たちとの和解はなかなか難しく、それでもギクシャクとしながもミヨクたちは目的地のミモジの町まで連れていってもらった。


 夢の魔法使いに会いに行く以外に特別に用事はなかったのだが、善意で宿屋を案内され、ミヨクはなんとなく断り辛かったのでそこで取り敢えず休憩をする事にした。


「で、では、わ、我々はここで失礼致します。ご、ごゆっくりなさって下さいませ時の魔法使い様」


 顔中にいっぱいの汗と声を上擦らせながら去っていく3人の兵士たち。ミヨクは申し訳なさそうに「ありがとう」と礼を述べると、パタンとドアが閉まったタイミングでやってくるもう一つの重苦しい空気に、大きく息を吸ってから「よし」と気合いを入れて、それからゼンちゃんとマイちゃんに振り返った。


「……ミヨク……すまん」


 最初に口火を切ったのはゼンちゃんだった。その後でマイちゃんが今まで堪えていた涙を一気に溢れさせた。


「うおーん。ぐおーーんん! うぐおぉーーんん!! ミョクちゃん、ミョクちゃん、ごべんだざいっ!! オラ、オラ、うおーん。ぐおーんん! ごべん、ごべんだざいっ!!」


 ミヨクはそんな2人に近づき、その震える頭をただ優しく撫でてあげた。


「何も悪い事はしていないから反省も泣かなくていいよ。さっきも言ったけど友達の為に行動するのは良い事だよ。だから何も気にしなくていいよ」


「でも、でも、ミョクちゃんがごめんなさいをしていたから……ぐおーーん、ぐおーーん。やっぱりごべんだざい」


 ミヨクはそんな些細な事は気にしなくてもいいのにと思いながらも、今のネガティブな気持ちになっているゼンちゃんとマイちゃんには何を言っても伝わらないだろうと思い困っていると、ふと、ハウの事が気になった。


 ハウは状況をあまり理解できていないようだったが、取り敢えず場の雰囲気から騒いではいけないとは感じ取っているようで、けれどその表情はうずうずと遊びたさそうにしていた。


「……おや、ふかふかのベッドっぽいな。どれだけふかふかだろうかな?」


 ミヨクは不意にそんなよく分からない発言をした。だが、それに対してハウが「よし、わらが確かめてやるぞ!」と、ベッドにダイブをして、「おっ! おっ! 凄いぞ。凄いふかふかだぞ! 気持ちいいぞ! ふははははは!」と大いにはしゃいだ。


「だってさ、マイちゃんも試しておいで」


 とミヨクがそう言い、マイちゃんは渋々ながらもベッドに近づいていって、ハウに手を掴まれると強引にベッドにダイブさせられ、そしてようやく笑顔を取り戻した。


「──ゼンちゃんは?」


「オイラはそんなに単純じゃねーよ」


「そっか。でも今回の事は本当にそんなに重く考えなくていいよ。だから、マイちゃん達とベッドの上で遊んでおいでよ」


「……ミヨクがそう言うなら、分かったぞ。重く考えるのは止める。ただ、遊びはしないけどな。それとベッドは寝る場所だから、遊び場にするのはどうかと思うぞ」


「……うん。そうだね。遊び場にしてはいけないよね……うん、なんかごめん」


 ゼンちゃんに的確な事を言われて寧ろミヨクの方がネガティブな気持ちにさせられた。


「ところでミヨク、こんな所で時間を潰してていいのか? 夢の魔法使いに会いに来たんだろ?」


「そうなんだけど。せっかくさっきの兵士の3人が宿を取ってくれたから、すぐに出るのも気が引けてね……だから、もう少しだけここに居ようかと思っているんだ」


「オイラはミヨクが決めた事ならそれに従うけど、その間に逃げられるんじゃないのか? 夢の魔法使いは隠れん坊が好きなんだろ?」


「それは大丈夫。アイツが好きなのはあくまでも隠れん坊だから。この町に俺がやってきたらそれで終了だよ。もしも鬼ごっこを挑んできたとしても俺からは逃げられないよ。世界の時間を止める事ができる俺は鬼ごっこ最強だからね。だから別に焦らなくてもいいんだ」


 そう、隠れん坊は今の時点で終了。


 ただし──ミヨクが迂闊にも眠りさえしなければ。

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